新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第42話 ミラクル5

「あれっ,サーシャさん。どうしてこんな所にいるの?」 「そういうマリアさんこそ。」 ネルフ内のとある場所で,サーシャとマリアがばったりと出会っていた。だが,そこにミ リアとミンメイまでもがやって来た。 「あれっ,ミリアにミンメイさん。一体どうしてここに来たの?」 「それはこちらのセリフだ。マリアこそ何でここにいる。」 4人はお互いを見渡して黙ってしまった。だが,そこにアスカがひょこっと現れた。 「あら,全員集合ね。じゃあ,皆来てよ。」 それを聞いた4人とも驚いた。 「お,おい。私はソルトに会いに来たんだぞ。」 ミリアがつい口に出す。ソルトというのは,ミラクル5というハッカー集団のリーダーの 名前だ。 「えっ,あなたも。」 とマリア。 「ええっ。もしかして,皆ソルトさんに会いに来たんですか。」 サーシャも驚いたようだ。ミンメイも驚いたような顔をしている。 「まあ,いいから来なさいよ。ソルトに呼ばれた人は,アタシに付いてきてよ。」 そう言うなり,アスカはさっさと歩き出した。4人は顔を見合わせたが,仕方なくアスカ の後を付いて行った。 アスカはエレベータを乗り継いで,人気の無い階にやって来た。そして,ゆっくりと歩い ていく。 「あれっ,諜報部部長代行室ってプレートがかかっているわ,あの部屋。」 「あれは,作戦部長室よ。」 「あっちは技術部長室よ。」 「向こうは技術部副部長室ってあるわよ。」 「さらに向こうは,諜報部副部長室になってるわよ。こんな所に来ても良いのかしら。」 「きと,ソルトって,諜報部の人間なのよ。諜報部副部長じゃないかしら。」 マリア達はやや小さな声で囁いていた。と,その時,アスカが急に立ち止まった。技術部 副部長室というプレートのかかっている部屋だ。 「さあ,入って。遠慮しないで。」 アスカはドアを開けて4人を中に入れた。 「うわあ,結構広いのね。」 「あれっ,もしかして,今まで見ていた部屋って繋がっていたのかしら。」 などと言いながら,4人は周りを見渡していた。その4人にアスカはコーヒーを振る舞っ た。そして,4人が落ち着いた頃を見計らって声をかけた。 「さあて,いきなり本題に行くわよ。ゼーレに勝つには,アンタ達の力がどうしても必要 なのよ。だから是非協力して欲しいのよ。」 「でも,アスカ。私達はこうしてネルフに協力しているじゃない。」 マリアは不思議そうな顔をした。 「違うのよ。アタシが言っているのは,ミラクル5として協力して欲しいっていうことな のよ。」 「アスカ…。」 マリアは黙ってしまったが,ミリアが口を開いた。 「私は協力出来ない。もうあれは過去のことだ。仮にソルトに頼まれたとしても断る。」 「そう。サーシャは?」 「そうねえ。ソルトに頼まれたら考えるわ。」 「ミンメイはどうなの。」 「私もそう。悪いけど,あなたとは知り合ったばかりだし,そんなこと頼まれてもねえ。 ソルトなら話は別だけど。」 「そうよね。じゃあ,アタシも正直に言うわ。アタシが『ソルト』よ。」 「「「「ええっ!」」」」 残る4人は驚きの声をあげた。 「サーシャ,アンタに頼んだプログラムは今回の作戦のためだったのよ。お礼に『パイロ ットリーダー』の写真を上げたわよね。『救世主アスカ』のスペシャル版ディスクもね。」 「それを知っているっていうことは,アスカさんがソルトなの。じゃあ,他の皆もプログ ラムの仕事を頼まれたの?」 サーシャは大きな瞳をさらに大きく開いて皆を見た。 「私も頼まれたわ。」 「私も。」 「私もだ。」 マリア,ミンメイ,ミリアの3人も頷いた。 「分かったかしら。じゃあ,『ソルト』として頼むわ。是非,ミラクル5として協力して 欲しいのよ。」 「ええ,分かったわ。私は良いわよ。」 真っ先にマリアが同意した。 「私も乗るわ。その代わり,アスカさんの写真をよろしくね。」 サーシャも同意した。 「じゃあ,私も。」 ミンメイも同意した。だが,ミリアは首を横に振った。 「私は嫌だ。あのプログラムが最後の手伝いだ。」 「まあ,良いわ。また明日返事を聞くから,考えておいてね。今日は紹介したい人もいる し,色々と話もあるしね。じゃあ,ちょっと座って待っててね。」 アスカはそう言うなり電話をかけた。 「ああ,リツコ。こっちに来て。えっ,後5分ね,良いわよ。ミサトも一緒にね。」 「ああ,加持さん。直ぐにこっちに来て。えっ,忙しい?駄目よ。アタシの方を優先して よ。良いわね,後5分で来てよ。」 電話が終わると,アスカはニコリと笑った。 かくして5分後にリツコ達がやって来た。 「どうしたのよ,アスカ。急に呼び出したりして。あら,あなたはマリアさんね。それに ミリアさんも。」 「あ,こんにちわ。リツコさん。」 そう言って,マリアとミリアは頭を下げた。ヒカリの誕生会の時に顔合わせはしていたか らだ。 「え,マリアちゃんにミリアちゃん。一体こんな所でどうしたの?」 「あ,ミサトさん。こんにちわ。」 今度もマリアとミリアは頭を下げた。 そこに加持がやって来た。 「おいおい,アスカ。俺は出前じゃないんだから,気安く呼ぶなよ。おっと,どうしたん だ。この部屋がこんなに賑やかになるなんて,初めてだな。」 「あっ,加持さん,こんにちわ。」 マリアとミリアは三度目の頭を下げた。若い女性陣にニヤニヤする加持だったが,ミサト が一睨みすると,素知らぬ顔をして誤魔化した。 「さあて,役者は揃ったわね。じゃあ,ネルフの幹部を紹介するわ。最初は諜報部部長代 行の加持リョウジ一尉。と言っても諜報部長は空席だから,事実上の諜報部長ね。」 「今,ご紹介に預かった加持だ。よろしくな。」 だが,マリア達は驚きのあまり声も出ない。サーシャとミンメイにとっては,本部の事実 上の諜報部長と言えば雲の上の人である。その人に会えるなどとは思っておらず,びっく り仰天という訳だ。 マリアとミリアにしても,加持とは顔を会わせたことはあるが,まさかそんな重要な役職 の人間だとは思っていなかったのである。 「何,驚いているのよ。次は加持さんの婚約者で,作戦部長の葛城ミサト三佐。」 「ミサトよ〜ん。よろしくね。」 「え〜っ!」 マリア達はまたもや驚いてしまった。ミサトと言えば学校の担任の先生である。それがよ もや作戦部長とは。だが,今回はミリアだけは驚かなかった。救世主アスカのDISKを見て, 知っていたからである。 「次は技術部長の赤木リツコ一尉。」 「赤木リツコです。よろしくね。硬くならなくてもいいわよ。」 「は,はいっ。」 ミリアだけがようやく返事を返すことが出来た。マリア達は呆然としている。 「で,最後はアタシ。ソルトこと,惣流・アスカ・ラングレー。ネルフの技術部副部長よ。 今は,実質的に技術部長みたいなものね。」 「「「「え〜っ!」」」」 今度こそ,ミリアも驚いた。それもそうだ。サーシャとミンメイは,アスカの裏の顔が作 戦部のオペレーターであると教えられていたし,ミリアにしても,アスカが元エヴァンゲ リオンのパイロットであることを知っていたにすぎない。それがいきなり技術部の副部長 で実質的に技術部長だと言うのだ。驚かない方がどうかしている。 「ねえ,アスカ。技術部長本人の前で,そんなこと言っていいの?」 マリアが心配して言ったが,それにはリツコが応えた。 「あら,本当よ。ここだけの話だけど,今は実質的な技術部長はアスカなの。私はそのお 手伝いっていう訳。」 「そ,そうなんですか。」 マリアの顔が引きつる。だが,ようやく信じたようだった。 「じゃあ,次はマリア達の紹介を始めるわ。彼女達は,昨日正式にエヴァンゲリオンのパ イロット候補生から正規の予備役パイロットに格上げされたわ。最初は,そうね,マリア からね。ドイツ支部から来たマリア・カスタード。ワイルドウルフのウォルフの娘よ。そ して,アタシの友人よ。」 「マリア・カスタードです,よろしくお願いします。えっ,アスカ。今,何て言ったの。」 「聞こえなかった?あなた達は,正式にエヴァンゲリオンのパイロット候補生から正規の 予備役パイロットに格上げされたのよ。」 「ど,どうしてなの?」 「アタシの独断と偏見よ。アタシはエヴァンゲリオン部隊の指揮官よ。部下を選ぶ権限が あるわ。それとも,不服かしら。」 「ううん,そんなことはないわ。でも,良いのかしら。」 「もちろん,良いに決まっているでしょ。そんなことは,マリアは気にしなくて良いのよ。 言っておくけど,アタシは私情を挟んでいる訳じゃあ無いからね。そこは誤解しないで。」 「う,うん。分かったわ,アスカ。」 「じゃあ,次はミリアね。ブラジル支部から来た,ミリア。」 「ミリアです。よろしく。」 ミリアはリツコ達に向かって頭を下げた。 「次はサーシャ。エジプト支部から来たわ。」 「サーシャです。よろしくお願いします。」 サーシャもミリアに倣い,頭を下げた。 「最後は,リン・ミンメイ。中国支部から来たわ。」 「リン・ミンメイです。よろしくお願いします。」 「これで一通り紹介が終わったわね。じゃあ,紹介の続きね。アタシ達5人は,ミラクル 5というハッカーのグループだったの。もちろん,プログラムを作るのなんか,朝飯前ね。 今回の作戦のためのプログラム作りにも,彼女達には協力してもらっていたのよ。」 「おいおい,アスカ。ミラクル5って言ったら,MAGIをハックしたことがあるという, 伝説のハッカー集団のことか。」 加持は目を丸くしていた。 「良く知っていたわね。さすがは加持さんね。」 「その実力をゼーレに対して発揮しようって訳か。」 「そういうこと。特に今回の戦いは,通常戦力で言ったら勝ち目は無いわ。だから,サイ バーネット戦で勝利を収めるしか勝利の道は無いのよ。」 アスカの言うサイバーネット戦とは,インターネットを利用した戦いのことだ。 「そうか。じゃあ,俺からもお願いする。アスカに協力してやってくれ。俺もまだ死にた くないんでな。」 それを聞いたマリア達は強く頷く。ミリアを除いて。 「ミリアは,もうちょっと時間が欲しいみたいなの。だから,今日は何も言わないで。」 アスカがすかさずフォローした。 こうして,アスカは今後の見通しと作戦について,1時間ほど説明した。敵の戦力が思っ ていたよりも遥かに強大であること,3月中には総攻撃を受ける可能性が高いこと,敵が やって来る前に何らかの方法で叩く必要があること,等々である。 さすがに軍事訓練も受けたことがあるメンバーであることもあり,問題の深刻さを理解す るのも早かった。 「ねえ,アスカ。こんなんで本当に勝てるの?映画のDISKなんて売っている余裕なんかな いわよ。」 マリアの問いにアスカは少し呆れて答えた。 「あのねえ,あれは重要な作戦なの。そんなことも分からないの?」 「えっ,作戦って。」 「サイバーネット戦と情報戦を同時に仕掛ける布石なのよ。どれだけうまくいくか見当が つかないけど,アタシ達には他に有効な方法が無いわ。」 「じゃあ,どうするのか教えてよ。」 「いいわ。そのために集まってもらったんだもの。」 こうして,アスカはその場の全員に作戦の詳細を説明した。そして,各部の協力を要請し た。各部の責任者が快く頷いたのは言うまでもない。 (第42.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  徐々にアスカの作戦の輪郭が見えてきました。ゼーレとの戦力差を一体どうするつもり なのか,今後のアスカの活躍に期待してください。 2002.6.16  written by red-x