新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部



第85話 膠着

「う〜ん、眠いわねえ。ふわああ〜っ、と。」 最近のアスカは寝不足である。ここ1週間は、サウジアラビアに派遣されたネルフの平和 維持活動軍の準備やらで忙しく、派遣された後は、『サンダーアロー作戦』の支援で更に 多忙を極めていたからである。しかも、物凄く疲れがたまっていた。そのため、学校でも あくびをすることが多く、現在も、休み時間とはいえあくびをしている最中である。 「ねえ大丈夫、アスカ?」 顔色がいつもより悪いアスカを見かねて、シンジが優しく声をかける。 「ん、何とか大丈夫よ。心配してくれてありがとね、シンジ。」 いつもは情けないシンジだが、こういう体調が万全でない時はありがたい。色々と心配し てくれるし、可能な限りアスカの手伝いをしてくれるからだ。今日も登校する時にアスカ のカバンを持ってくれた。しかも、もちろん見返りなどを求めることはないのだ。 (シンジって、本当に優しいのね。そういや。前からそうだったっけ。) アスカは、量産型使徒と戦った後、シンジが献身的に自分の世話をしてくれたことを思い 出した。それ以外にも、シンジはアスカの調子が悪い時には、色々と声をかけてくれてい たのを思い出した。もっとも、声をかけるタイミングが悪くて、アスカは怒っていたこと も多かったのだが。 (何度怒っても、声をかけるのだけは止めなかったわよね、シンジは。結構思いやりって いうもんがあるのね。少し見直しちゃったかな。もっとも、声をかけるタイミングだけは 学習してほしいわよね。) だが、アスカは大きな見落としをしていた。声をかけてもアスカは怒ったのだが、声をか けないともっと怒ったのだ。だからシンジは声をかけるのを止めなかったのに過ぎないの だが、勘違いというのは、時には物事を良い方向に持っていくようである。 (今度何か手伝ってくれたら、ご褒美をあげようかな。) アスカは、シンジが聞いたら喜びそうなことを考えていた。しかし、そんなことを考えて いると、大抵誰かの邪魔が入るものである。 「おのお、惣流さん。」 タイミング良く?今では、ヒカリに次ぐ親友とも言えるユキが近付いてきた。 「ん、なあに?」 「テニス部のことなんですけど…。」 ユキは、もじもじしながら口を開いた。 (はははっ、やっぱりね。でも、ごめんねユキ。お仕事優先なのよ。) アスカは、ユキが言いたいことを瞬時に悟った。だが、現在の状況ではテニスをするどこ ろではない。そんなことをしたら、さすがのアスカでもぶっ倒れてしまうだろう。 「ごめん、練習には当分出られないわ。ネルフ絡みの仕事が多くて。イラク情勢が落ち着 かないと、ね。」 「やっぱり、そうですよね…。分かりました。」 ユキは、そう言って肩を落とした。でも、落ち込み方が激しかったため、アスカは気にな って聞いてみた。 「ん、一体どうしたのよ?言ってみなさいよ。」 「ええ、実はもうすぐ県大会があるんです。その出場選手のことで、惣流さんと相談しよ うと思ったんです。一応、私達3年生にとっては最後の大会ですし、惣流さんにも出て欲 しいなあと思ったんです。」 「ああ、そうだったの。でも、ちょっと無理そうね。でも、部に入って半年のアタシなん かよりも、他の人に出てもらった方がいいんじゃない。」 「でも、惣流さんがいないと勝てないですから…。」 「はははっ、そういうことね。」 アスカは、全国大会のことを思い出した。団体戦では、シングルス3、ダブルス2の7人 で戦うのだが、アスカとマリアのシングルスと、ユキと田中ミナという3年で一番上手い 女子のダブルスが県大会、関東大会と勝ち抜き、全国大会ベスト4という快挙をなし遂げ たのだ。アスカは個人戦の全国大会にも出て、シングルスで見事優勝している。 だから、団体戦のメンバーからアスカが抜けるとなると、第壱中の勝利はおぼつかないの だ。ましてや、マリアが抜けるとなると、1回戦突破ですら危うくなるのだ。 「でも、いいです。惣流さんは大切なお仕事がありますから。」 ユキが肩を落として立ち去ろうとした時、アスカの脳裏に閃くものがあった。 「ねえ、ユキ。いい考えがあるんだけど。」 アスカの目は、教室の隅にいたキャシーに向けられていた。この時、キャシーは背中に悪 寒が走ったとか。 *** 「…という訳で、現在戦線は膠着状態よ。ダンマーム奪回後、イラク軍の進撃は止まって いるけど、こっちもそれ以上押し返す力は無いのよ。」 お昼時、9月に完成したばかりの食堂で、ネルフ関係者だけが集まって食事をしていた。 イラク情勢について、最新情報はメールなどで伝達しているが、それだけだとこれから出 撃する研修生達が欲する情報が得られない可能性がある。そのため、アスカが人選をして、 一緒に食事をしながら情報提供や質疑応答をしたりしている。 ミサトが説明役で、リツコはその補助である。アスカとシンジ以外のメンバーは、マリア、 ミンメイ、ミリア、キャシー、アリオス、マックスであった。要は、ミラクル5と傭兵部 隊の中隊長である。 ミサトが一通り戦況を説明すると、みんなから次々と質問が集中する。 「平和維持軍が攻勢に出るのはいつ頃ですか。」 「各国の部隊が集結してからになるわね。そうねえ、おそらく1カ月後になるかしら。」 「もっと早く集結出来ないんですか。」 「それがねえ、ペルシャ湾を抑えられているのが結構効いてるのよね。地中海と紅海から しか軍隊を送り込めないし。空輸じゃ効率が悪くてお金がかかるうえに、輸送機が撃墜さ れやすいっていう難点があるのよねえ。」 「トルコから攻めればいいんじゃないですか。」 「それがねえ、イラク本土には攻め込まない約束になっちゃってるのよ。政治の駆け引き っていう奴で、そうなっちゃったのよ。」 「じゃあ、シリアかヨルダンから軍隊を送ればどうですか。」 「それがねえ、シリアもヨルダンも中立で、軍隊を通してくれないのよ。だから、アジア 方面の軍隊はイエメンの南を通って紅海に入ってメッカ付近で上陸するの。ヨーロッパ方 面の軍隊は、地中海からスエズ運が経由で紅海に入って、これまたメッカ付近で上陸よ。」 「ええっ、それじゃあ物凄く時間がかかるんじゃあ。」 「そうなのよ。その間に、敵の戦力は増す一方なのよね。ますますやりにくくなるわ。」 「それじゃあ、こちらの被害も大きくなるんじゃあ。」 「言いたくないけど、その通りね。」 「敵の兵力はどれくらいなんだ。」 「そうねえ、正規軍はおおよそ100万人と言われているわ。そのうち、サウジアラビア や周辺国に攻め入っているのは、30万人ほどのようね。まだまだ、兵力を増強する余地 があるわ。予備役を含めると、兵力は200万人と言われているしね。」 「平和維持軍の兵力は、どれくらいになるんですか。」 「う〜ん、一応10万人規模の派兵になると思うんだけど。それに加えてサウジアラビア の正規軍が10万人、国境警備隊が半分は残っているとして5万人いるはずよ。さらには 予備役が10万人かしらね。合わせると、35万人かしらね。」 「最悪、敵は兵力の半分を投入するんじゃないですか。100万、ううん、最悪150万 対35万でしょ。勝てるかしら。」 「勝つ必要はないわ。戦わずして、イラク軍が自国内に戻ってくれればそれにこしたこと はないもの。」 「あの大統領が簡単に引き下がるとは思えませんけどねえ。」 「まあ、それは言えるわね。その時は、全力で戦うしかないわね。」 とまあ、こんな調子であった。そして最後に。 「まあ、大丈夫よ。何とかなるわよ。」 というミサトの一言で終わりになるのだった。 *** 「ねえ、キャシー。ちょっといいかしら。」 食堂で解散した後、珍しくアスカからキャシーに声をかけた。 「はい、なんですか。」 「ちょっと、お願いがあるのよ。こっちに来て。」 キャシーが頷いてアスカの後を追うと、アスカは空き教室へと入って行った。 「えっ、キャシーなの。一体、どうして。」 「ナスターシャじゃないの?」 そこには、目を白黒させているジャネットとソフィーがいた。 「さあて、集まったわね。実は、みんなに集まってもらったのはね、特訓をしてもらうた めなのよ。」 「特訓ですか?」 「一体、なんの?」 ジャネットとソフィーは揃って聞いた。 「ジャネットとソフィーは、テニスのダブルスの特訓をしてもらうわ。キャシーはコーチ をお願いするわ。いいわね。」 「ええ、いいですけど。」 キャシーは頷いたが、ジャネットとソフィーは何か言いたそうで、でも二人の恥ずかしい 写真を持っているアスカには逆らえないから、口を開けないでいた。 「ジャネットとソフィーはね、成績が悪いから本国に帰ってもらうことになったわ。でも、 一回だけチャンスをあげるわ。来月の県大会で結果を出すのよ。そうすれば、今まで通り 研修を続けてもいいわよ。分かった?」 「「は、はい。」」 二人とも、一挙に真剣な顔になった。ここで本国に帰されるわけにはいかないのだ。 「それから、キャシーも監視役として県大会に出てもらうから、よろしくね。」 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。私には色々と仕事が…。」 「県大会で負けたら、仕事も増えるからね。まあ、そういうことで決まったから。後は、 ヨロシク!」 言うだけ言うと、アスカはとっとと逃げるように去って行った。 「げっ。どうしよう…。仕事が山ほどあるのに…。」 キャシーは呆然として立ちすくんだ。 *** 一方、その頃のイラクでは…。 「冬月司令官、定時報告に参りました。」 「おお、入ってくれ。」 「失礼します。」 ジャッジマンは、部屋に入るなり敬礼した。そして、早速戦況を報告する。 「昨夜は、マナーマ、ドーハ、アブダビ、サファニーヤ、カフジ、ドバイの各都市を攻撃 しました。これで、1週間連続で攻撃を仕掛けたことになります。」 「ふうむ、それで戦果はどうかね。」 「イラク軍の進撃は止まったままです。補給物資の集積所を優先的に攻撃しましたので、 遠からず敵の燃料や武器弾薬が底をつくことでしょう。」 「奴らの反撃はどうかね。」 「はい、若干のミサイル攻撃と戦闘機の接近がありましたが、いずれも撃退しました。我 が軍の損害は軽微でした。」 「そろそろ、敵の本格的な反撃がありそうだな。」 「はい、その通りです。それに備えて、わが軍の布陣を少し変えたいのですが。」 「ああ、良かろう。任せるよ。」 「それで、援軍の件はどうなっているでしょうか。」 「ふうむ、なかなか上手くいっていないようだ。特に、ゼーレの影響下にあったアメリカ やヨーロッパの各国が、何かと理由を付けて派遣を渋っているのだよ。」 「やっぱりそうですか。それでは、思った以上に苦戦しそうですね。」 「ああ、イラクもこのままやられっぱなしという訳にはいかんだろうしな。いずれ態勢を 立て直して反撃してくるだろう。」 「問題は、それより前に援軍が来るかどうかですね。」 「ああ、そうだ。間に合わない場合、海外支部に配備予定のエヴァ、6機全ての力を借り なければならないかもしれんな。」 「エヴァを6機ともですか。それは豪勢ですね。それよりも、彼をこちらに呼び寄せれば 済むのではないでしょうか。」 「私もそれは考えたのだが、シンジ君本人が嫌がっているようだし、アスカ君も反対して いる。二人の反対を押し切ってまでやるべきだとは思わないがね。」 「では、せめて渚カヲルはいかがですか。彼ならばかなりの戦力になりますし、作戦行動 の制約が殆ど無くなります。何と言っても、ケーブル無しで戦えるのが、シンジと渚カヲ ルだけというのは厳しいですね。」 「君の立場ならばそうだろうな。だがな、エヴァはあまり力を見せつけてもいけないのだ。 ケーブル無しで自由に戦えるエヴァは、敵に底知れぬ恐怖を与えるだけでなく、味方にも いらぬ不安を抱かせる可能性がある。それではまずいのだ。」 「なるほど、そういうお考えなのですな。」 「負けてはいかんが、エヴァで勝ちすぎても良くない。だから、援軍の到着をじっと待つ しかないのだよ。現在の膠着状態は、それからするとむしろ好ましいのだよ。」 「分かりました。当面は、この都市の防衛に全力を注ぎます。」 「うむ、頼むよ。」 「はっ。」 ジャッジマンは、冬月に敬礼をして部屋を出た。そして、部屋を出て一言。 「ちっ。こんな場所に長居したくねえのにな。ちくしょう、参ったぜ。」 ジャッジマンは、大きくため息をついた。 (第85.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  ネルフが参戦してから、既に1週間経ちますが、戦闘は長引きそうです。果たして、戦 争の行方はどうなるのでしょうか。 2004.1.10  written by red-x



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