新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部



第89話 大勝利 

ダンマームでは、ジャッジマンが冬月に急ぎの報告をしていた。 「冬月司令官、このダンマーム周辺にイラク軍が続々と集結しつつあります。どうやら、 総攻撃を仕掛けてくるようです。」 「ほう、兵力はどれくらいかね?」 予想通りの冬月の問いかけに、ジャッジマンは即座に答えた。 「おおよそですが、約30個師団、30万人規模と思われます。」 「おおげさだな。たった千人のネルフに対して、現在サウジアラビアに派遣している兵士 の3割もの戦力で攻める気かね。」 冬月は思わず天上を見上げた。だが、ジャッジマンはさらりと答えた。 「まあ、エヴァが無くとも戦闘機が60機もありますから。それに、サウジアラビア軍も 続々とこの地に集結して、現在の兵力は3万ほどになっていますし。ですから、敵さんも かなりの損害を覚悟してるでしょうな。」 「ふうむ、30万人対3万人か。勝てるかね?」 「勝つ必要はありません。敵を追い払えばいいんですから。」 「ふむ、確かにそうだな。まあ、戦争は君の得意分野だろうから任せるよ。」 「はっ、お任せ下さい。」 ジャッジマンは敬礼をして部屋を去った。だが、その後ろ姿を冬月は不安げに見ていた。 *** 一方その頃、イラク軍は3方向からダンマームに攻め込もうとしていた。 北西のサファニーヤからは10万の軍勢が陸路で。 東のマナーマからも海を渡って10万の軍勢が。 南東のドーハからも10万の軍勢がフフーフとアブカイクを攻め落としてから、ダンマー ムへと攻め入る手筈だったのである。 だが、そこに異変が起きようとしていた。 「司令っ!何か様子が変ですっ!」 通信兵が急に大声で叫んだため、クサイ軍の司令官は何事かと問いかけたところ、他の友 軍との連絡が急にとれなくなったのだということだった。 「ふうむ、変だな。砂嵐の気配でもあるのか?」 司令の問いに、別の兵士が首を振った。 「いいえ、そのような兆候はありません。」 「だとすると、自然現象ではなさそうだな。全軍に臨戦態勢に移るように伝えよ。」 「はっ!」 部下の兵達は、全軍に司令の命令を伝えようとしたのだが、それは果たせなかった。 「ドッカーン!」 近くで爆発音が響き、大地が大きく揺れた。 「なっ、何事だっ!」 司令官は、椅子から転げ落ちそうになりながらも、根性で持ちこたえて聞いた。だが、誰 も状況を把握している者はいなかった。 「わっ、分かりませんっ!」 返って来たのは悲鳴にも似た声だった。だが、それに続いて再び爆発音が響いた。 「ズッガーン!」 そして、大地がさきほどよりも大きく揺れた。 「くっ、敵襲かっ!敵は一体どこなんだっ!」 司令官は叫んだが、答える者はいなかった。 「ちっ、もういいっ!」 司令官は、指揮車両から出て辺りを見渡した。すると、フフーフの方角から光が閃いたか と思うと、次の瞬間またもや近くで爆発音が響き、大地が大きく揺れた。 「ば、バカなっ!フフーフからはまだかなり距離があるはずだ。何で攻撃が来るんだ。」 司令官は呆然としたが、今の自軍の兵器ではフフーフに攻撃は届かない。 「なっ、なんてこった…。このまま全滅するしかないのか…。」 司令官は、砂漠の上に膝をついた。このままでは、何ら反撃出来ずに部隊が全滅してしま うのは火を見るよりも明らか。これだけの大敗を喫したならば、仮に生き延びても処刑さ れてしまうだろう。 「俺の人生もここまでか…。」 司令官が死を覚悟したとき、通信兵がやって来た。 「フフーフから通信が入っています。無条件降伏を要求していますが、どうしますか?」 司令官は力なく答えた。 「ふっ。これでは戦えまい。要求を飲むしかないな。」 こうして、30万もの大軍の一角がもろくも崩れさったのである。 *** 同じ頃、マナーマからダンマームへと向かう船団に向けて攻撃が開始されようとしていた。 「どう?用意はいい?」 ミンメイが声をかけると、フェイは元気よく答えた。 「任せておいてよ。私だって、ミンメイには負けないんだから。」 フェイはエヴァに乗って、ポジトロンライフルを構えていた。本来はミンメイが正パイロ ットなのだが、フェイに強く頼まれてミンメイが交代したのだ。もちろん独断ではなく、 ジャッジマンの許可は得ている。 「うん、期待してるわよ。妹さん達に手柄話が出来るといいわね。」 ミンメイは、フェイとは1年ほどの付き合いしかないが、そんなことを感じさせない位の 仲良しになっていた。一人っ子のミンメイに対して、フェイは5人姉妹の長女ということ もあり、フェイはミンメイのお姉さん気取りのことが多かったが、ミンメイはお姉さんが 出来たみたいな嬉しい気分だった。 時折フェイは妹達の話をするのだが、一人っ子のミンメイにとっては新鮮に感じられる話 が多く、ミンメイはフェイの話を聞くのが楽しみでもあった。 フェイは二言目には、『妹なんて、ウザイのよね。』なんて言うのだが、もちろん本心で はないことは分かっていた。絵を描くのが好きなフェイが、裕福ではない家計を助けるた め、妹達の進学費用のために、絵を描く道を諦めてパイロットに志願したことを知ってい たからだ。 「ハン、あんなウザイ妹達に話すことなんか無いわよ。」 などと無理して言うフェイを見て、ミンメイは笑いそうになったが、何とか堪えた。 「はいはい。分かったから、ちゃちゃっと敵をやっつけてね。」 「ええ、行くわよっ!」 フェイが声をあげると同時に、ポジトロンライフルが火を吹いた。そして、次々と船に着 弾して船を沈めてく。そして、1時間後に船団は全滅した。 *** 残る北西のサファニーヤからダンマームに向かった軍は、途中で地雷原に足止めされて、 予定よりも2時間遅れで進軍していた。 「え〜い、こんなに遅れてしまったか。まさか、もうダンマームは陥落しているんじゃな いだろうな。他の軍の状況はどうなっている?」 司令官の声に、通信兵は困惑しながら答えた。 「そ、それが、全く連絡がとれないのですが。」 それを聞いて、司令官は驚いた。 「なっ、なんだとっ!そんなことは、もっと早く報告するんだっ!」 「す、すいませんっ!」 通信兵は謝ったが、時既に遅しであった。ダンマームでは、2体のエヴァが攻撃準備を終 えていたのである。 「ハウレーンにフェイ。もうすぐ攻撃開始だ。用意はいいかな。」 ジャッジマンの問いかけに、二人は元気に応じた。 「大丈夫だ。」 「こっちも問題ありません。」 「ようし、ならば先程打ち合わせた通りにやるんだ。ハウレーンから行けっ!」 「はいっ!」 返事をすると共に、ハウレーンの乗ったエヴァが弾かれたように敵軍へと突っ込んで行っ た。それをフェイが後ろからポジトロンライフルで援護射撃を行う。敵の戦車や装甲車な どが次々に炎をあげる。そして頃合いを見計らって降伏を勧告すると、敵は簡単に応じ、 この戦いも他の戦いと同様にあっけないほど簡単に終わった。 「二人とも良くやった。だが、油断は禁物だ。しばらく現状のまま待機しろ。」 「はいっ!」 「了解しましたっ!」 ハウレーンとフェイは、ジャッジマンの命令通り、エヴァに乗ったまま待機することにな った。 *** 一方、日本では…。 「どう、ミサト。今回の作戦もうまくいっているのかしら。」 発令所で作戦指揮を執っているミサトのところに、リツコがやって来た。 「ええ、思った以上にね。」 「敵を油断させて誘い出し、そこを一気に叩くなんて。こんな古くさい手がうまくいくと は思わなかったわ。」 「ホントよねえ。私も実は不安だったのよ〜。でもねえ、アスカがやれって言うし、作戦 が失敗したとしても、敵の被害の方が断然大きいのよねえ。」 「まっ。責任者がそれでいいのかしらね。」 「いいのよ〜っ。作戦はうまくいってるんだから、堅いこと言わないでよね。」 「まあ、いいわ。で、状況はどうなってるの?」 「そうねえ。24時間前にアデンを奪回したのは知ってるわよね。その後、敵が3方向か らダンマームへ進撃を開始したわ。兵力はそれぞれ10個師団、合計で30万人規模ね。 南東のドーハから来た敵をフフーフでアリオス君が撃退したわ。あと数時間でダンマーム に戻る予定よ。 東のマナーマから海を渡って来た敵船団は、フェイが全滅させたわ。 北西のサファニーヤから来た敵は、数時間地雷原で足止めしたの。その間にフェイを急い でダンマームに戻したのよ。 そして、傭兵部隊のヴァンテアンが、アデン近辺に隠れていた敵戦力を探し出して壊滅さ せたわ。おかげでハウレーンが敵に撃ち落とされずに、敵の攻撃になんとか間に合ったっ ていう訳なのよ。今頃ドンパチやってるはずよ。」 「そうなると、後はダンマームに攻め込んでくる敵をやっつければ良い訳ね。」 「そうね。でもね、これで終わりじゃないわよ。次はこっちから反撃するつもりよ。」 「そう…。まだまだ終わらないようね。」 「でも、リツコが用も無いのにこっちに来るなんて、一体どういうことなの?マヤちゃん が心配なの?」 「正直言うとね。戦場の真っ只中でもあるわけでしょ。」 「大丈夫よ。冬月副司令もいるし、ジャッジマンもいるしね。何かあったら、パイロット とマヤちゃんは最優先でこっちに送り返すようには言ってるしね。」 「あら、そうだったの。でも、副司令はいいのかしらね。」 「げっ。言うのを忘れてた。まっじぃ〜。」 ミサトが少し顔をしかめると、オペレーターの大井サツキから指示を求められた。 「葛城二佐、ジャッジマン副部長から通信が入っています。おつなぎしてもよろしいでし ょうか。」 「ええ、お願い。」 ミサトが言うと同時に、モニタにジャッジマンの顔が映った。 「葛城二佐、ダンマームに攻め入ろうとしていた敵軍30万は、ほぼ壊滅しました。」 「ご苦労さま。次の作戦は12時間後だから、みんなに交代で休憩をとってもらって。 でもね、パイロットのガードだけは気を抜かないでね。」 「ええ、分かってます。」 「大丈夫だとは思うんだけど、万一ってあるじゃない。それに、アスカがうるさくてね。 あと、マヤちゃんは元気かしら?」 「え、ええ。最初はかなり疲れていたようですが、今では元気に働いています。」 「あ、あのおっ、エカテリーナちゃんのことも聞いてくれませんか。」 横からさきほどのオペレーター、長い髪がステキなスラブ系美人である大井サツキが頭を かきながら聞いてきた。サツキはロシア系のハーフであることから、ロシア支部のカテリ ーナとは結構仲良くしていたため、気になるらしい。 「ええ、いいわよ。ジャッジマン、エカテリーナはどうしてる?」 「ハウレーンと交代して、現在エヴァで待機任務に就いています。」 「じゃあ、特に問題はないのね。」 「いえ、そうでもないようです。肌が黒くなるって言って、ぼやいていましたから。」 それを聞いて、ミサト達は大笑いした。 *** そして、アスカルームでは…。 「やったね、アスカ。大勝利みたいだね。」 シンジはニコニコである。 「あのねえ、シンジ。作戦は始まったばかりなのよ。次の作戦が成功して、初めて勝った と言えるのよ。」 「でもさ、このままだと簡単に勝てそうじゃないか。」 「あのねえ、まだまだどうなるのか安穏とはしてらんないのよ。」 アスカは、今回の戦闘で少なくとも十数万人規模の死傷者が出ていることが予想出来たた め、シンジほど喜ぶ気持ちにはなれなかった。 (第89.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  偽情報を流してエヴァの増援が無いと敵を騙して攻めさせて、そこを一気に反撃するの が今回の作戦のようです。今のところは大勝利ですが、次の作戦もあるようです。  果たして、次の作戦とは? 2004.5.16  written by red-x



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