新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ

第64話

『ユキ、すまない。不甲斐ないお父さんを許しておくれ。』 えっ、ユキのお父さん、何を言っているのよ。 『借金が返せなくなって、もうどうしようも無くなったんだ。だから、父さんの命で償う しか方法は無い。ユキ、アキコとマモルの面倒を見てやってくれ。本当にすまない。その 代わりに、お前が楽しそうに話していた1泊2日の海水浴を認めたんだ。ユキ、本当にす まない。』 あっ、ユキのお父さんが首を吊ろうとしているわ。どうしちゃったのよ。何とかして止め させないと。ねえ、誰か止めてよ。ねえ、お願いだから。加持さん、シンジ、誰でもいい から止めてよ。 あっ、駄目よっ!そんなことをしたら、ユキが悲しむじゃないの。シンジだって、悲しむ わ。だから止めてよっ!ねえ、お願いだから。あんな嫌な想いをするのは、アタシだけで 十分なのよっ!だから、止めてよっ! 「止めてええええええええええええええええええええええええええええええっ!」 はっ、アタシったら、夢を見ていたのかしら。なんか、大声で叫んだような気がするわ。 「どうしたの、アスカ?」 シンジが心配そうな顔をして、アタシの顔を覗き込んだわ。ミサトは大きないびきをかい てぐっすりと寝ているけどね。 「だっ、大丈夫よ。何か、怖い夢を見たみたい。だから、気にしないでよ。」 「そうなの?大丈夫?もし怖いなら、手をつないで寝ようか。」 う〜ん、どうしようかしら。何か子供みたいで嫌だけど、まあ、シンジがそこまで言うな らいいかしら。 「そうね、そうしようかな。」 こうして、アタシとシンジは手をつないで寝たの。そのおかげか、その晩はぐっすりと眠 ることが出来たわ。 *** 「ねえ、加持さん。ユキのお父さんのことなんだけど、至急調べて欲しいのよ。」 アタシは、翌日起きるなり加持さんに電話して、ユキのお父さんのことをもう一度調べて もらうことにしたわ。もし、昨日の晩に見た夢が予知夢だったら、何か大変なことが起き ているかもしれないじゃない。ユキのお父さんが首を吊ってからでは遅いもの。 それから急いで食事の用意をして、お弁当も作って、その後にシンジを叩き起こしたの。 「シンジ、早く起きてよ。今日も特訓よ。」 「あっ、ああ。分かったよ、アスカ。でも、アスカが元気そうで良かった。昨日は何か嫌 な夢を見ていたようだから心配しちゃった。」 そう言って、シンジはにっこり笑ったわ。心配かけちゃってごめんね、シンジ。それに、 ありがとう。アタシのことを心配してくれていたのね。シンジの取り柄は、人の良いとこ ろだけだと思っていたけど、それって結構重要なのね。 人間誰しも不安な気持ちになることがあるけれど、そんな時に優しい声をかけられるのっ て嬉しいものなのね。分かってはいたけど、こんなに嬉しいものとはね。 でも、人が良いだけでは生き残れないのよ。だから、シンジはもっと特訓して、もっとも っと強くたくましくなってもらわないとね。もちろん、体だけじゃなて心もね。 だから、アタシはありがとうとは言わずにこう言ったわ。 「なあに言ってるのよ。アタシは大丈夫に決まってるでしょ。シンジとは違うわよ。」 「はははっ。そっ、そうだよね。」 あら、ちょっとシンジの顔が曇ったかしら。まずいわね、何とかしないと。 「でも、シンジのそういう優しいところは好きよ。チュッ。」 アタシはシンジの頬にさっとキスしたの。 「あっ。」 シンジは驚いて、目をまんまるくしたわ。 「へへへっ、隙あり〜っ。まだまだ、修行が足りないわよ。」 アタシは、そう言ってにっこり笑ったの。 「ア、アスカ…。」 「いいから、早く行きましょうよ。」 アタシは、放心状態のシンジの手を取って、早朝訓練を始めることにしたわ。 ***    アタシとシンジは、恒例のランニングをしたわ。そうしたら、以前ユキのお父さんを助 けた公園を通り掛かったのよ。そこで、またしても何か変な声が聞こえてきたの。 『おんどりゃあ〜っ!金、返さん気か〜っ!』 『い、いえ。誤解です。』 『いっぺん、死んだろか!』 アタシは、声のする方向へ走って行ったの。そうしたら、ユキのお父さんがヤクザ者に囲 まれていたのよ。こりゃあ、まずいわね。 「アンタ達、何してるのよっ!さっさと立ち去りなさいよっ!」 アタシは、ヤクザ者達に大声で怒鳴ったわ。でも、そいつらは平然としていたの。 「お嬢ちゃん、ワシらは話し合いをしとるんじゃ。」 「ふん、ふざけないでっ!そこのおじさんに寄ってたかって暴力を振るおうとしていたく せにっ!」 「証拠はあんのか、姉ちゃん。証拠も無しにそういうことを言っちゃあいけないなあ。」 「そうや、そうや。証拠が無いと、どんなに悪うことしても、無罪なんで。」 くっ、ふざけやがって。 「シンジ、いいからやっちゃいなさいよ。」 アタシは、シンジに向かって小声で言ったわ。 「でも、暴力はいけないよ。まずは話し合いをしないと。それに、まだおじさんは暴力を 振るわれた訳じゃないし。先に僕達から手を出したらいけないよ。」 もうっ、シンジったら。前言撤回。優しいっていうのも、罪なことがあるのね。暴力がい けないなんて知ってるわよ。でもね、それは困ってる人を見捨てる理由にはならないのよ。 「なに、馬鹿なこと言ってるのよ。話し合いが通じる相手かどうか、分からないの。相手 が悪い奴の場合は、先手必勝に決まってるでしょ。」 「じゃあ、警察を呼ぼうよ。」 「その間に、あのおじさんが暴力を振るわれて大怪我したらどうするのよ。シンジはそれ でもいいの?」 「そ、そうだね。良くないね。」 ふん、この馬鹿もやっと分かったみたいね。そりゃあ、このヤクザ者達が初対面の奴らだ ったら、アタシももっと違う方法を考えるわよ。でも、こいつらは話して分かるような連 中じゃないって分かっているし、先に手を出すまで待つなんて言ってて、おじさんが大怪 我したり死んだらまずいでしょ。 それに、暴力反対なんて軽々しく言う奴は、単なる馬鹿よ。言ってることは正しそうに聞 こえるけど、悪い結果になっても責任は取らないお気楽な連中が言ってるのよ。そう言う 馬鹿な連中に限って、自分が一回痛い目を見ると言うことが180度変わるもんなのよ。 だから、シンジ。アンタはそんな馬鹿な連中と同じじゃいけないのよ。第一、エヴァのパ イロットが暴力反対ですって。使徒が来ても、先に攻撃するななんて、そんなきれいごと 言っていたら、人類が滅びちゃうわよ。 それに、先に攻撃させたら大勢の人が死ぬかもしれないのよ。亡くなった方の遺族になん て言うつもりなの。相手が攻撃するまで待っていたなんて言ってごらんなさい。『誰かが 死ぬって分かっていたのに、わざと攻撃させたのかっ!この、人でなしっ!』なんて言わ れるわよ。 暴力反対なんていうことは、無責任な連中がストレス発散のために勝手に言ってるだけな んだから、本気にしちゃいけないのよ。そういう連中は、他人が困っていても絶対に助け ようとはしないんだから。 でも、アタシ達は違うわ。他人を助けられる力があるんだから、困っている人達のために 使わないと。それで、馬鹿な連中に何を言われてもいいじゃない。助けてあげた人達だけ は分かってくれるんだから。それが、力ある者の宿命でもあるしね。 こうして、シンジはアタシの考えを分かってくれたのか、ヤクザ者に対して猛然と先制攻 撃を仕掛けて行ったわ。 つづく(第65話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  本編でもそうでしたが、自分が何をすべきか分かろうともしないで、無責任な行動や言 動が多かったシンジ。力を持っている人は、持っていない人と比べて、責任の重さが違う のです。もっとも、大人でさえ分かっていない人が多いのですから、中学生のシンジに責 任感を求めるのは無理がありそうですが。  一方、本編のアスカは、力を持つ者の責任の重さというものを理解していたようです。 どんなに不利な戦いであろうと逃げませんでしたし、だからこそシンジが許せなかったの かもしれません。ただ、アスカも精神的には幼く、正直でなかったために心にも無いこと を言ってしまい、一見するとそうとは思えないことを言ってはいましたが。  『超少女アスカ』のアスカは、本編のアスカより精神的に少しだけ大人ですから、力を 持つ者の責務を分かっています。そして、無責任な他人に何を言われるのかが重要ではな く、力の無い者、困っている者達にどう思われるのかが重要であることも。 2003.3.22  written by red-x



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