新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第62話 再会のマナ

「さあて、今日から中学3年生ね。」 今日は始業式だったが、いつもは長い校長の話も短時間で終わり、アスカはシンジ達と教 室に戻る途中である。だがその時、シンジに声をかける者がいた。 「シンジ!お久しぶり!」 「マ、マナッ!」 シンジは驚いた。遠くの街で、名前を変えて暮らしているはずのマナが、急に現れたのだ。 心臓が止まりそうだった。 (やっぱり、そう来たわね。) アスカは、加持からマナがやって来ることを聞いていたし、クラス分けの資料から、転校 して来ることも知っていた。だから、マナのクラスを自分達から遠ざけていたのだ。マナ がシンジにすぐにちょっかいをかけると思ったからだが、その勘は当たっていた。 「アタシ、先に行くから。」 アスカは、マナを名前で呼ぶシンジにムッとし、冷やかな声をかけて去って行く。 「マナ、ごめん。また今度ね。」 シンジは、何かイヤな予感がしたのだろう。マナに軽く手を振って、アスカの元へと走っ て行く。 「シンジ…。」 残されたマナは、呆然としていた。 *** 「良かったわね、みんな一緒のクラスになれて。」 アスカは、席に座って言った。ちなみに、アスカの右がマリア、左がユキ、前がヒカリの 席である。席が近いものだから、自然と椅子を寄せ合って、おしゃべりをしている。 「そうよね、アスカ。このクラスは、殆ど変わらなくて良かったわ。」 ヒカリは、アスカ達と同じクラスになれて、嬉しそうな顔をしている。 「私も、惣流さん達と同じクラスになれて、嬉しいです。」 ユキもニコニコ顔である。そして、4人で取り留めの無い話をする。だが、それを妨げる 者が現れた。シンジである。 「あのお、ちょっとお願いがあるんだけど。」 「何よ、シンジ。」 「うん、実はさっき会ったマナのことなんだけど、これから、お昼を時々一緒に食べたら どうかなあって思ったんだけど。誘っても良いかなあ?」 (ぬあんですって!) 何か言おうと思ったアスカだったが、最初に口を開いたのは、ユキだった。 「私は、お断りします。」 意外にも、ユキは反対したのだった。 「森川さん、どうして?」 「私、あの人は好きになれないんです。だから、どうしてもって言うんなら、私は抜けま す。そして、一人で食べます。」 だが、これにはヒカリでさえも慌てた。 「ま、待ってよ、ユキ。どうしたって言うの?」 「私は、霧島さんとは一緒にいたくないんです。ただ、それだけです。」 ユキがマナと一緒に食べることを拒否したため、ケンスケもユキと一緒に食べると言い出 し、トウジとヒカリも結局ケンスケと一緒に食べることになった。当然、アスカとマリア も同調した。残るはシンジとカヲルだけであったため、シンジは止むなく断念した。 *** 「さあて、シンジ。今日は真っ直ぐ帰ろうか。」 「それが、アスカにお願いがあるんだ。」 「うん、何よ。」 「実は、マナに会って欲しいんだ。」 「へえ、どういう風の吹き回し?」 「マナとは、ああいう別れ方になっちゃったから、僕とアスカが婚約したことをちゃんと 伝えていないよね。だから、僕の婚約者として、アスカをマナに紹介したいんだ。」 「あのねえ、何であんなのに、そこまでする訳?」 「そうか、やっぱり駄目か。」 シンジは肩を落とした。 「まあ、駄目とは言わないけど、今日はネルフに行くから駄目よ。それに、これで貸しが 一つよ。それで良い?」 「うん、良いよ。」 シンジはにっこり笑った。 ***  お昼は結局家で食べることになった。ヒカリとユキが作り、ケンスケが手伝う。トウジ、 カヲル、マリア、ノゾミ、トウジの妹、ユキの弟妹、一応教師であるミサトにリツコも一 緒である。総勢、14人であった。 これだけ人数が多いと、作る方も大変だ。ヒカリとユキは、汗を流しながら料理をしてい る。シンジやアスカも手伝いたかったのだが、研修生に関する仕事が山のようにあるため、 今もせっせと仕事をしている。 「ご飯が出来ましたよ〜。」 その声を聞くと、急いで仕事を切り上げた。 今日のお昼は、エビピラフにカニピラフ。それに加えて、たまにはスパゲッティー以外の 麺が食べたいというトウジの希望を採り入れて、ボリュームたっぷりの肉野菜入りの焼き そばである。それに、ポテトサラダがつくのだ。 小学生達4人は、リビングで座って食べ、食べ終わるとテレビを見る。中学生以上は、テ ーブルで集まって食べるのだ。話題は、最近では研修生絡みのことが多い。 ヒカリやユキにとっては、知らない人の話でつまらなそうかと思いきや、そうではない。 結構熱心に聞いている。ましてや、学校が始まったので、これから顔を合わせることも増 えるだろう。そのうち、聞くだけでなく、話題に加わりそうである。 「まったく、男はアタシに色目を使うし、女はシンジにアタックしようとするし、大変な んだから。」 アスカは、頬をプリプリしながら言う。その仕草が可愛いと、ユキは目を細める。ヒカリ はというと、トウジに虫がつかないかどうかが心配なので、研修生の話には聞き耳を立て るのだ。既にアスカからは、研修生全員の顔写真入りのリストすら手に入れている。 「あら、アスカ。焼き餅なの?」 ミサトのからかいも、アスカには通じない。 「違うわよ。地球の平和を守ろうっていうパイロットなのに、不真面目じゃない。ヒカリ やユキもそう思わない?」 「ええ、思います。真面目にやってほしいですね。」 と語気を強めて言うユキ。ユキは、アスカの意見は、必ず真っ先に肯定する。 「そうねえ。でも、先輩のパイロットが婚約しているんだもの。ある程度はしょうがない とは思うけど。」 ユキとは違い、中立の意見を言うヒカリ。 「ふうん。でもね、鈴原狙いの女の子もいるのよ。」 「えっ!だ、駄目よ。やっぱり、研修中のパイロットは、研修を最優先しないと。」 トウジが絡むと、極端に意見が変わるヒカリだった。 「アスカ、もうちょっと真面目な話をしようよ。」 「あ〜ら、良いんじゃない。そういう話って、興味あるわねえ。」 話をそらそうとするシンジの努力も、ミサトの一言で水泡に帰す。 こうして、研修生をネタに、話は続く。 ***  ネルフへ着くと、それぞれ別れることになる。 アスカは、リツコやミサトと一緒にアスカルームへ行く。 アスカとリツコは、MAGIやEVAの運用管理についての仕事をこなすが、研修のため のプログラムも考える。一応マヤが責任者であるが、大枠はこの2人で決め、研修の進み 具合によって、適宜修正を加えるのだ。 だが、現在の最優先課題は、ゼーレとの戦いで明らかになったエヴァンゲリオンの弱点の 克服である。このため、電磁パルスに強く、自爆してもパイロットの生命を守れるような 新型エントリープラグを開発中である。 ミサトは平和維持活動軍について、整理しなければならないことが山ほどあるが、技術的 なことやエヴァに関わることが多く、アスカ抜きでは話が進まない。本来は、技術的なこ とはリツコやマヤに相談すべきなのだが、マヤは自分の手に余るとリツコに相談するし、 リツコは重要なことはアスカに必ず相談する。 エヴァに関わることはシンジに相談すべきなのだが、シンジに相談しても、アスカの意見 を聞いてから答えるのが分かっている。そうなると、最初からアスカと相談した方が早く、 間違いないのである。 結局、この3人が忙しいのは、平和維持活動軍のことがあるからである。だが、それも基 本的な枠組みを決めるまでのこと。それが決まれば、後は部下に任せて、進行管理に気を 付ければ良いのである。 シンジ、トウジ、カヲルの3人は、研修生とは別メニューの訓練がある。 シンジにとって幸いだったのが、自分達本部のパイロットが、原則として対使徒戦のみに 従事することになったことである。アスカが配慮したこともあるが、シンジとトウジは、 他の研修生達と一緒に訓練しなくてすむようになったのだ。 特に、格闘技の訓練が別になったのには、シンジは涙を流して喜んだものである。これか らは、無様な姿を見せなくて済むのだ。着実に体力を付けて、確実に格闘技の腕を磨いて いけば良い。 ただ、訓練の教官が、ジャッジマンとに加えて、ブルーを始めとするラブリーエンジェル の面々、それに傭兵部隊の隊長クラスであるため、肉体的には辛いものではあったが、精 神的にはかなり楽になっていた。 ケンスケとマリアは、研修生と一緒のメニューの訓練である。 ケンスケにとっては、格闘技の訓練がさらに辛いものになった。同じような実力のシンジ とトウジが抜けたため、ケンスケの実力が飛び抜けて低いことがかなり目立つようになっ たからだ。お蔭で、研修生の一部からは馬鹿にされていた。 だが、表面的には馬鹿にされることは全く無かった。ケンスケが本部付のパイロットであ ることが決定していたためだ。最終的にパイロットを決める時に、本部のパイロット達の 意見も尊重するということが明らかにされていたから、ケンスケは別格だったのである。 これはアスカの配慮であり、ケンスケは深く感謝していた。 もっとも、研修生同士の足の引っ張り合いに巻き込まれなかったこともある。支部に配備 されるエヴァとパイロットとの関係が決定されていないため、特にヨーロッパの支部に属 するパイロット間での足の引っ張り合いが、既に目立ち始めていた。 エヴァを配備予定の支部では、必ず正パイロットの座を射止めるようにとの厳命が下され ており、一部の研修生達は、まさに必死だったのだ。特に、ドイツ、フランス、イギリス、 ロシア間では、民族間の恩讐もあって、研修生同士が殺気立っていた。 フランス、イギリス、ロシアのパイロット達の中には、過去にナチスドイツに殺された親 族を持つ者も多く、ドイツのベルリン出身者の中には、ロシア兵に殺されたり、子供を孕 まされて自殺した親族を持つ者が多かったのである。 アスカがイギリス支部のイライザにけなされたのも、イライザの曾祖父がドイツ空軍の空 襲で死んだことと無関係ではなかった。 かといって、ドイツ支部の研修生が四面楚歌の状態かと思えば、そうでもない。エジプト 支部のパイロットの中には、イスラエルやアメリカに反感を持つ者がいて、過去にドイツ がユダヤ人を迫害したことを褒めたたえ、ドイツ人に肩入れしていたし、同じイスラム教 国のインドネシアのパイロットもこれに同調していたのである。 そうかと思えば、中国とインドの対立も根深いものがあった。特に、中国にエヴァを配備 するというのは、暫定的な決定であったため、両国とも正パイロットの座を射止めること に必死だったのである。 これ以外にも、複雑な問題も多く、さらには同じ支部のパイロット間でも、足の引っ張り 合いが行われていた。 それらが特に表面化するのは、格闘技の訓練の時である。研修生同士で、目を血走らせて 戦う場面も結構多かった。ケンスケは、そんな研修生達の様子を見て、背筋が寒くなるよ うな思いだった。 比較的のほほんとしているのは、ブラジル支部とオーストラリア支部のパイロットぐらい であった。 ミリア、マリア、ミンメイ、サーシャ、マックス、アリオス、アールコート、キャシー、 ハウレーンらは、最初は距離を置いて見ていたが、次第に自国支部に取り込まれつつあっ た。例外はサーシャで、ロシア系のイスラエル人という特殊な生い立ちによって、ロシア 支部のパイロット達からも取り込まれようとしていた。 こうして、徐々に次のような大まかな構図が出来つつあった。 ド イ ツ派:ドイツ2支部、エジプト支部、インドネシア支部、中国支部 反ドイツ派:イギリス支部、フランス支部、ロシア支部、アメリカ2支部、インド支部 中 立 派:ブラジル支部、オーストラリア支部 このため、マリアとミンメイはドイツ派に、アリオス、アールコート、キャシー、ハウ レーンは反ドイツ派に、自分の意思とは無関係に、それぞれの派の中心人物に担ぎ上げ られそうになっていた。 サーシャ、ミリア、マックスは、そんな状況を憂いていた。 ***  翌日、シンジは考えた末に、近くの喫茶店にマナを呼び出した。アスカが一緒であるこ とも伝えているから、変な勘違いはしないはずだ。シンジとアスカが頼んだ飲み物が来た 頃、マナは待ち合わせ場所にやって来た。 「お待たせ、シンジ、惣流さん。」 マナは、得意のスマイルを浮かべていた。 「マナ、お久しぶり。どうぞ、座ってよ。」 「ええ、それじゃあ失礼します。」 マナは素早く座ると、店員を呼んで、アイスコーヒーを注文した。 「で、シンジ。何の用なの?」 「うん、実は、もう知っているかもしれないけど、僕はアスカと婚約したんだ。マナには、 まだ僕の口から伝えていなかったから、一応知らせておこうと思って。」 「そう、シンジ。おめでとう。やっぱり、惣流さんと恋人になったんだ。そうだよね、私 はシンジの側にいられなかったし、縁が無かったんだよね。」 「マナ…。ごめん…。僕は、アスカが世界で一番大好きなんだ。だから、もう他の人は好 きになれないと思う。」 「そう、分かったわ。惣流さん、おめでとう。羨ましいわ。こんなにシンジに思われるな んて。」 アスカは、一瞬何て言おうか迷った。 「そ、そうね。ありがとう。まあ、シンジのことは諦めて、他の、もっと良い男を探しな さいよ。」 「あら、シンジよりも良い男なんているかなあ。」 「星の数ほど居るわよ。」 「じゃあ、惣流さんにとっても、もっと良い男はいるってこと?」 「それがねえ、残念ながらいないのよ。アタシにとって、良い男の条件は、アタシよりも エヴァの操縦が上手い事、アタシよりも使徒を数多く倒している事、アタシがピンチにな った時に自分の命を省みずに助けてくれる事、これが最低条件なのよ。その最低条件にか かるのが、残念ながら、シンジしかいないのよ。」 言外に、シンジは渡さないとアスカは言っている。 「ふふっ、そうですか。分かりました。今は、おめでとうを言わせてもらいます。でも、 アスカさんにお願いがあります。」 「何よ。」 「シンジよりも良い男が見つかって、シンジと別れることになったら、真っ先に私に知ら せて下さい。」 マナも、言外にシンジを諦めないと言っている。 「まあ、そんなことは無いと思うけどね。」 アスカとマナの視線は、激しくぶつかり合った。こうして、マナは事実上の挑戦状をアス カに叩きつけたのだった。そう、いつかシンジを自分のものにすると。シンジだけが、訳 が分からずオロオロしていた。 「ねえ、アスカ。」 「うん、何よ。」 喫茶店からの帰り道、シンジはアスカに問いかけた。 「あの、さっき言っていたことって、本当なの?」 「えっ、何のこと。あっ!わ、忘れなさいよっ!あれはね、物の弾みって言うやつなのよ。 だから、綺麗さっぱり忘れなさい。」 「え〜っ。じゃあ、マナに嘘を言ったの?」 「うっさいわねえ。男なんだから、ウジウジ言わないの。」 そう言って、アスカは急に走り出した。 「あっ、待ってよ!」 シンジもアスカの後を追った。だが、二人の顔には、笑顔が浮かんでいたのである。 (第62.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  今回は、研修生絡みのエピソードは無しです。シリアス中心に行くか、ラブコメ中心に 行くか、未だに迷っています。ですが、マナ絡みはシリアスにはならないでしょう。  あと、マナファンには一応謝っておきます。アスカとマナのどちらが勝つのか、既に予 想が付いているとは思いますが、そういうことです。 2002.11.3  written by red-x



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