新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第65話 テニス部初練習

「そりゃあっ、スマッシュ!」 「うわあっ!惣流さん、もっと手加減してくださいよっ。」 今日は、火曜日。アスカやシンジ達にとって、初めてのテニスの日だ。アスカは、思いっ きり体を動かせるので、ニコニコ顔である。だが、たまらないのは、アスカの練習相手だ。 テニスラケットを握るのが今日で2回目だというアスカに対して、最初は2年生の女子が 練習相手を務めたのだが、スポーツ万能のアスカはすぐに2年生では手に負えなくなり、 3年で一番上手い女子でももうアスカの球を返すのが辛いようだ。 「そっ、惣流さん。頼みますから男子とやってください。私ではもう無理です。」 今まで練習相手を務めていた、田中ミナという3年で一番上手い女子は、肩で息をしなが らそう言った。かなり辛そうな感じだった。 「はははっ。ちょっと調子に乗ったちゃったかしらね。」 (う〜ん、全力じゃなかったんだけどな。) 頭をかくアスカに、ユキが近寄ってきた。 「すみません、惣流さん。男子と一緒に練習してくれませんか。女子は、惣流さんと打ち 合えるだけの人がもういないんです。」 だが、アスカはユキの耳元に口を近づけ、小声で言った。 「アタシはいいけどさ、シンジが機嫌悪くなるのよね。どうしようか。」 ユキは、ちらりとシンジを盗み見た。すると、やっぱりというか、シンジはアスカのこと をちらちらと見ていた。ユキも、シンジが結構嫉妬深いことを薄々ながら知っていたので、 ため息をついた。 「はあっ、分かりました。私と打ちましょう。でも、手加減してくださいね。」 ユキは、アスカが左手でラケットを握っているのに気づかなかったようだ。かなり手加減 したつもりのアスカにとっては、少々無理な注文であったが、アスカもせっかくの楽しい 気分をぶち壊したくはなかった。 「分かってるって。」 (ラケットはこれ以上重く出来ないから、リストバンドの重りを増やすしかないわね。) アスカは苦笑いしながら、ラケットケースから重りを取り出すことにした。むろん、誰に も気づかれないようにと気を配りながら。 一方、シンジは2年生に混じって練習をしていた。アスカが一緒に打とうと誘ったのだが、 基本的なことをしっかり練習したいと言って断ったのだ。 そこで、カヲルやケンスケと一緒に、3年男子の打ち出した球を5球交代で打ち返す練習 をしていた。 「えいっ!」 「おっと!」 「それっ!」 「たあっ!」 「あれっ!」 5球とも渾身の力を込めて打ち返すシンジだったが、うち2球はコートの外に出てしまっ た。いわゆる、『アウト』である。 「あ〜あ、うまくいかないなあ。」 シンジは、ちらりとアスカの方を見た。今日のアスカは、白を基調にしたウエアを着てい た。だが、真っ白ではなく、上下ともに何本かの赤いラインが縦に入っており、それが良 いアクセントとなっていた。 スコートからは、アスカの白くて細長くて綺麗な足が伸びていた。心なしか、誰もがアス カの足を見つめているような気がして、最初は面白くなかった。だが、ちらちらと見てい るうちに、何となく良い気分になっていった。 こうやって、改めて見てみると、アスカは顔は綺麗だし、スタイルも抜群だから、どんな ものを着ても良く似合う。それに、笑顔がとっても可愛いのだ。アスカの笑顔を見ている だけで、シンジは何となく良い気分になれるのだ。 胸も綾波よりは少し小さい感じがするが、平均よりかなり大きく、他の女子と比べると、 その差は歴然としていた。 それに、頭が物凄く良くて、スポーツも万能だし、まさに完璧とも言える女の子だ。自分 がエヴァのパイロットでなかったら、見向きもされなかったんじゃないかと思えてくる。 シンジは、アスカのことがいとおしいと思うのと同時に、誰かに奪われてしまうのではな いかという恐れも少しながら抱いていた。婚約を解消した時にかなりがっくりきたのは、 記憶に新しいが、おそらくそれが大きな理由だったのだろう。 だから、シンジはアスカの足をといえども、他の男子に見られるのは面白くなかったのだ。 アスカを見た者が、みんなアスカの虜になってしまう、そしていつか誰かがアスカを奪っ ていってしまう、そんな風に考えてしまっていたのだ。 その一方で、シンジはアスカの足を誰にも触らせない、自分だけのものにしたいとの独占 欲が生じてきたことに気付き、我ながら驚きを感じでいた。 そこに、トウジがニコニコしながら声を掛けてきた。 「どうしたんや、シンジ。誰かさんの足に見とれたか。」 「そっ、そんなことないよっ!ア、アスカの足なんか、別に、普通じゃないかっ!」 「ほう、ワイは惣流の足やなんて、一言もいうてへんで。」 トウジはニヤリと笑う。 「あっ。ひ、ひどいな、トウジ。意地悪なこと言って。」 シンジはちょっとむっとした。 「まあまあ、怒りなさんなって。好きなおなごの足を見ることは、ちいとも変やない。年 頃の男の子にとっては、普通の反応や。」 さらにトウジの笑みは増していく。 「ふうん、じゃあトウジは洞木さんの足を見ているんだ。」 さすがにカチンときたシンジは、逆襲に出た。今度はトウジが慌てる番だ。 「そ、そないなこと、あらへん。ヒカリの足は、太くて見られたもんじゃあらへんで。」 だが、トウジの言葉を聞いていたのは、シンジだけではなかった。 「ふうん、太くて悪かったわね。」 気がついた時には、目をつり上げたヒカリが2人の後ろに立っていた。 「ヒ、ヒカリ、すまん。いまのは、ワイの本心じゃないんや。ご、誤解や。」 「あっそ!フンだっ!」 ヒカリは、足をドスドスと強く踏みながら去って行った。きっと、物凄く怒っているのだ ろう。 「シンジ、頼む。惣流に言って、誤解を解いてくれや。」 手を合わせて頭を下げるトウジに、シンジはあきれたが、明日は我が身と思いなおして、 首を縦に振った。 *** 「ねえ、アスカ。ちょっとお願いがあるんだけど。」 練習が終わって、さて着替えようという時になって、アスカのところにシンジが来た。 「何よ、後にしてよ。」 早くシャワーを浴びたいアスカは、思いっきりしかめっ面をした。 「頼む。今聞いて欲しいんだ。」 だが、普段ならすぐに引っ込むはずのシンジが、今回はちと様子が違う。 (う〜ん、どうしようか。早くシャワーを浴びたいんだけど、シンジは困っていそうだし。 話しぐらいは聞いてあげようかしら。でも、少しは恩を売っておこうっと。) アスカは一瞬で頭を切り換えた。 「分かったわ。じゃあ、貸しが一つよ。早く言いなさいよ。」 「うん、実はトウジがね…。」 アスカは、シンジの話しを聞いて吹き出しそうになったが、急ぐ理由も分かった。下手を すると、トウジは明朝、あるいはそれ以降もメシ抜きになる可能性がある。 「分かったわ。ヒカリには、上手く言っておくわ。でも、シンジを悪者にするからね。そ れでも良いわよね。」 「うん、頼むよ。」 「じゃあ、行くわね。今ならまだ間に合うから。」 アスカは、急ぎ女子テニス部の部室へと走って行った。 「ねえ、ヒカリ。ちょっといいかしら。」 「なによ、アスカ。」 「さっき、鈴原と何かあったでしょ。」 「なっ、何も無いわよ。」 「嘘。シンジから聞いたわよ。」 「それで、何よ。」 「うん、シンジから伝言ね。ヒカリにごめんなさいって謝って欲しいって。」 「どうして、碇君が謝るの?」 「鈴原がね、ヒカリの足を見ていたから、シンジがからかったらしいのよ。それで、鈴原 が照れ隠しに『ヒカリの足が太い。』って言っちゃったらしいのよ。」 「そ、そうだったの。」 「鈴原も、悪気があった訳じゃないみたいだし、許してあげなさいよ。」 「分かったわ。でも、アスカが碇君に同じことを言われたらどうする?」 「もちろん、許さないわよ。だって、力関係が、ヒカリ達と違うもの。」 「ア、アスカ。そこまで言う?」 ヒカリは、少し冷や汗をかいたようだ。 「惣流さん、それはちょっと言い過ぎじゃあ。」 ユキも、珍しくアスカに意見した。 「・・・・・」 マリアは、何と言っていいのか、迷って言えないようだ。 「良いのよっ!アイツは、心底アタシに惚れているんだからっ!」 アスカが腰に両手を添えて、胸を張るのを見て、ヒカリも毒気を抜かれてしまい、トウジ のことは、一件落着となった。 *** 「シンジ、お待たせっ!」 「うん、それじゃあ行こうよ。」 いつも帰るときは、アスカ、ヒカリ、ユキ、マリアの4人が先頭に立って歩き、その後を シンジ、トウジ、ケンスケ、カヲルが歩いていく。 今日は、いったん家に戻って荷物を置き、夕食を済ませてから、ネルフへと向かうのだ。 だから、夕食は温めればすぐ食べられるものにしている。 最初は、シンジやトウジ達はネルフの食堂で食べると言い、ユキは早く帰って食事の支度 をするからみんなで一緒に食べたいと言い張ったのだが、みんなで一緒に帰りたいという アスカの意見が最終的に通り、このような形になったのである。 みんなで帰ろうとしたその時、さっそうとマナが現れた。 「シンジ、ちょっと話があるんだけど。少しでいいから、時間くれないかな。」 「ご、ごめん。今日はこれからネルフへ行くんだ。だから、また今度にしてよ。」 「ええ〜っ。本当なの、シンジ?どっかの怖い人に脅されているんじゃないの?」 「へっ?」 シンジは、間の抜けたような顔をした。アスカのことを言っているとは分からなかったよ うだ。 「ううん、なんでもない。じゃあ、またね。頑張ってね、シ・ン・ジ。」 マナは首を傾げ、シンジに微笑みかけると、回れ右をして去って行った。残された8人と も、呆気のにとられていたが、最初にカヲルが口を開いた。 「シンジ君、今の人は誰だい?」 「ああ、カヲル君は初めて会ったんだよね。彼女は、霧島マナさんといって、2年生の時 に僕達と同じクラスに転校して来たんだ。でも、直ぐに他の学校へ転校して行ったんだよ。 それが、またこちらに来たんだ。」 「彼女は、シンジ君のことが好きなようだね。」 「そ、そうかな。」 「シンジ君は、彼女のことが好きかい?」 カヲルのストレートな問いかけに、周りの人間は身を固くしたが、シンジは鈍感なためか、 気付かないようだった。 「うん、好きだよ。」 (ぬあんですって!!!) それを聞いたアスカの顔は、真っ赤になっていった。そんなアスカの様子を見て、シンジと カヲルを除いた5人が真っ青になる。 (シ、シンジの奴、惣流の前で、なんてこと言うんだよ。絶対まずいよ。) (シンジのど阿呆。ワイかて、ヒカリの前ではそんなこと言うわへんで。こいつは、本当に 鈍感なやっちゃ。) (碇君、アスカの前なんだから、もう少し気を遣って。はあっ、当分、アスカの機嫌が悪く なるわね。) (碇君、惣流さんの前でなんてことを。許せないわ。) (まっ、まずい。アスカが怒ってる。こんなに怒ったアスカは、ドイツでも見たことないわ。 は、早く逃げないと。) だが、続くカヲルの問いに、雰囲気は一変した。 「シンジ君、冷たいねえ。僕よりも、あの、マナっていう娘の方が好きなのかい。」 「そ、そんなことないよ。カヲル君の方が好きだよ。」 「良かった、シンジ君。じゃあ、僕よりも好きな女の子はいないんだね。」 「ちょ、ちょっと、そんなこと言ってないよ。」 「シンジ君、まさか、僕よりも好きな女の子がいるんじゃないだろうね。」 「カ、カヲル君。知っているくせに、そんなこと言わないでよ。」 「おや、僕には分からないよ、シンジ君。はっきり言ってくれないと。」 「い、いやだよ。だって、みんなが聞いているのに。」 だが、こぞとばかりにマリアが口を出した。 「碇君、言わなくては駄目よ。碇君には、貸しがあったわよね。だから、絶対に言って。」 「そうですよ、言わなくちゃ駄目ですよ。」 ユキもキツイ目をしてマリアに加勢する。 「碇君、言いなさいよっ。」 なんと、ヒカリまでもが敵に回ってしまった。 「シンジ、言えよ。」 「そうや、そうや。」 男の友情も、あてにならなかった。 「もう、みんな知ってるくせに。分かった、言うよっ!僕は、カヲル君よりも、ずっと、 ずっと、アスカのことが好きだよっ!」 シンジは、大きな声で叫ぶと、顔を真っ赤にしていた。 「じゃあ、霧島さんとアスカはどっちが好き?」 マリアの問いかけに、シンジは即答した。 「アスカに決まってるよっ!もうっ、みんな意地悪なんだからっ!」 (ふふん、そうよね。シンジが、アタシよりもあんな女を好きなわけ、ないわよね。) 急に顔に明るさが戻ったアスカを見て、頬を膨らますシンジを横目に、周りの者は一様に ほっとしていた。 こうして、テニス部の練習初日は、波瀾含みで終わったのである。 (第65.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  あくまでも、アスカ一筋のシンジでした。でも、マナがこのままあっさりと諦めるとは 思えませんし、研修生達の動向も気になります。もしかしたら、卑劣な罠が待っているか もしれません。   2002.12.30  written by red-x



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