新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ

第22話

「ねえ、シンジ。今日は記念日だから、ちょっとお洒落なレストランで食事でもしようよ。 いいでしょ、ねっ。」 アタシはそう言いながら微笑んだわ。そう、アタシとシンジは、ついさっき、婚約したば かりなの。だから、今日は普通に食事なんていう気分じゃないのよ。 「でも、ミサトさんはどうしようか。いずれは話さなきゃならないし。ミサトさんも誘っ たらどうかな。」 ムッ。この唐変木。何で婚約記念日の夜に、お邪魔虫をわざわざ呼ぶ必要があるのよ。ア タシはかなりムッとしたわ。でも、シンジは続けてこう言ったの。 「ミサトさんは僕達の保護者だし、ミサトさんに認めてもらった方が結果的にはプラスに なると思うんだ。父さんは当てにならないから、大人の承認があった方が良いと思うんだ けど、アスカはどう思う。」 「う〜ん。」 アタシは少し考えたわ。ミサトはお邪魔虫だけど、味方に付けた方が良いのは言うまでも ないし、二人だけの婚約なんて、大人からは相手にもされない可能性があるわ。でも、ミ サトが認めれば状況が大きく変わるのも事実ね。一応保護者公認になるし。良く考えたら これって結構後で効いてくるかもね。シンジも良いこと言うじゃない。 「分かったわ。シンジの言うことももっともね。二人きりの食事は別の日でも良いものね。 良し、ちょっと気が進まないけど、ミサトを味方に付けるために、今は少し我慢するとし ますか。」 「えっ、本当に良いの?」 「なによ。シンジが言い出したのに、嫌な訳?」 「ううん、そんなことないよ。でも、良かったあ。」 そう言いながら、シンジは笑顔を浮かべたわ。あら、どうしたのかしら。 「どうしたのよ。何か引っかかるわね。」 「えっ、何でもないよ。」 「そんなこと無いでしょ。あっそ。アタシには言いたくないのね。意地悪なシンジ。」 アタシはシンジにそっぽを向いたわ。そうしたら、シンジったら大慌てになったの。 「ご、ごめんよ。言ったら気を悪くすると思ったから。」 「今言えば許してあげるわ。言いなさいよ。」 「う、うん。実は、もしかしたらからかわれているのかもしれないって、少しだけ思った んだ。でも、ミサトさんまで呼んだら、流石に後で冗談だったなんて言わないと思ったん だ。だからアスカが賛成してくれて、正直言ってホッとしたんだよ。」 あら、やだ。シンジったら、変なこと考えて。でも、しょうがないか。普通はこんなに短 い時間で婚約なんかしないものね。それに、相手が超絶美少女だもの。普通に考えれば、 からかわれているって思うわよね。 でも、このアタシに抜かりは無いわ。ポケットからペンダントを出して、シンジに見せた の。その中には、アタシが作った古びた感じの合成写真が入っているのよ。こんな時のた めに用意しておいたとっておきのやつね。 「あっ、これは小さい頃の僕だ。だけど、隣に写っている女の子は誰かな。あっ、もしか してアスカなの。」 「ええ、そうよ。」 「でも、何で僕とアスカが一緒に写っているの。それに、後ろに写っている女性は、もし かして…。」 「そうよ。アタシのママとシンジのお母さんよ。」 「ど、どうして…。」 シンジは絶句したわ。 「アタシのママとシンジのお母さんは、友人だったらしいのよ。多分、アタシとママがシ ンジの家にでも遊びに行った時の写真だと思うわ。シンジは覚えていないわよね。」 「う、うん。悪いけど、全然覚えていないや。」 そりゃそうよ。作り話だもの。 「アタシね、ドイツでは良くいじめられていたの。日本人の子だってね。でも、日本に来 たら蒼い目で気味が悪いって言われたの。だからアタシは落ち込んでいたの。でも、その 時のシンジは優しくて、『一緒に遊ぼう』って言ってくれたの。だから、アタシは嬉しく なっちゃって、シンジに『大きくなったら結婚しよう』って言ったらしいのよ。もちろん シンジも『うんいいよ』って言ったらしいわ。もちろん、アタシのママ達も大賛成。でも、 今となっては、覚えているのはアタシだけってわけよ。」 「ア、アスカ…。」 「アタシ、シンジがアタシのことを覚えていてくれるかなあって、ちょっとだけ期待して いたんだけどね。でも、シンジは『何で僕のことをからかうの?』なんて言うじゃない。 アタシ、あの時は本当に悲しかったのよ。アタシはシンジに会うのを楽しみにしていたの に、シンジには綺麗さっぱり忘れられていたなんて、あまりにも惨めじゃない。」 「そ、そうだったのか。な、何て言ったらいいのか。」 シンジは本当に困ったような顔をしたわ。あ〜あ、こういう人がいるから、世の中から詐 欺師がいなくならないのよね。何でこんな見え見えの嘘に引っかかるのかしら。本当に甘 ちゃんよねえ。アタシは笑いを堪えるのに大変だったわ。 「いいのよ、もう昔の話しだもの。でも、これからはアタシのことを忘れたら許さないか らね。今まで忘れていた罰として、アタシが傍にいない時は片時も忘れちゃ駄目よ。良い わね?それを守ってくれるなら、忘れていたことは許してあげるわ。」 「う、うん。分かったよ。絶対にアスカのことは忘れないよ。忘れられる訳ないじゃない か。」 「えっ、どうして。」 「だ、だって、こんなに綺麗だし、ぼ、僕のファーストキスの相手だし…。」 シンジは俯きながら真っ赤になっていたわ。ふふふっ。シンジったら純情ね。 「じゃあ、約束よ。」 アタシはそう言いながらにっこり笑ったわ。でも、シンジの顔はまだ暗いままだったの。 「ねえ、アスカ。お願いがあるんだけど、いいかな。」 「なあに。」 「僕の母さんの写真、他に無かったかなあ。もしあったら、是非欲しいんだけど。」 「えっと、どうだったかしら。他にあったかどうか、覚えていないわねえ。でも、何で欲 しいの。」 アタシが聞いたら、シンジは悲しそうな声で言ったわ。 「僕は、母さんの顔を覚えていないんだ。写真も1枚も無くて、だから…。」 「あっ、そうだったの。ごめんね。あったかどうかはあまり覚えていないけど、探してみ るわ。もし最悪見つからなくても、この写真を拡大すればなんとかなるかもしれないし。」 「うん、ごめんねアスカ。」 「何言っているのよ。もうアタシ達は婚約者でしょ。もうちょっと頼ってもいいんじゃな い。大好きなシンジの頼みだもの。頑張るから任せてよ。」 アタシはそう言って胸を張ったわ。ふふふっ。シンジのお母さんの写真なら、実は一杯集 めてあるのよ。高校生時代からの写真がね。シンジのお母さんの交遊関係から、様々なル ートで集めていたの。その中に小さい頃のシンジの写真があると睨んでね。 その中からシンジの小さい頃の写真を見つけ出して、アタシの小さい頃の写真と合成した のよ。それに色々な処理をして、古い写真にみせかけたって訳よ。だから、やろうと思え ばシンジのお母さんの写真集が作れるわ。 「アスカ、ありがとう。本当にありがとう…。」 シンジは急に涙を流し出したの。アタシは驚いたわ。こんなことで泣くなんて、余程母親 の愛情に飢えていたのね。アタシは少し罪悪感を覚えたけど、シンジが喜ぶならOKよね。 つづく(第23話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  ちょっと悪知恵の働くアスカでした。でも、シンジはお母さんの写真を手に入れられそ うで、結果的には良かったと言えるでしょう。 2002.5.28  written by red-x



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