新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第90.5話 誤算

ネルフが撤退したと知って、イラク軍幹部は緊急に集まって作戦会議を開いた。 「くっ、くっ、くっ。奴らめ、とうとう逃げ出したな。」 「子供が動かす兵器が無ければ、戦うことも出来ない腰抜けどもよ。」 「これで、今度こそダンマームを奪い返す事が出来るぞ。」 「そして、後は一気にリヤドまで攻め落とし、その次はエジプトだな。」 「今日は、前祝いだな。」 彼らは、既に勝利した気でいた。だが、一人の男が祝勝気分を吹き飛ばした。 「た、大変ですっ!」 息を切らせながら、一人の男が会議室に入ってきた。 「ああ、どうした。何をそんなに急いでいるんだ。」 男は、一息ついてから報告を始めた。 「実は、死んだパイロットが2名であることは確認されました。さきほど、ネルフからの 公式発表がありましたので。」 すると、その場の緊張感が薄れていった。 「なんだ、吉報じゃないか。」 軍幹部の一人が、ほっとした口調で言う。それに対し、男はですが、と続けた。 「ところが、死んだパイロットは、ロシア人と中国人だったのです。」 それを聞いて、その場はにわかにざわめいた。 「なにっ。」 「イスラエルの女ではなかったのか。」 「アメリカ人でもなかったというのか。」 「ロシア人のパイロットがいたとは、知らなかった。」 「中国のパイロットもいたとはな。」 「だが、所詮パイロットは消耗品。気にすることはなかろう。」 「そうだ、気にすることはない。」 男はさらに続けた。 「悪いことに、ロシアと中国のパイロットは女の子だったので、そのために全世界規模で テロへの報復を求めるデモが発生しています。」 男の額には、脂汗が浮かんでいた。 「ふん、それがどうした。」 「デモなど怖くはない。」 「何もしない、何も出来ない人間がデモをするのだ。恐れることは無い。」 男の頬に汗が流れた。 「そして、ロシアのパイロットですが、ロシアの大統領の息子が大ファンだったらしく、 デモの先頭に立って我が軍への報復を叫んでいます。」 さすがに、この報告を聞いて背筋に冷や汗が流れる者が何人か出た。 「何っ!」 「それはまずいな。」 男はさらに続ける。 「それで、ロシア軍に不穏な動きが見られます。カスピ海沿岸に、大規模な兵力が集まり つつあるようです。また、中国軍も旧アフガニスタン国境に大規模な兵力を動員している 模様です。」 その報告がもたらした衝撃は、軍幹部を打ちのめした。イラク軍は、サウジアラビアへの 侵攻を続けるどころではなくなったのである。 そして、それ以降の会議は、旧イランと旧アフガニスタンの守りをどう固めるかという話 しに費やされることになった。 これには、ネルフ撤退が大きく作用していた。もし、未だにネルフがサウジアラビアに残 っていたならば、イラク軍はネルフを追い出すまで攻撃の手を緩めることはなかっただろ う。 だが、アスカの決断によって、ネルフはサウジアラビアから撤退したため、サウジアラビ アには当面イラク軍の脅威となるものはないし、当面は出現しないだろう。 強敵がいなくなれば、何も急いで攻撃を仕掛ける必要はない。当面の最大の脅威はロシア と中国になったのだから、両軍への備えが最優先になったのである。 *** 「ランブロ様、良い知らせです。」 暗い部屋の中で、声が響いた。 「なんだ、アリよ。」 アリと呼ばれた男は、笑顔で報告した。 「ネルフの流した偽情報によって、現在イラク軍は、カスピ海沿岸と中国との国境付近の 兵力を増強しています。このため、サウジアラビアにおけるイラク軍の活動は休止状態に なりました。」 「ふん、ネルフもやるな。やはり、情報戦ではイラクの1枚も2枚も上手を行くな。」 「おそらく、時を稼ぐつもりなのでしょう。エヴァンゲリオンを直す時間を」 「で、どれくらいで直りそうか。」 「そうですね、おそらく2カ月以内には。」 「もっと長く出来ないか?」 「それには、ネルフ本部へのテロ攻撃が必要になります。それでも良いのでしょうか。」 「いや、まずい。英雄イカリシンジと智将カツラギミサトを敵に回すことになるかもしれ ん。それだけは絶対に避けたい。」 「では、いかがいたしましょう?」 「そうだな、こういうのはどうだ。」 ランブロは、アリの耳元で何かを囁いた。 「おお、いいですな。分かりました、やってみましょう。」 アリは、笑顔で部屋を出て行った。
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  アスカの英断と謀略によって、サウジアラビアへの侵略は小康状態になりました。果た して、アスカの巻き返しがなるでしょうか。また、謎の勢力の暗躍はいかに。 2004.6.4 written by red-x