新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ



 シンジ、アタシに感謝しなさい。ふふふっ、シンジったら、顔が涙でくしゃくしゃよ。
男のくせに、情けないったらありゃしない。あれ、でも、アタシもいつの間にか泣いてい
る。


第14話 おかえり


「惣流・アスカ・ラングレー、命令により、出頭いたしました。」 「碇シンジ、同じく出頭しました。」 二人は今、ゲンドウと冬月を前にしていた。つい、先程まで、二人はいちゃいちゃしてい たのだが、緊急の呼び出しを受けて、飛んできたのだ。 「まあ、二人とも、固くならずに、楽にしてくれたまえ。」 二人の固い表情を見て、冬月が緊張を解くように声をかける。そうして、二人が落ち着い た頃を見計らって、冬月は話し始めた。 「現在、ゼーレとの戦いは、終わっていない。向こうから攻めて来ないのは、おそらく、 ゼーレにはもう、エヴァがないのが原因だと推測される。したがって、このままの状態が 続くと、いつしか、敵は再びエヴァを作り、攻撃してくるだろう。これは絶対に防がなく てはならない。また、攻めて来ない理由の一つに、我々の戦力不足がある。残念なことに、 我々は国外に攻め込む戦力を有していない。それが分かっているからこそ、敵はのんびり 構えているのだろう。我々も、当初は、諜報部を中心にして、関係者の逮捕・拘束を行っ ていくつもりだったが、実際には、関係各国の協力が得られず、諜報部は、出国すら予定 が立たない状況なのだよ。」 そこで、冬月は大きくため息をついた。 「各国の支部も組織の防衛に精一杯で、外に攻め込める状況ではない。下手に動いて、軍 隊に攻め込まれたら、支部なんてひとたまりもない。そうなると、残された我々の手段は 世論に訴えて、敵の力を少しでも削ぐことなのだよ。しかも、悪いことに、国連自体がゼ ーレのコントロール下にある。だから、我々は、当面の策として、各国家と手を結ぶこと にしたのだ。本部は日本国と、ドイツ支部はドイツ国と、それまでのわだかまりを捨てて、 協力することにしたのだよ。」 そこで、冬月は再びため息をついた。 「だが、そんなことでは、当面はしのげても、長くは続かない。いずれは敵に攻められて この本部も陥落するだろう。だから、何らかの手だてを考えなければならない。そこで、 S計画、ゼーレ殲滅・掃討計画のことだが、それを立案し、早急に実行する必要がある。 だが、それにはネックは二つある。何だか分かるかね、シンジ君。」 「え、えっと、ミサトさんやリツコさんがいないことですか。」 (ん、もう、シンジったら、バカね。) アスカは心の中で、シンジに悪態をつく。 「それもあるが、もっと根本的なことだよ。アスカ君は分かるかね。」 「MAGIとEVAですね。」 (こんなの、あったり前でしょ。) 「そうだ。我々は、NERV再生計画、通称NR計画と、EVANGERION再生計画、 通称ER計画を立案したが、その二つのネックが解消されないのだよ。MAGIの運用が うまくいかない現状では、組織の維持すら難しい。ましてや、EVAの再生など、夢の又 夢だ。このままでは、我々は、座して死を待つしかないのだよ。我々がおかれている状況 は分かってくれたかね。」 「「はい。」」 アスカとシンジは声を揃えて答えた。 「MAGIについては、マヤ君の努力のお蔭で、何とかネルフの運営に支障のない程度に は運用出来ているが、EVAの再生が出来る程度には至っていない。やはり、リツコ君の 抜けた穴は大きい。そこで、我々は半ば諦めかけていたが、最近、一筋の光明を見いだし た。それが、アスカ君、君だよ。」 (ついに来たか。) アスカは、心中の動揺は顔には出さず、首をかしげながら答えた。 「はて、何のことですか。」 「アスカ君は、最近、MAGIを外部から使用したね。そんなことが出来る者は、今のネ ルフにはいない。そのことだけを捉えても、アスカ君の力が、MAGIに必要なのだよ。 もちろん、待遇の改善は当然として、昇給や昇進も考えている。今考えているのは、2階 級昇進と、技術部副部長のポストだ。受けてくれるかね。」 冬月の目は真剣だった。だが、アスカの答えは冷たかった。 「申し訳ありませんが、お断りします。」 その瞬間、冬月の顔が呆然とするが、気を取り直して聞いてきた。 「どうしてだね。理由を教えて欲しいのだが。」 アスカは深呼吸をすると、淡々と答えた。 「理由はいくつかありますが、大きなものは、計画自体が稚拙で、失敗する可能性が高い こと、NERVの最高幹部に信頼が置けない人物がいること、この2点です。沈んでいく 船の中でどんなに頑張っても意味がないですし、船長に信頼が置けなければ、これもまた 同じことです。」 「ははは。アスカ君は手厳しいね。では、協力してくれる可能性は無いのかね。」 「知っていることを全て教えてくださるのが、最低条件です。他にもいくつか条件があり ますが。」 「何が知りたいのかね。」 「母の死の真相です。」 (さて、どう答えるかしら。) 「そうか。話す時が来てしまったか。」 冬月は、視線を落とした。 「君のお母さん、キョウコ君は、シンジ君のお母さん、ユイ君と同様、エヴァのコアの中 に取り込まれてしまった。その後、ユイ君のサルベージは失敗したが、キョウコ君のサル ベージは一応成功した。だが、それは不完全だったようだ。後は知っての通り、キョウコ 君は自殺してしまった。そのため、サルベージしたのが本当にキョウコ君かどうかは、検 証出来なかった。キョウコ君が何をやろうとしたのかも、結局は謎のままだ。だが、対外 的に、そんなことは言えないので、ネルフは、キョウコ君が精神汚染を受けて自殺したと いうことにしてしまった。これが私の知り得る限りの全てだよ。」 「そうですか。ママは一度はエヴァに取り込まれたんですね。」 (やっぱり、エヴァの中にいたのは、ママだったのね。と、いうことは…。) 「そうだ。他に聞きたいことはあるかい。」 「もう一つだけ、碇司令にお聞きしたいことが。シンジのことが好きですか。」 (これも、答えてもらうわよ。) その問いに、ゲンドウの体がピクリと反応するが、答えの代わりに質問が来た。 「…何故そんなことが知りたい。」 「答えてくれれば、お教えします。」 (ふん、もったいぶっちゃって。) ゲンドウは、少しためらった後、静かに、しかし、はっきりと言った。 「…私は、今でもユイを愛している。そのユイと私の子だ。答えはイエスだ…。」 「そうですか。良かった。子供のことが嫌いな親なんて、人間として、信じられませんか ら。それが理由です。」 (ふう、シンジ、良かったわね。) 「と、とうさん…。」 シンジの目に涙が浮かんでいる。シンジは、初めて父に好かれていると言われたのだ。そ のため、嬉しい気持ちで一杯なのだろう。 「…シンジ。今まで悪かった。許してくれとは言わないが、いつかは全てを話す。その時 には分かって欲しいと思う。」 ゲンドウのサングラスの奥に、一瞬だが、光るものが見えたような気がした。 「では、条件だが、一体何かね。」 冬月がゲンドウを思いやってか、話を続ける。 「私なりに、立案した作戦があるので、それを見ていただきたい。次に、ある人物の協力 を得たいので、手配をお願いしたい。3つ目は、今住んでいる部屋の隣も使わせていただ きたい。4つ目は、私の昇進はここだけの秘密にしていただきたい。以上です。」 「まあ、いいだろう。その作戦案とは、どこにあるのだね。」 「ここです。」 アスカは1枚のDISKを取り出し、冬月へと渡した。 「返事は明日で構いませんが、今日の6時までにお願いしたいことがありますので、遅く とも4時までには、DISKを見て下さい。」 「ああ分かったよ。だが、我々の質問にも答えて欲しい。」 「何でしょうか。」 「どうやって、MAGIにアクセスしたのかね。しかも、アクセスした痕跡を残さずに。」 「実は、アクセスには、隣の部屋の回線を使いました。ちょこっと線を引くだけでしたか ら、思ったよりも簡単でした。それで、私から発信した記録がどこのも残らなかった筈で す。MAGIにアクセスした痕跡を残さなかったのは、開発者コードを使ったからです。 これにより、アクセスした痕跡を全て消すように命じました。」 「その開発者コードというのは、一体何かね。」 冬月の目が大きく開かれる。 「赤木ナオコ博士、私の母、碇ユイ博士の3人だけが持っていたといわれる、特別なコー ドです。これにより命令したことは、他のあらゆる命令に優先するのです。ですから、実 際には、私はMAGIにアクセスしましたが、その記録は抹消されたのです。」 「そうか。そんなものがあったのか。」 冬月は驚いた顔をした。 「赤木博士も、碇ユイ博士も、誰にもそれを伝えなかったのでしょう。私だけが、母から 受け継いでいたのです。」 「そうか、そんなからくりがあったのか。」 「もっとも、私がこれを知ったのは、最近のことです。偶然、母の残した記録から見つけ 出したのです。」 「事情は分かった。では、明日また来て欲しい。それまでには結論を出すことにしよう。 それでいいかね。」 「結構です。良い返事をお待ちしています。」 アスカはそう言うと、ぺこりと頭を下げた。 ***  アスカ達が家に帰ると、ユキがパ−ティーの用意をしていた。 「ユキ、ありがとう。シンジもこれから手伝うからね。」 「えっ、アスカ、一体どうしたの。」 「お祝いよ、お祝い。アタシの昇進祝いに、カップル誕生祝いに、あとは秘密。」 そう言って、アスカはにっこりしたが、シンジはけげんそうな顔をしていた。 (ごめんね、シンジ。あなたを驚かせたいの。それに、これは賭けだから。もし、駄目だ ったら、シンジを落胆させてしまうの。だから、今は秘密…。) 「まあ、いいけどね。あれっ、リ、リビングが…。」 シンジの目が、今度は点になった。何と、リビングの広さが倍になっていたからだ。 「な、なんで…。」 シンジは、良く目をこらして見た。そして、ようやく理解した。 「と、隣の家と繋がったんだ。」 シンジは、さっき、アスカが冬月に『今住んでいる部屋の隣も使わせていただきたい。』 と言ったことを思い出した。 「こういうことだったのか。アスカ、何でこんなことしたの。」 「だって、この方がパーティーをやり易いでしょ。」 「それだけなの。」 ちょっと、シンジの目がきつくなった。 「アタシ、何か悪いことしたの?シンジったら、怖い顔してるよ。アタシ、広い方が良い と思ったから…。」 (何よ、アタシが何か悪いことしたの。どうしようかな。怒鳴っても良いけど、この場合 は、悲しそうな顔をした方が効果がありそうね。) アスカは、瞳を潤ませる。今にも泣きそうな顔になった。 「そ、そんなことないよ。ごめんね、怖い顔しちゃって。ちょっと、驚いただけだよ。」 シンジは、アスカの涙には、とことん弱いようで、態度が一変する。 「本当に、驚いただけ?」 「うん、そうだよ。ごめんね、この通り。僕が悪かったよ。」 シンジは手を合わせて、頭を下げる。 「だ〜め。アタシを泣かそうとしたから、許してあげないもん。許して欲しかったら、今 直ぐに、ユキを手伝って。」 「わ、わかったよ。」 返事をすると同時に、シンジはエプロンを着て、ユキを手伝った。 *** 「こんばんわ〜。」 6時前になって、ヒカリとトウジがやって来た。ケンスケも一緒だ。その頃には、パーテ ィーの用意はすっかり出来ていた。テーブルの上を、所狭しと豪華な料理が並ぶ。 「お前ら〜、いいなあ〜。」 ケンスケが、いきなり恨めしそうな声を出す。トウジ達から、アスカ達が付き合うことを 聞いたのだ。3バカトリオの中で、ケンスケだけが独り身になってしまったのだ。 「うっさいわね。もてない男のひがみなんて、みっともないったら、ありゃしない。」 「おい、惣流。ケンスケが可哀相やないけ。」 「いいのよ。他人の幸せを祝福出来ない奴なんて、もてないに決まってるわ。ねえ、ヒカ リ。相田ったら、ヒカリと鈴原が付き合うのが面白くないみたいよ。」 それを聞いて、ヒカリはケンスケを睨む。それを見て、トウジは、たちまち無口になる。 「まあ、いいわ。じゃあ、乾杯の前に、皆に紹介するわ。アタシの命の恩人の、森川ユキ さんよ。今は、アタシの家の、家事全般をやってくれてるの。とてもいい子で、相田みた いな、オタクにはもったいないから、手を出さないように。」 それを聞いて、皆、どっと笑う。一人落ち込むケンスケ。 「あと、二人お客さんが来るかもしれないんだけど…。」 アスカが言うと同時位だった。 「ピンポーン。」 ちょうどその時、玄関に誰かが来たようだった。シンジはアスカに急かされて、玄関へと 向かった。 「は〜い、どなたですか。」 シンジが聞いたのとほぼ同時に玄関が開く。 「あっ!」 客の顔を見たシンジの動きが止まった。 「あの、こんばんわ。私、ここに来るように言われて来たんですが…。」 その客は、動きの止まったシンジを見て、戸惑ったように話す。 だが、シンジの目からは、涙が次々とこぼれていく。 「おい、シンジ、どないしたんや。」 トウジが痺れを切らしてやって来たが、トウジも金縛り遭ったように動かない。 そこに、ユキに肩を貸してもらって、アスカがやって来た。アスカの目からも涙が流れて いる。 (良かった。やっぱり、生きていたんだ。良かった。本当に良かった。) アスカは、心の底から喜んだ。 シンジの目の前には、シンジとアスカの大切な家族の一人である、ビール大好き女と、そ の親友である、猫好き女が立っていた。 「…おかえりなさい。」 シンジは、絞り出すようにして、声を発した。その顔は、涙でくしゃくしゃだった。 (第14.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2001.12.2  written by red-x



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