新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
アタシとシンジは恋人同士になったけど、ヒカリとトウジの仲は、あれから全然進展し ないわね。親友のヒカリのためだもの、アタシが一肌脱ぐしかないわね。シンジ、もちろ ん協力するのよ。嫌だとは、言わせないわ。
第13話 トウジとヒカリ
「ふぁあああっ。」 シンジは大きなあくびをする。 「シンジ、おはよう。」 アスカは、優しく声をかける。 「アスカ、おはよう。良く眠れた?」 シンジは、いつも通りに、明るく返事をした。 「シンジのお蔭で、昨日もぐっすり眠れたわ。ありがとう。」 そう言うと、アスカはシンジの方を向いた。 「シンジ、ご褒美よ。」 アスカの声はそこで止まった。いつもの朝のキスの始まりだ。シンジの舌にアスカの舌が 絡み、シンジの顔に歓喜の表情が浮かんだ。 (ふふふっ、シンジったら、嬉しそう。) アスカの心は、ご機嫌だった。 「実は、シンジにお願いがあるの。」 アスカはニヤッと笑った。 *** 「さあ、シンジ、今日は何色のミニスカートがいい?」 アスカは、3日前にミニスカートを10色買い、一昨日から、シンジに何色がいいのか、 聞いてくるようになったのだ。ちなみに、一昨日は緑、昨日はピンクだった。最初の日こ そ、色々な色を試しに着てみたのだが、シンジが鼻血を出してしまったため、シンジの希 望を聞くことにしたのである。 「そうだね、今日は青がいいかな。」 そう言って、シンジは青いミニスカートに同色のブラを出し、アスカに着させてあげた。 このひとときは、シンジにとっては至福の時間であろう。なぜなら、ブラに胸を納める役 目は、シンジが担っているからだ。当然、アスカの胸を直に触ることになる。このため、 一昨日は、鼻血を出してしまったのだが。 アスカは、シンジに対して、まだ腕が言うことを聞かないからと説明しているが、はっき り言って嘘である。シンジをからかう気持ち半分と、感謝の気持ち半分である。アスカは、 シンジが喜ぶことを知っているのだ。だが、シンジは、嘘と分かっているだろうに、嫌と は言わない。悲しい男の性である。その点はアスカもお見通しであるが。 「青ね。いいんじゃない。」 アスカは微笑む。嫌いな色は買っていないから、何でもいいはずなのだが、やはりアスカ も女の子である。恋人に選んでもらった色を着たいのだ。 「どう、シンジ。似合うかな?」 アスカはシンジに聞いた。シンジは答える代わりに、アスカを抱きしめた。 「アスカ、何て可愛いんだ。アスカ、大好きだよ。」 みるみるうちに、アスカの顔が真っ赤になる。 「えへへっ。ありがと、シンジ。」 アスカは、照れながらも、嬉しそうな顔をした。 「あっ、そうだ。シンジ、紺のシャツも取って。」 暫く二人は抱き合っていたが、名残惜しそうに離れていった。そして、アスカは照れ隠し に、シンジに紺のシャツを取るように頼んだのだ。今日は、二人してマヤの所に行く予定 だった。ユキが家事全般をやってくれたため、シンジがフリーになり、結果として、6日 はかかると思われた仕事が、4日で終わったのだ。ネルフに行くとなると、ミニスカート は良くても、上がブラだけでは、ちょっとマズイ。このため、アスカは、上には紺色の半 袖シャツを着ることにしたのだ。 アスカがシャツを着ている時、玄関のチャイムが鳴った。もう、7時になっていた。 「あ、森川さんだ。」 シンジは玄関に向かった。 「森川さん、おはよう。」 シンジはそう言うと、ユキをリビングに案内した。 「ちょっと待っててね。アスカを連れてくるから。」 シンジはアスカの部屋に入り、暫くしてからアスカをリビングに連れて来た。 「おはようございます、惣流さん。今日は、巻き物にしました。」 ユキはそう言って、テーブルの上に太巻き、ネギトロ、鉄火巻きなどを広げだした。 「ユキ、おはよう。じゃあ、食べましょう。」 かくして、3人は今日も楽しくおしゃべりしながら、食事をした。 *** 朝食が済んだら、直ぐにアスカとシンジはネルフへと向かった。ユキは残って、掃除や 洗濯を引き受けてくれることになった。アスカ達は、ユキにお礼を言ってから出かけた。 ネルフでの用事は、簡単に済んだ。マヤは、アスカ達が急に現れたため、驚いた顔をして いたが、MAGIでチェックして、問題無しと分かると、かなり大げさにお礼を言った。 「アスカちゃん、こんなに早く出来るなんて思わなかった。本当に助かる。もう、神様、 仏様、アスカ様、シンジ様だわ。お礼に何でも言うことを聞いてあげるわ。」 「実は、青葉さんに頼み事があるんですけど、マヤさんからも頼んで欲しいんですが。」 「シンジ君が。もちろん、いいわよ。」 「お願いします。じゃあ、悪いけど、アスカはここで待ってて。」 「ええ、いいわよ。行ってきなさいよ。」 こうして、シンジとマヤは、青葉シゲルの元へ向かった。 *** 30分後、リハビリをしているトウジの元へ、シゲルがやって来た。トウジは、足が直 っているとはいえ、長い入院生活のせいで、かなり筋力が落ちていた。だが、アスカと違 って、足以外のトレーニングは行っていたため、足のトレーニングが中心となっている。 「どうだい、トウジ君。調子はいいかい。」 「は、はい。えろう調子がいいです。」 「ところで、ちょっと相談というか、お願いが有るんだけど、いいかな。」 「はあ、ワイでよければ。」 「実は、シンジ君のことなんだが、彼はアスカちゃんのことが好きなんだけど、アスカち ゃんに断られるのが怖くて、告白出来ないようなんだ。」 「センセのことやから、無理もないですわな。」 「だが、このままでは、シンジ君の精神が参ってしまう。君も、シンジ君が色々と辛い思 いをしているのは、知っているね。」 「はい。」 「そこで、君に一肌脱いで欲しいんだ。」 「へっ。」 「君が、女の子に告白するから、シンジ君もアスカちゃんに告白するようにと迫るんだ。 シンジ君のことだから、それ位しないと、一生告白なんてしないかもしれないだろう。」 「ちょ、ちょっと…。」 「君は、シンジ君が不幸になってもいいのか!」 「そ、そりゃあ、センセには、幸せになって欲しいとは、思ってますがな。」 「じゃあ、いいね。良かった。これで、ネルフも安泰だ。良かった。本当に良かった。」 そう言って、シゲルはトウジの両手を握りしめた。 シゲルが去った後、トウジは一人呟いた。 「ワシ、大変な約束をしてしもうた。はあ、どうしたらええんや。」 トウジの肩は、がっくりと垂れた。 「委員長は、ワイのことをどう思っているんや。」 だが、しばらく考え込んだ後、トウジは呟いた。 「結果は、関係ないんや。要は、ワイの気持ち次第や。」 迷いを振り切ったように、トウジの目には、強い決意が宿っていた。 *** さらに30分後、車椅子に乗ったアスカとシンジがトウジの元へやって来た。ヒカリも 一緒だった。 「トウジ、調子はどうかな。」 「鈴原、元気?」 「鈴原、死んでない?」 三者三様の問いかけだった。 「ああ、調子はええ。センセはどうや。」 トウジは、シンジに問いかけたが、アスカが遮った。 「コイツ、全然駄目よ。気が利かないし、役に立たないし、もう最悪!全く、バカシンジ なんだから。そのうち、生ごみに出そうかしら。」 「ちょっと、アスカ、言い過ぎよ。」 ヒカリがさすがにたしなめる。 「いいのよ、こんなウジウジした奴。こら、バカシンジ!アンタのせいで、ヒカリに文句 言われちゃったじゃない。謝りなさいよ!このバカ!」 アスカは、キツイ顔をしてシンジを睨んだ。 「ごめんよ、アスカ。」 シンジはうなだれた。 そんなシンジの様子を、しばらく見ていたトウジだったが、たまりかねて声をかけた。 「ちょっと、センセ、こっち来いや。」 トウジは、シンジをアスカ達から見えない所へと連れて行った。 「どないしたんや、センセ。惣流にやり込められて。悔しくないんか。」 「いいんだ。実際、僕は意気地なしだし。」 「ああ、もう。センセは惣流のこと、好きなんやろ。さっさと、告白しいや。」 「僕には、そんな勇気はないよ。トウジだって、そうだろう。洞木さんのことが好きなの に、何も言えないじゃないか。僕だって同じだよ。」 シンジは、トウジがヒカリのことを気に入っていることを知っていた。 「おっ、言ってくれるやないか。じゃあ、約束や。ワイは、これから、委員長に告白する から、センセも惣流に告白するんや。男と男の約束や。」 「ト、トウジ…。」 「約束や!」 トウジはシンジのことを澄んだ目で見つめた。 「わ、わかったよ。」 シンジは、トウジと目を合わせずに答えた。 シンジとトウジが戻って来たのを見て、アスカが声をかけた。 「なによ、二バカで、何の相談。どうせ、いやらしいことでしょう。」 アスカは鼻で笑う。 だが、トウジはアスカを相手にせずに、ヒカリの前に立った。同様に、シンジもアスカの 前に立った。トウジの合図を皮切りに、二人同時に告白を始めた。 「い、委員長。ワイは、委員長のことが好きや。付きおうてくれ。」 「ア、アスカ。僕は、アスカが好きだ。付き合って欲しい。」 これに対する反応は、天と地の差があった。ヒカリは、赤くなりながらも、直ぐにコクリ と頷いたが、アスカはいきなりシンジの頬を引っぱたいた。 「バシーン。」 乾いた音がして、シンジの頬は、真っ赤になった。 「アンタ、バカァ!こんなとこで、いきなり告白なんて、デリカシーってもんが無いの! 一体、何考えてんのよ!ホント、あったま来るわね!ふざけんじゃないわよ!」 アスカの凄まじい怒鳴り声にびっくりしたトウジとヒカリだったが、さらに驚くべきこと が起きた。シンジが急に、アスカの口を自らの口で塞いだのだ。左手を挙げてシンジを殴 ろうとするアスカを、シンジの右手がつかんで止めた。アスカは、しばらく抵抗したが、 次第に抵抗が弱まり、シンジのなすがままに、激しいキスが続いた。 二人の様子を近くで見ていたトウジも、意を決したように、ヒカリにキスをした。こちら は、シンジと違い、最初から全く抵抗を受けなかった。こうして、2組のカップルの熱い キスが続いた。 10分も経っただろうか。ようやく2組のカップルはキスを止めた。シンジとトウジの顔 は、赤くなっており、アスカとヒカリの顔は、恍惚状態だった。 「センセ、うまくいったやないけ。」 「ああ、トウジこそ。」 「ほな、後はうまくやるんや。頑張れや。」 「うん、トウジ、ありがとう。」 こうして、彼らは二手に別れた。 *** 2組のカップルは、お昼に食堂で鉢合わせした。4人とも、出会うと同時に真っ赤な顔 になった。その中で、最初に口を開いたのは、ヒカリだった。 「ア、アスカ達は、どうなったの。」 ヒカリの顔はまだ赤い。 「う、うん。多分、ヒカリ達と同じだと思う。」 「えっ。じゃあ、碇君と付き合うの?」 「お、おかしいかな。」 「ううん、そんなことないよ。ねっ、トウジ。」 「そ、そや。二人とも、お似合いや。」 「そ、そう。ありがと。」 アスカは、恥ずかしそうにもじもじしていた。 そんなアスカを見て、トウジは驚いた。さっきまでのキツイ顔が信じられない位、穏やか で照れた顔をしていたからだ。 「ほお〜、惣流も、年貢の納め時か。」 「ふ、ふん、いいでしょ。アンタだって、同じじゃない。変なこと言うと、ヒカリから怒 ってもらうわよ。」 アスカは、頬を膨らまして言ったが、刺の有る口調ではなかったので、トウジは安心する ことが出来た。 「そりゃ堪忍や。」 「まあいいわ。こうなったからには、乾杯よ。」 「へ?」 と、トウジ。 「いいの。アタシが乾杯って言ったら、乾杯なの。ジュースでいいから。」 アスカは、ジュースを頼み、来たと同時に乾杯を急かした。 「じゃあ、二組のカップルが出来たことに、乾杯するわよ。もてない男どもに、可愛いく て、素敵な彼女が出来たことを祝して、かんぱ〜い!」 「かんぱ〜い。」 「かんぱ〜い。」 「かんぱ〜い。」 残る3人も、アスカに合わせて乾杯した。こうして、和やかな雰囲気になったところで、 4人とも普段よりも恥ずかしそうにしゃべるのだった。 *** その頃、発令所は大騒ぎだった。シンジは、一人でアスカに告白するのは恥ずかしいの で、シゲルにトウジも一緒に告白するように取り計らうよう頼んだのだが、その話を聞い ていたマヤは、悪いと思いつつも、覗き見することにしたのだ。 しかも、都合のいいことに、シンジ達が告白した場所、つまり、アスカ達が居た場所は、 何故か、監視カメラの真ん前だったので、かなり鮮明な映像が得られたのだった。それだ けなら良かったのだが、マヤはうっかりして、メインスクリーンに、映像を写してしまっ たのだ。 こうして、シンジの告白シーンと、二人のキスシーンは、ネルフ職員の多くが知るところ となった。 *** 昼食の後、シンジとアスカは、チルドレン専用の休憩室に来ていた。ここならば、誰も 入って来ないからだ。 「シンジ、さっきはごめんね。痛かったでしょう。」 アスカはシンジの頬を優しく撫でた。 「大丈夫だよ。それに、トウジ達も嬉しそうだったし、良かったよ。」 「そうね。シンジのお蔭ね。ヒカリも喜んでいると思うわ。ありがとう。」 実は、今日の朝、アスカはシンジに計画を打ち明けた。このまま行くと、ヒカリとトウジ はすれ違いになる可能性がある。ならば、今のうちに二人をくっつけてしまおうというも のだった。そのため、昨日のうちに、アスカはヒカリをここに来るよう呼んでいたのだ。 だが、この計画には、裏があった。アスカは、マヤ達に、シンジが一方的にアスカに告白 したと思わせたかったのだ。この計画はうまくいき、マヤ達は、今日からアスカ達が付き 合うようになったと思うだろう。後でシンジが真相に気付いても、シンジもシゲルを騙し たことになるから、本当のことは言えないはずだ。 後は、告白シーンとキスシーンを録画しているであろうマヤから、うまく言いくるめて、 データをコピーすればいい。もし、駄目でも、MAGIからデータをコピーすれば良い。 そして、事ある毎に、それを利用すればいいのだ。アスカは、思わずにっこりしていた。 (さすが、アタシね。これで、シンジがアタシに一方的に告白したことになるし、アタシ は、無理やりキスされて、仕方なく付き合ったって、言い訳出来るもの。アタシの作戦勝 ちね。シンジを騙すなんて、ちょろいわね。) アスカが笑ったのを見て、シンジが恥ずかしそうに言った。 「僕のお蔭なら、何かご褒美があると嬉しいな。」 アスカはそんなシンジを見て、『クスッ』と笑い、口を尖らした。シンジは直ぐにアスカ の意図を理解し、キスをした。こうして、長いキスが始まった。 (第13.5話へ)
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