新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第77話 公認ファンクラブ

「はい、休憩!みんな、少し休もう!」 ケンスケが声をかけると、場の雰囲気が緩んだ。 「はい、タオルをどうぞ、ジャネットさん。」 ユキが裸のジャネットに大きめのタオルを差し出した。 「ありがとう、森川さん。」 ジャネットは、恥ずかしそうにタオルを受け取った。 「ニールさんもどうぞ。」 これまた裸のニールに、ユキはタオルを渡した。 「ああ、ありがとう。」 ニールはにっこり笑って礼を言った。 そう、今日はジャネットのヌード写真集の撮影を行っているのだった。ケンスケが撮影す るのだが、当然助手はユキである。ケンスケが裸の女の子の撮影をするなんて、ユキは当 然面白くないが、アスカからも頼まれているので渋々手伝うという感じである。 「冷たいものでもどうかしら。アイスコーヒーを用意したわ。」 タイミング良く、お盆に人数分のグラスを載せて、アニーがやって来た。 「あっ、アニーさん。ありがとうございます。私も運びます。」 ユキが小走りに近付く。 「ええ、ありがとう。」 そうして二人で飲み物をみんなに配った。 *** 「はあっ、アニーにはやられたわね。まさか、イライザがアニーに言うとはね。おかげで 作戦は大失敗。私はこんな目にあうし、いやになっちゃうわ。」 アニーを見たジャネットは、そう言ってぼやいた。ジャネットは、襲撃作戦が失敗したの は、アニーから情報がもれたからだと考えていたからだ。 情報がもれていなくても、アスカの護衛のミリアやサグのメンバーが常時アスカをガード しているのだから、襲撃作戦が成功するはずはないのだが、そんなことはジャネットには 分からない。すっかりアニーのせいだと思っていた。 「イライザが言わなくても、テリーが私に言ったはずよ。大体、アスカさんを襲ったりす るなんて、狂気の沙汰よ。もし、このことが碇君の耳に入ったら、大変なことになるわよ。 イライザなんて、アスカさんの悪口を言っただけで引っぱたかれたんだから。」 「そうねえ。そう考えると、失敗して良かったかもね。」 ジャネットは、ため息をつく。 「そうそう。俺もこんな役得が回ってきたしな。」 ニールはそう言って笑う。ニールの手は、良く見るとジャネットのお尻を撫で回している。 それも、アニーには見えないように。 「そうよ。それに、そんなことをしたら私が許さないわよ。」 ジャネットの苦境に気付かぬアニーは、そう言って胸を張る。 「何を話しているんですか。」 そこにユキがやって来た。ユキはアスカ襲撃未遂事件のことは知らないため、ジャネット は意図的に話題を変えた。ニールも、さっと手を引っ込めた。 「しっかし、アニーがイギリスの惣流アスカファンクラブの会長とはねえ。驚いたわよ。」 「そりゃあそうよ。イライザにだって、内緒にしていたんだもの。」 「でも、驚きました。メールでのやりとりはしていたんですが、アニーさんが会長だって 知った時は本当にびっくりしましたよ。」 ユキも驚きの表情だった。 「それで、テリーがアメリカ、ザナドがエジプトで、それぞれファンクラブの会長とはね。 恐れ入ったわよ。そこでつながっていた訳ね。」 ジャネットがため息まじりに言ったが、アニーはやんわり否定した。 「う〜ん、少し違うわね。イライザとニールはいとこで、私とテリーはその線で知り合い なの。ザナドとは、ファンクラブの会長同士だっていうことが分かったからで、こっちに 来てからの付き合いなのよ。」 ここで解説しよう。今回のアスカ襲撃作戦は、ナスターシャら3人組が、研修生の男子を 3〜4人集めてアスカを襲わせようとしたもので、ナスターシャはイライザに目を付けて ニールやテリーを引き込もうと考えていた。 だが、イライザがアニーに相談した時点で、アニーに猛反対され、『シンジにばれたら、 絶対に嫌われる。』という言葉が決め手となって、結局イライザは手を引くことにして、 ニール達にも声はかけなかった。それでアニーがテリーやザナドに襲撃作戦の阻止を相談 したのだ。 3人とも、自分の国では惣流アスカファンクラブの会長であり、ハンドルネームではメー ルのやりとりは結構している仲だった。 それが、日本の第3新東京市に行くということをお互いに話したことから、お互いの素性 が分かったのである。そして、日本に来てからも、みんなには内緒で、お互いに集めたア スカの情報を交換するなどして、連絡を取り合っていた仲という訳だったのだ。 アニーの相談に対し、サーシャからケンスケのことを聞いていたザナドの発案で、襲撃作 戦を阻止すると同時に、アスカの下僕にしてもらうことにしたのである。 結果は、アスカ襲撃作戦はザナド達によって阻止され、実行に移そうとした2人の研修生 達は、揃って帰国させられた。万一シンジに知られて、シンジが暴走しては困ると考えた アスカの判断である。 黒幕のナスターシャやジャネット達は、恥ずかしい写真をたくさん撮られたうえに、ケン スケの手によるヌード写真集を作るはめになったが、国へ強制送還されることは免れてい た。 だが、今日撮影されるヌード写真の一部は、ホームページ上で後日公開される予定である。 もっとも、今後のアスカに対するナスターシャ達の態度によっては、公開時期が遅れたり、 比較的おとなしめの写真が使われる可能性が高まるのだ。例えば、背中からのショットだ けになるといったような具合に。 これで、事実上ジャネット達はアスカの下僕状態になった。アスカに対しては、一切の反 論や口答えが出来なくなってしまったのだ。もし、アスカに少しでも反抗する気配を見せ たら、恥ずかしい写真がネルフやアスカファンクラブのホームページに載って、死ぬほど 恥ずかしい思いをすることになるからだ。 「そうだ、ユキさん。相田君と惣流さんのファンクラブの話をしましょうよ。」 「ええ、いいわ。」 話が一段落すると、アニーはユキに声をかけた。そして、すがるような目をして、心の中 で『行かないで〜っ!』と大声で叫んでいるジャネットを置いて、二人はケンスケのもと へと向かった。 これは、アスカを襲おうとしたジャネットに対するアニーのささやかな嫌がらせであった。 「へ〜っ、アニーは気が利くなあ。さすが、イライザの友達だぜ。」 と言いつつ、ニールがすり寄ってきてジャネットの後ろから手を回して胸をもむ。 「う〜ん、極楽、極楽。」 一方のジャネットは、されるがままである。ここでニールにひじ鉄でも食らわせてやりた いが、そうなると別の相手を探さなくてはならず、その相手がもっといやらしい男ではな いという保証は無いからだ。 しかも、ユキやケンスケには本当の事は言えないので、一緒に写真を撮るのは恋人同士だ からと嘘をついている。その嘘がばれて困るのはニールではなく、ジャネットなのである。 だから、ジャネットはどんなにいやらしいことをされても、反抗出来ないのだ。 だが、さすがのニールも、近くに女の子がいればジャネットにいやらしいことは出来ない が、離れてしまえばその歯止めが無くなり、いやらしいことをし放題となる。アニーはそ れを知っているからこそユキをジャネットから引き離したのである。 「あっ、ジャネットさん達、いちゃいちゃしてますねえ。」 「邪魔しちゃ悪いから、しばらくは二人きりにしてあげましょうよ。」 「ええ、そうですね。」 抱き合って熱烈なキスをしている二人を見て、ユキの顔は赤くなっていたが、アニーはク スクスと笑っていた。 だが10分後、ジャネットの股間でニールの手が激しく動いているのが、タオルの上からで もはっきりと分かるようになったのを見て、さすがにアニーも可哀相にと思って、ジャネ ットのもとへと戻っていったのである。 危機一髪のところで戻ったアニーに、ジャネットは嬉し涙を流さんばかりであった。 ***  数日後、ユキとアニーが揃ってアスカのところへとやって来た。用件は、惣流アスカフ ァンクラブの公認に関することである。このため、サーシャもザナドの代理としてやって 来ていた。 あんまり知らない男が来ると、シンジの機嫌が目に見えて悪くなるため、ザナドとテリー は来ていない。それぞれ、サーシャとアニーに全権委任である。 「あのお、惣流さん。いかがですか。」 一通りアスカとシンジに説明した後で、ユキが問いかけた。 「そうねえ、大体こんなもんかしら。アタシはいいわよ。シンジはどう?」 「そうだね。まあ、いいかなあ。」 シンジはニコニコしている。自分とアスカの仲を応援するファンクラブと知って、物凄く 機嫌がいいようだ。 「それじゃあ、世界初の惣流さん公認ファンクラブの誕生ですね。本部は日本で、会長は 私、森川ユキが務めさせていただきます。それで、ヨーロッパ支部長がアニーさんという ことで。但し、メンバーは女性のみになります。また、略称はA.F.Cです。 それから、惣流さんと碇君を応援する会も、A.F.Cの下部組織として発足します。こ れまた本部は日本で、会長は相田君、副会長は私が。アメリカ支部長がテリー君、アジア・ アフリカ支部長がザナド君、ヨーロッパ支部長がイライザさんですね。」 「う〜ん、そこは気に入らないわねえ。」 アスカの顔が少し歪む。そこに、慌てたアニーが必死にとりなす。 「ほ、本人も反省していますから、許してあげてください。」 アニーはそう言いながら、ぺこぺこと頭を何度も下げた。 「ねえ、アスカ。許してあげたら。本人も反省しているんでしょ。」 サーシャも口添えする。 「そうねえ、どうしようかなあ。シンジはどう思う。」 「そうだね、僕もあの人は気に入らないな。反省したと言っても、口だけかもしれないし ね。」 「そ、そんなあ〜。」 アニーは泣きそうになった。 「まあ、この件は保留にしましょう。今すぐに決めなくてもいいし。」 アスカがそう言うと、アニーがアスカの袖を引っ張った。 「あの、ちょっとお話が。」 「何よ。ここでは言えないの?」 「ええ、みんなには聞かれたくないので。」 「アタシはここを動くのは嫌よ。」 「じゃあ、ちょっと聞いてくださいね。」 アニーは、アスカの耳元でみんなに聞こえないように話をした。それによると、イライザ もアスカの下僕になるとのことで、ザナド達と同じく恥ずかしい写真を撮ったらしい。 「ふうん、ちょっと見せてみなさいよ。」 「これです。」 アニーの差し出したミニアルバムには、確かに他人には見せられないような、イライザの 恥ずかしい写真がたくさんあった。 (うわっ!結構恥ずかしい写真じゃない。よくこんなのを撮ったわね。反省は…あの性格 だから絶対にしていないわね。でも、シンジには好感を持たれたいってことね。その心は、 エヴァのパイロットになりたいっていうことかしらね。で、考えた末に、アタシには絶対 に反抗しないっていう証しを持ってきたと。まあ、そういうことならいいか。) 「ふうん、少しは反省しているようね。分かったわ。許してあげる。シンジもいいわね。」 「うん、アスカがそう言うのなら。」 「あ、ありがとうございます。」 アニーは、ほっと胸をなでおろした。アスカの方が上手なのだが、それには気付いていな いようだ。 「でも、それって何なの。見せてよ。」 シンジが覗いてきたが、アスカは慌ててその写真を隠した。 「じゃ、じゃあ、次の話に。会の略称は、ラングレー・アスカ、アンド、シンジ、ファン、 クラブ、それぞれの頭文字を取って、L.A.S.F.C 又はL.A.S にします。それでいいですよ ね。」 「いいんじゃない。」 アスカがGOサインを出し、シンジが頷いた。これで決まりである。 「それでは、惣流さん。ネルフのホームページからのリンクをお願いします。」 「ええ、いいわ。」 「アニーさん、サーシャさん、各支部のホームページの管理運営をお願いします。」 「任せておいて。」 「こっちも準備万端よ。」 かくして、アスカ公認のアスカファンクラブと、シンジも公認の L.A.Sファンクラブが誕 生したのである。 むろん、L.A.S の本当の意味は違うのだが、A.A.S では語呂が悪いとみんなでアスカを騙 したのである。本当の意味を教えてもらったシンジは、諸手を挙げて賛成したという。 (第77.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  とうとう、アスカ公認のファンクラブが誕生しました。でも、非公認のファンクラブは、 映画の発表後に次々と出来ていったようです。   2003.6.28  written by red-x