新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部



第86話 試作品

「ねえねえ、ちょと聞いてよ、シンジ。」 アスカはいつになく上機嫌でシンジに話しかけた。今、アスカはシンジと二人きりでネル フ内にある技術部副部長室、通称アスカルームにいる。 「ん、どうしたの?」 シンジが聞くと、アスカは待ってましたとばかりににっこりと笑う。 「あのね、やっと試作品が出来たのよ。なんだと思う?」 「えっ、何かな。エヴァの武器なの?」 「ぶぶう〜っ。違うわよ。」 「じゃあ、新兵器?」 「ぶぶう〜っ。半年かそこらで、そんなに簡単に新兵器が造れる訳がないでしょ。」 そう、新型の戦闘機でさえ、1年やそこらでは開発出来ないのだ。 「ええっ、じゃあ、何かなあ。新型のエントリープラグが出来たとか。」 「う〜ん、ちょっと惜しいわね。ヒントはね、5分から30分になることよ。」 「あっ、もしかして。エヴァの稼働時間が長くなるの?」 「そうよ、大当たり!エヴァの背中にね、新開発の超高性能、超軽量の電池を積むのよ。 これで、サーシャ達、イラクに行ったパイロット達もかなり楽になるはずよ。」 「なんだあ。僕にはあんまり関係ないじゃないか。つまらないの。」 「ぬあんですって!」 シンジはまたも余計なことを言って、アスカを怒らせてしまうのであった。 ***  さて、話は変わるが、ここで研修生達の現状について整理してみよう。 最初に◎正パイロット、○副パイロット、△予備パイロットに選ばれた者が25名。 イラクへの派兵第一陣として  フランス支部  :◎ハウレーン  イギリス支部  :○アニー、△イライザ  ロシア支部   :△エカテリーナ  エジプト支部  :◎サーシャ、○ザナド、△イリス  インドネシア支部:△クリスティン イラクへの派兵第二陣予定者として  中国支部    :◎リン・ミンメイ、△フェイ  インド支部   :△ラシッド、△カリシュマ  アメリカ支部  :○アリオス、○アールコート  アメリカ第3支部:◎キャシー、△テリー、△ニール 本部待機予定者として  ドイツ支部    :◎マリア、△ハンス、△ハンナ  ドイツ第2支部  :△ウィチタ  ブラジル支部   :◎ミリア、○マックス、△エドナ  オーストラリア支部:△ジュリア 予備パイロットにも選ばれなかった者が20名。  ドイツ支部    :男1名  ドイツ第2支部  :ナスターシャ  エジプト支部   :男1名  インドネシア支部 :男2名  中国支部     :男2名  イギリス支部   :トム  フランス支部   :ジャン、ソフィー  ロシア支部    :男2名  アメリカ支部   :男1名、女1名  アメリカ第3支部 :ジャネット  インド支部    :男1名  ブラジル支部   :男1名、女1名  オーストラリア支部:男1名、女1名 他に、アスカを襲おうとして帰国させられた者2名がいるが、帰国させられた理由が公表 されなかったため、予備パイロットにも選ばれなかった20名の者達は、みな自分もいつ か帰されるのではないかという不安を抱えながら訓練をしていた。 特に、シンジとアスカを襲おうとして失敗しているナスターシャ、ソフィー、ジャネット の3人は必死だった。ジャネットとソフィーは、アスカに言われた通りテニスのダブルス の特訓をしていたし、ナスターシャもそれにならった。 3人とも、各々の支部に戻ればエリートのパイロット候補生であり、多くの分野で人より も抜きんでた能力を持ち合わせていた。それはスポーツの分野においても言えることであ った。スポーツの面では、3人とも日本の並の高校生レベル以上なのだ。 したがって、中学生テニスの県大会レベルなどは、3人にとってはかなり低い関門ではあ ったのだが、万一を考えて3人とも特訓に勤しんだ。このため、思わぬ戦力の増強により、 テニス部副部長のユキは涙を流さんばかりに喜んだものである。 *** 「…という訳で、状況はかなりヤバクなってきたわ。敵の兵力は既に60万を超えている し、さらに増強する気配が見えるわ。各国の部隊集結も遅れがちだし。現在、碇司令が更 なる兵力の増強を国連で訴えてはいるんだけど、あまり状況は良くないわ。」 お昼時、いつものように食堂でネルフ関係者だけが集まって食事をした後、ミサトがイラ クの最新情報を説明していた。だが、最初の奇襲成功以降は目に見えた成果はあがってお らず、刻々と状況は悪化していたため、ミサトの説明も歯切れの悪いものであった。 サウジアラビア軍は各地で撃破され、かろうじてメッカ周辺とダンマーム周辺のみが軍隊 として機能しているような有り様だった。それ以外の地域はイラク軍の進撃を阻む軍は存 在せず、かろうじて砂漠の存在がイラク軍の進撃を阻んでいた。 エヴァを使ってイラク軍の要所にポジトロンライフルを撃ち込み、イラク軍をかくらんし ていなかったら、今頃はサウジアラビアの半分以上はイラク軍に制圧されていただろう。 だが、いかんせん2機のエヴァ、しかもS2機関を稼働出来ないパイロットでは軍事行動 に制約が多い。このままでは、サウジアラビア全土をイラクに占領される日もそう遠くは ないだろう。 『大丈夫よ、もう少し粘ることが可能だわ。』 アスカがいれば、そう言って胸を張っただろう。だが、アスカは現在ネルフに缶詰状態で ある。そのため、シンジが代わりに言った。もちろん、自信がなさそうにである。 「あのお、何とかなるんじゃないですかね。」 「えっ、なによ、シンちゃん。何かいい話しでもあるの?」 ミサトは、シンジの言葉に一筋の希望の光を見いだしたようで、ぱっと顔が明るくなった。 「まあ、そうかもしれません。」 「何よ、言ってよ。」 「あくまで、アスカが言ってたんですが。僕はどうかと思うんですけど、エヴァの稼働時 間が5分から30分になるらしいんです。」 「「「え〜っ!」」」 途端にその場の全員が大声をあげる。 「ど、どうしたのさ。」 シンジはちょっと引いてしまうが、ミサトはシンジの鼻先に顔を近づける。 「ちょっと、それは本当なの?」 「ええ、そうです。アスカがそう言ってました。」 「やったわ。さすがはアスカね。」 「あの、ミサトさん。エヴァの稼働時間が5分から30分になったくらいじゃ、大して状 況は変わらないんじゃないかと思うんですけど…。」 「なあに、言ってるのよ。全然違うわよ。稼働時間が6倍になるんでしょ。物凄いことじ ゃない。いい、例えば爆撃機の航続距離が倍になったら、行動範囲は4倍になるのよ。6 倍だったら、36倍ね。それと同じようなことなんだけど、それがどんなに凄いことなの か想像がつかない?」 「え、ええ。分かりません。」 シンジは、少し俯いてしまった。だが…。 「良かったわ。さすが、アスカね。これでサーシャ達は安心するわね。」 「ええ、そうね。でも、本当かしら。いくらアスカでも、そんなことが可能なのかしら。」 「大丈夫でしょ。アスカは、碇君には嘘はつかないから。」 などと、周りのみんなは盛り上がっていった。アスカが聞いたら目をつり上がるようなこ とをさらっと言う者もいたのだが。 「そうか、そんなに凄いことだったのか…。」 シンジは、少しだけ暗い気持ちになった。だが、シンジの顔は急速に明るくなった。シン ジの元気の源、アスカが現れたからである。 「ごっめ〜ん、お待たせ〜っ。」 「ア、アスカ。今日はネルフにいるんじゃ…。」 喜びの気持ちを抑えて、シンジはアスカに疑問を投げかけた。今日はアスカはずっとネル フにいると聞いていたからである。 「そのつもりだったけど、思った以上に作業が順調なのよ。だから、息抜きに来たってい う訳なのよ。」 アスカはどこに座ろうかと辺りを見渡すが、当然の如くシンジの隣の席が空く。シンジの 隣にはミサトとアリオスが座っていたが、アリオスは即座に席を立って他の場所から椅子 を持ってきて別の空いている場所に座る。 「アスカ、ここに座りなさいよ。シンちゃんもその方が嬉しいってさ。」 ミサトがニヤリと笑うが、アスカはさっと受け流す。 「誰だって嬉しいでしょ。アタシが隣に座ればね。そんなことより、最新ニュースよ。」 「なあに?」 ミサトは瞬時にして真面目な顔になる。 「国連で、やっと追加派兵が認められたの。今度は30万人規模よ。」 「やった!」 ミサトの顔が目に見えて緩む。他のメンバーも同様だった。 *** 一方、その頃サウジアラビアでは…。 「お〜い、マヤちゃん。調子はどうだい?」 シゲルは、サウジアラビアに来てから、忙しい仕事の中でもマヤに対して体調を気づかっ たり、優しく励ましたりしていた。アスカの助言や指導を受けてのことである。 「はい、忙しいけど何とか大丈夫です。シゲルさんが色々と助けてくださるから。」 「なに、マヤちゃんのためだったら俺は何でもするよ。何でも言ってくれよ。」 「はい、ありがとうございます。お言葉に甘えて、お願いがあるんですが。とっても変な お願いなんですが、いいですか。」 「ああ、いいよ。何でも言ってくれ。」 「言いにくいんですが、私にエッチなことをしないで欲しいんです。」 「あ、ああ、いいよ。でも、こっちに来てからエッチなことはしてないと思うんだけど。」 「ええ、そうですが。でも、私は一人で寝るのが怖くて。シゲルさんに一緒に寝て欲しい んですけど、エッチなことはしないで欲しいんです。これって、無理なお願いなんでしょ うか。」 マヤはすまなさそうな顔をする。シゲルはマヤが本気かどうか一瞬考えたが、どうやら本 気らしいと判断した。そして、即座に返事をした。 「いや、無理じゃないよ。俺も男だ。マヤちゃんの弱みにつけ込むようなことはしないよ。 でも、俺からもお願いしたいことがある。」 「えっ、何ですか。」 マヤはちょっと身構える。 「その、何ていうか。俺のことをもう少し好きになってほしい。」 「えっ。」 マヤは、予想とは全く違うシゲルの言葉に少し戸惑ったようだ。黙り込んでしまった。 「はははっ、駄目かな。」 シゲルは苦笑いしたが、マヤは目に少しだけ涙を浮かべて言った。 「ううん、そんなことないです。」 マヤにも分かった。シゲルは、マヤの体目当てではなく、マヤという人間が好きなんだと 言いたいことが。これで、シゲルに対するマヤの好感度はかなり上がったようだ。 「あっ、ごめん。俺、マヤちゃんを泣かせちゃったのかな。」 シゲルは少し慌てたが、マヤは少しだけ喜びを込めた声で応えた。 「いいんです。これは嬉し涙ですから。」 それを聞いた瞬間、シゲルは心の中でガッツポーズをした。マヤの心を完全に掴むのも、 そう遠い日ではないだろう。 そして、シゲルは日本にいるアスカにも頭を下げた。このような出来事を予想して、予想 問答まで考えてくれていたからだ。それが無かったら、シゲルはマヤから話があった時に 『ふざけるなっ!』と言っていたかもしれない。 事前にアスカからマヤがそう言う可能性が高いと聞いた時、シゲルは半信半疑だった。男 の都合を考えない、とんでもない話だと。そんなことを本気で言う女がいるとは信じられ なかったのだ。 だが、ここまでアスカに面倒を見てもらっていれば、将来はアスカに全く頭があがらず、 殆ど言うなりになるであろうことまでは、今のシゲルは頭が回らなかった。 (第86.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  イラクに派遣されたマヤですが、心細さからシゲルと急速に仲が良くなります。でも、 シンジと違って大人のシゲルが、マヤと一緒に寝ても本当に大丈夫なんでしょうか。 2004.1.26  written by red-x



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