新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第61話 波乱の研修生

「あ〜あ、眠いわねえ。」 (本当に、眠いわよね。) アスカは眠そうな顔をして、あくびをした。 「何言ってるのさ。最近のアスカは、一杯寝ているくせに。」 「シンジのくせに、うっさいわねえ。」 (バカ。誰もいないから良いけど、そんなこと言わないでよね。) アスカは頬を膨らませた。 「なんだよ、怒らないでよ。」 「ふん、良いでしょ。さあて、朝御飯でも食べましょうよ。」 (そうそう、腹が減っては、戦は出来ぬってね。) そう言いながら、アスカは自分の部屋へと戻って行った。 「おはようございます、惣流さん。」 「惣流、おはよう。」 アスカが朝食を食べようとダイニングに入ると、ユキとケンスケが声をかけてきた。 「ああ、おはよう。ユキに相田。あれ、待ってたの?」 (ふっふっふ。最近、二人とも仲が良いわね。) 「そうですよ。惣流さんと一緒に食べたかったから。」 とユキ。 「悪いわね。シンジも、もうすぐ来るから、そしたら食べましょう。」 (本当かしら。でも、まあいいか。) 「ええ、いいですよ。」 「じゃあ、アタシはリツコを起こすから、相田は日向さんと渚を連れてきなさいよ。」 「ああ、分かったよ。」 こうして、いつもの朝食風景が始まる。ミサト達は新婚旅行に行っているため、アスカ、 シンジ、ユキ、ケンスケ、リツコ、マコト、カヲルの7人で食事をするのだ。 ちなみに、トウジとヒカリは小さい子供達と一緒に食べている。 「ねえ、リツコ。ミサトはいつ新婚旅行から戻ってくるんだっけ。」 「そうね、5日かしら。結婚休暇は10日間のはずだから。」 「始業式まで、日が余り無いけど、大丈夫かしら。」 「大丈夫よ、ミサトのことだから。」 「まあ、リツコが言うなら間違いないでしょうけど。」 そこに、シンジが口をはさんだ。 「それより、アスカ。今日研修生が来るんでしょ。ちょっと緊張しちゃうよね。」 「えっ、なんでよ。」 「だって、きっとみんな、僕よりも凄い人ばっかりなんだろうと思うと、緊張しちゃうよ。 みんな、エリート中のエリートなんでしょ。」 「なあに、心配してんのよ。シンジは、このアタシにすら勝ったんだから、心配なんて、 しなくても良いのよ。」 「そうは言ってもなあ。」 シンジは、結構心配だったのである。 *** 「初めまして、研修生の皆さん。技術部の部長代行の伊吹マヤです。」 「作戦部の部長代行の日向マコトです。」 「作戦部の青葉シゲルです。」 「作戦部の、エヴァンゲリオン、チーフパイロット、碇シンジです。」 「作戦部の、エヴァンゲリオン、サブチーフパイロット、鈴原トウジです。」 「作戦部のパイロット、渚カヲルです。」 「広報部のチーフ兼総務部のパイロット担当チーフ、惣流・アスカ・ラングレーです。」 研修生の受け入れは2段階で行われた。最初は儀礼的なもので、ネルフ最高幹部のゲンド ウ、冬月、リツコの3人で、各支部から送られてきた研修生、即ちパイロット候補生達に 訓示を行った。時間にして30分ほどだった。 その次は、ゲンドウや冬月と別れ、リツコに連れられて、実際に研修に携わるメンバーと の顔合わせである。本来は、パイロットは作戦部所属なのだが、戦闘時以外は技術部との 結びつきが強いため、研修生は技術部所属とされたのだ。そこで、今こうしてネルフの研 修生担当者が研修生達に自己紹介をしているのである。 「それでは、次にあなた達の先輩を紹介します。」 リツコの合図で、ケンスケ達が入って来た。 「では、各自自己紹介をして下さい。」 リツコの目配せにより、ケンスケが最初に口火を開いた。 「本部所属の相田ケンスケです。皆さんよりも少しだけ先輩ですので、分からないことが あったら、何でも聞いてください。」 「アメリカ支部所属のアリオス・テオマンです。よろしく。」 「アメリカ支部所属のアールコート・マリウスです。よろしくね。」 「アメリカ第3支部所属のキャシーです。よろしくね。」 「エジプト支部所属のサーシャです。よろしくね。」 「中国支部所属のリン・ミンメイです。よろしくね。」 「ドイツ支部所属のマリア・カスタードです。よろしくね。」 「ブラジル支部所属のマックスです。よろしく。」 「ブラジル支部所属のミリアだ。よろしく。」 「フランス支部所属のハウレーン・プロヴァンスだ。よろしく。」 最後の自己紹介が終わると、リツコはマヤに目配せして、一歩前に進ませた。 「これからの研修については、この伊吹マヤ部長代行が責任者となります。これからも顔 を合わせる事が多くなることと思われますので、覚えておいてください。」 リツコの言葉を受けて、マヤは軽く一礼した。 「今、ご紹介に預かりました伊吹マヤです。今回の研修は、半年から1年を予定していま す。長い間皆さんとご一緒すると思いますが、困ったことがありましたら、遠慮なくご相 談下さい。では、皆さんこちらへどうぞ。」 マヤに案内されて、研修生は別の部屋へと移動した。学校の教室と同じような広さのその 部屋には、学校と同じような感じで、横6縦8の、机が48と、同数の椅子が配置されて いた。 「皆さん、名札のある位置にご着席下さい。」 マヤに言われた通り、研修生達は自分の名札がある席に座る。ケンスケ達も同様である。 そして、教室の教壇に当たる位置に椅子が並べてあり、そこにマヤとシゲルが座る。そし て、研修生の後ろにはアスカ、シンジ、トウジ、カヲルが座った。 「では、最初に他己紹介をします。隣の席の人と向き合って下さい。」 マヤの言葉に従い、即席のペアが出来上がる。男同士、女同士のペアである。 「普通なら、自己紹介というところなのですが、今回はちょっと捻って、お互いのペアの 紹介をしてもらいます。今、皆さんの目の前にいる人とは、1カ月間はペアを組んでもら います。従って、お互いのことを良く知ってもらうためにも、他人に紹介出来る位になっ てほしいのです。今から、20分間時間をあげます。その間に、お互いのペアのことを一 通り紹介出来るようにしてください。では、始めて下さい。」 マヤの合図に、一部研修生は青くなったが、さすがに優秀な子供が多いようで、少しの驚 きの後に、お互いのペアのことを聞き始めた。その後、順番にお互いのペアの紹介をして いった。 こうして、午前中は顔合わせだけで終わったのである。 *** 「むうっ、一体何なのよっ!」 「どうして怒るんだよ。」 アスカは何故か怒っていた。今は食堂で昼食を食べ終わって、コーヒータイムである。こ こにいるメンバーは、アスカ、シンジ、トウジ、ケンスケ、カヲルそしてマリアであった。 シンジがなだめるが、効果は無い。実は研修生達は、異口同音に、男子は『アスカさんの ファンです。』と言ったのだ。それだけならまだしも、女子も同様に『碇さんのファンで す。』と言ったのだ。だから、アスカは面白くなく、鈍いシンジは怒るアスカの気持ちが 分からなかったのだ。 「まあまあ、惣流。怒るんやない。シンジかて、他の女に目が移る訳ないやないか。」 とトウジ。 「そうだよ。シンジは惣流一筋だし。」 とケンスケ。 それを聞いたアスカは、少しだけ機嫌が良くなったようだ。険しい顔が元に戻っていく。 それを見たトウジは、話をそらそうと、別の話題を持ち出した。アスカが食いつきそうな 話題を。 「でも、なんや、あの、タコ紹介ちゅう奴は?食べるタコかいな?」 「あのねえ、他人が己を紹介するっていう意味で、他己紹介って言うのよ。自己紹介なら、 小学生だって出来るでしょ。大学生や社会人になると、他人の紹介も当たり前のように出 来なきゃいけないのよ。一般人に出来ることなら、当然研修生達も当然のように出来なき ゃいけないのよ。」 アスカは少し呆れたが、トウジが不思議に思うのも無理はない。常に、社会人というより、 軍人の大人達と接して来たアスカと、同じような理解をしろと言う方が無理なのだ。 「それが分からへんのや。」 「良い?あれは、人の話から情報を読み取る情報分析能力を見るのと、情報をいかに端的 に、正確に伝えられるかという能力を見るために行うのよ。それも、基礎中の基礎ね。そ れが、戦闘中にいかに情報を分析して勝利に結びつけられるかっていうことに繋がるのよ。 簡単に言うと、相手の攻撃を見切って、相手に効果的な攻撃を加えるって言うことね。」 「ふうん、そういうもんかいな。」 トウジは、さっぱり分からなかった。 「でも、アスカ。話は変わるけど、研修生達って、1年も本部にいるの?」 「そうねえ。長い人で、それ位ね。」 そう言いながら、アスカは何故研修生が来たのかということを最初からから説明した。 ゼーレを倒した後、国連内部でネルフをどうするのかを話し合ったのだが、使徒の脅威が 去っていないことから、今後も当分の間存続することが決まったのだ。だが、ネルフが抱 える軍事力が強大であるため、国連は軍事力の提供を要望したのだ。 ゼーレという巨大な力が崩れさったため、当面はゼーレが押さえ込んできた争いが再発し、 今後は様々な紛争が起きる可能性があると、国連事務総長らは考えたのだ。20世紀の終 わり頃にソ連が崩壊した後、民族紛争が多発したように、今後各地で紛争が起きると予想 したのだ。 当然、紛争を静めるには、平和的な解決方法が望ましいが、軍事力を行使する必要性も否 定出来ない。それに、軍事力の裏付けが無いと、平和的な解決さえ難しいのが現実なのだ。 だが、国連には、軍事力を支えるだけの組織や装備が無く、一から築くだけの金も無い。 それに、今まではゼーレに頼っていたため、各国に対して軍事面の協力を得られる可能性 は低かった。したがって、一定の予算は出すから、ネルフの軍事力を借りたいというもの だった。 ネルフの協力が得られると、各国へも睨みが効く。エヴァンゲリオンという強力無比の兵 器の後ろ楯があるということは、想像を絶する効果を持つからだ。 例えば、軍事協力をある国に要請した場合、エヴァンゲリオンが無いと、冷たくあしらわ れること間違いないが、エヴァンゲリオンがあると、下手に因縁をつけられて攻めこまれ ては大変と、相手が勝手に思い込み、要請以上の協力を得られる可能性があるのだ。 この話は、国連にとって、膨大な資金を節約出来、各国に対する影響力が増大するという、 とてつもなく大きなメリットがある。 だが、ネルフにとっても、組織を存続させるための名目が増えるし、平和維持活動を行う ことが、職員の士気高揚やネルフのイメージアップに役立つと考えられるのだ。 こうして、国連の要請に応じて、ネルフは引き続き国連の一組織として留まることを選択 し、平和維持活動軍の中核の役割を担うことになったのだ。 但し、ネルフとしては、人的被害は極力少なくしたいという思いがある。それは、ゲンド ウや冬月も同じで、ネルフとしては、あくまでも対使徒迎撃機関としての活動が最優先な のだ。それなのに、人間相手の戦いで人材を失いたくはないのだ。   そのためには、エヴァを使うのが最もネルフにとって人的被害が少なくなる可能性が高い。 だが、パイロットがシンジやトウジでは、人間相手に戦うのは困難だろう。ATフィール ドで味方の軍を守る位のことしか出来ないだろう。 そこで、各国支部に協力を要請し、軍事作戦に参加出来るパイロット候補生を選抜するよ うに依頼したのだ。つまり、人間相手の戦闘は支部のエヴァが行い、使徒相手の戦闘は本 部のエヴァが行うのだ。 また、平和維持活動軍の大枠だが、基本的な戦力は、半年後から1年後に各支部に配備予 定のエヴァンゲリオンと支部の機動部隊、本部の機動部隊、それに各国に要請して派遣し てもらう地上部隊である。 支部の主な機動部隊だが、エヴァンゲリオンを配置してある支部には、戦闘機10機、戦 闘ヘリ20機、戦車20両、特殊装甲車30両、地上部隊2個中隊が標準配備される予定 である。ちなみに、ドイツ支部には、ワイルドウルフ2個中隊が配備されている。 これに加えて、イギリス支部のレインボースター、フランス支部のヴァンテアン、アメリ カ第3支部のレッドアタッカーズなどが予備兵力として各1個中隊配備されている。 本部の機動部隊は、ジャッジマンの部隊1個中隊、レッドアタッカーズ2個中隊、ワイル ドウルフ1個中隊、ヴァンテアン1個中隊の、計5個中隊である。これに、戦闘機300 機、各種輸送機30機、空中給油機50機という陣容である。 このうち、戦闘機の大半は、ゼーレのものであり、現在修理中の状況であるため、今すぐ 使えるのは50機ほどだが、半年以内には全て稼働出来るようになる予定だ。これ以外に、 エヴァンゲリオンが4機に、天竜ら3機という状況である。 もっとも、これ以外にも、撃沈した空母5隻と艦艇60隻ほどを修理して、再使用する目 論見もある。おそらくその多くは転売もしくは各国支部に配備するだろう。何故なら、空 母1隻に数千人規模の乗組員が必要であるため、基本的に少数精鋭の方針である本部の要 員を、大幅に増やす結果になることと、非常に金食い虫にもかかわらず、それに見合った 効果が期待出来ないからだ。 ちなみに、1人当たり年間500万円の人件費がかかるとして、空母1隻で、250億円 の人件費になるのだ。むろん、人件費以外の費用もかかるし、人件費にしても、実際はも っと多いだろう。それに、空母1隻で行動することは無いため、艦隊全体では数万の人員 と、年間数千億円の人件費がかかるのだ。 さて、話は研修生に戻るが、エヴァンゲリオン1機当たり2人の正規パイロット−正1人、 副1人−と2人の予備役パイロットを選出する予定である。 これは、作戦行動の継続を考えると、最小限の人員であるが、5機のエヴァンゲリオンに 対して、20人のパイロットを選出することになる。 現在、中国支部、インド支部、インドネシア支部、ドイツ支部、ドイツ第2支部、フラン ス支部、ロシア支部、イギリス支部、アメリカ第3支部、ブラジル支部、エジプト支部、 オーストラリア支部、の12支部から各3人、アメリカ支部から2人、計38人の研修生 が来ているので、単純計算で、このうち半分が振るい落とされる計算だが、事はそう簡単 ではない。グループ分けの問題があるからである。 例えば、中国支部のエヴァンゲリオンは、中国支部、インド支部、インドネシア支部の3 支部の研修生9人の間での争いになるが、ドイツ支部のエヴァンゲリオンは、ドイツ支部、 ドイツ第2支部、フランス支部、ロシア支部の12人の間での争いになるからである。 逆に、エジプト支部とブラジル支部は、エヴァンゲリオンを自分の支部の3人だけで運用 することになる。 これでは、いくら何でもまずいので、支部間でパイロットを融通する必要が生じるのだが、 その調整が上手くいっていないのである。これは、支部のメンツも絡むため、なかなか調 整が難しく、アスカも頭を痛めている。 アスカの腹案は、次の通りであった。 中国支部のエヴァ  :中国支部、インド支部、インドネシア支部のパイロットで運用。 ドイツ支部のエヴァ :ドイツ支部、ドイツ第2支部、フランス支部のパイロットで運用。 アメリカ支部のエヴァ:アメリカ支部、アメリカ第3支部、イギリス支部のパイロットで運用。 ブラジル支部のエヴァ:ブラジル支部、オーストラリア支部のパイロットで運用。 エジプト支部のエヴァ:エジプト支部、ロシア支部のパイロットで運用。 これ以外にも、マリア達9人をどうするのかという問題もある。本部に残すのか、支部に 戻ってもらうのか、どちらにするかで、状況は大きく変わるのだ。 そこまでアスカが話すと、マリアも唸った。 「う〜ん、ドイツ支部に戻ろうかしら。迷う話ね。」 「アタシとしては、マリアから離れたくないけど、信用出来る人間にまとめ役をやって欲 しいという気持ちもあるのよね。」 そこに、知らない女性の声が聞こえてきた。 「あっ、碇シンジさん。初めまして。私、イギリス支部のイライザって言います。私、碇 さんの大ファンなんです。仲良くして下さいね。」 「う、うん。」 アスカは、何か言ってやろうと思ったが、マリアに目で合図されて我慢した。だが、それ は無駄に終わった。イライザは、アスカにこう言ったのである。 「あ〜ら、誰かと思えば、碇シンジさんにまつわりつく、ゴミじゃない。私が正規のパイ ロットに選ばれたら、階級は三慰になるわ。そうしたら、せいぜいこき使ってさしあげる わ。」 「何ですって!」 (こ、こいつったら、何てこと言うのよっ!) アスカは、真っ赤になって怒った。さすがに、ここまで言われて黙っているほど、アスカ は人間が出来てはいなかった。だが、次の瞬間…。 「パシッ!」 シンジの平手打ちが、イライザの頬を赤く染めた。 「僕のことは、何を言われても構わない。でも、アスカのことを悪く言うのは、絶対に許 せない。」 イライザは、しばしの間、放心状態だったが、シンジに睨まれているのに気付いて、泣き ながら去って行った。 だが、研修生によってもたらされる波乱は、まだ序の口であった。 (第61.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  今後、ネルフを舞台にするのか、学校を舞台にするのか、迷っています。両方という手 もあるんですが、どっちつかずになりそうな気もします。  それで、ゼーレ壊滅後の世界ですが、ゼーレという重しが無くなったため、紛争の芽が あちこちで発生するでしょう。それを見越した平和維持軍なのです。事実上、エヴァンゲ リオンに勝る兵器が無い以上、国対国の大規模な戦争でも無い限り、ネルフの速やかな行 動によって、地域紛争が拡大する前に防いでしまおうという考えなのです。  特定の支部が暴走しないよう、必ず本部と複数の国のパイロットが参加する仕組みにし ました。また、傭兵部隊も各所に配置して、本部の意向を無視出来ないようにしたのです。 2002.10.27  written by red-x



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