新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部



第83話 げろげろっ!

「みなさ〜ん、朝御飯の用意が出来ましたよ〜っ!」 ユキの声につられて、食卓にみんなが集まってきた。アスカを筆頭に、それまでテレビの 中東情勢ニュースをかじりつくように見ていたシンジ、ミサト、リツコ、リョウジ、マコ ト、カヲル、マリアの面々である。 ちなみに、現在のコンフォート17マンションの住人は、次の通りである。 ・アスカとリツコが同居(シンジの部屋はあるが、寝るのは隣家) ・シンジ(寝るときだけ使用) ・ミサトとリョウジが同居 ・マコトとカヲルが同居 ・ケンスケ ・トウジと妹ハルナが同居 ・ヒカリ、コダマ、ノゾミが同居 今年の2月中頃から、朝食・夕食をアスカ、シンジ、ミサト、リツコ、ユキ、リョウジ、 ケンスケ、マコト、カヲルが一緒に食べるようになり、その後マリアも加わるようになっ たのだ。ちなみに食事を作るのはユキとケンスケの役割である。 一方、トウジ、ハルナ、ヒカリ、コダマ、ノゾミ、ユキの妹アキコ、弟マモルは、ヒカリ の家で食べるようになった。こちらの食事を作るのは、ヒカリである。 「わあ、おいしそう。いただきま〜す。」 アスカは、さっさと座って食べ始める。その隣には当然のようにシンジが座り、あとはめ いめいが適当に座って食べ始める。そして、みんなが食べ終わってコーヒータイムに入っ た頃、ミサトが口を開いた。 「みんな、聞いてちょうだい。もう知っているとは思うけど、ネルフが中心となって国連 平和維持活動軍を編成して、サウジアラビアに行って、イラク軍とドンパチしてくるわ。 その司令官に私がなることが内定したの。だから、私は当分みんなとお別れするわ。」 「そうですか。ミサトさんがいなくなると寂しいです。早く帰って来て下さいね。」 シンジの言葉に、ミサトはにんまりとした。 「ふふふっ、シンちゃん、ありがと。ちゃちゃっと敵をやっつけて、さっさと帰って来た いんだけど、さすがに2〜3か月はかかると思うわ。その間、留守をお願いね。」 「ええ、いいわよ。後はアタシ達に任せて、思いっきりやってきなさいよ。」 「アスカもありがとね。後方支援はよろしくね。」 ミサトはそう言いつつ、ウインクしてみせた。だが、笑顔が少し歪んだかと思うと、急に 立ち上がって洗面所に駆け込んで吐き出した。 「うげえっ。げえっ。げろげろっ!」 呆気に取られていたみんなの中で、リツコが素早く再起動してミサトの側に駆け寄った。 「どうしたの、ミサト?まさか、あなた…。」 「えへっ。もしかして、もしかするかも…。」 「最後に来たのはいつ?」 「そうねえ、8月だったかしら。」 「もう10月でしょ。可能性は高いわね。急いで病院に行くわよ、いいわね。」 「えっ、でも…。」 「いいから、行くのよっ!」 ミサトは、そんなリツコの剣幕に押されて、ちっちゃくなってしまった。 「みんな、ごめんなさいね。ちょっとミサトを病院に連れて行くから。」 「あはははっ、直ぐに戻るから。」 そうして、二人はさっさと家を出てしまった。 「ねえ、アスカ。もしかして…。」 二人が出て行ってからしばらくして、マリアがアスカを見た。 「多分、間違いなさそうね。こりゃあ、大変なことになったわ。作戦を一から練り直すこ とになりそうね。でも、こうしちゃいられないわね。加持さん、碇司令に直ぐに連絡を取 って。平和維持活動軍の司令官を変更するわ。」 「おいおい、アスカ。急になんてことを言うんだ。ん?待てよ?あっ、そういうことか。」 リョウジは、ようやく何が起こったのか分かったようだ。 「ようやく分かった?加持さん。さっさと連絡して。」 そう言いながら、アスカは頭の中で司令官の人選を素早く行った。 (日向さんはどうかしら。ミサトの副官だし、適任かしら。でも、渚が一人になるわね。 まあ、相田と一緒に住まわせればいいかしら。いや、駄目だわ。リツコを一人残すのは悪 いから却下ね。) せっかく、リツコとマコトの仲が深まってきているこの時期に、二人を引き離すのはまず いとアスカは判断した。 (次は加持さんだけど、ミサトが可哀相だから、これも却下ね。青葉さんにはちょっと荷 が重そうね。そうなると、あの人しかいないわね。) アスカは、素早く携帯電話を取り出して、電話をかけた。 「あっ、ジャッジマンさん。アタシ、アスカです。急な話しなんですが、平和維持活動軍 の司令官に内定しましたので、死ぬほど急いで準備をお願いします。では、よろしくっ!」 そして、言いたいことだけ言って、即座に電話を切った。 「さあて、忙しくなるわよ。」 そう言ってシンジを見ると、未だに事態を把握出来ずに目をぱちくりしていた。 *** 「え〜っ!ミサト先生がっ!ほんとなのっ!」 学校で、ヒカリに事の顛末を伝えると、予想通りの反応が返って来た。ちなみに、ミサト とはネルフでの接点が無いヒカリとユキは、ミサト先生と呼んでいる。 「ヒカリ、大声を出さないでよね。まだ、決まった訳じゃないんだけど、かなり可能性は 高いと思うわ。」 「そうなの。でも、私達の卒業式には出られるのかしら。」 「う〜ん、何とも言えないわね。でも、出られる可能性の方が高いと思うわ。まだ、半年 後のことだから、不確定要素が大きいけどね。」 「そう。だったらいいんだけど。」 そんなことをしゃべっていたら、リツコが現れた。 「はい、みんな座って。ミサト先生は、今日はお休みです。ですから、今日は副担任の私 が代わりを務めます。」 だが、アスカは黙っていなかった。 「ねえ、リツコ。ミサトはどうだったの?それを早く聞きたいわ。」 「アスカ。学校では先生って呼ぶように言ったでしょ。まあ、いいわ。ミサト先生はね、 おめでたです。」 「ええっ!」 「うっそおっ!」 「うおーっ!」 「ちくしょうーっ!」 リツコの一言で、教室内は騒然となった。すかさずヒカリが立ち上がる。 「ちょっと、みんな。静かにして下さい!」 これまた急に静かになった。ヒカリの人徳もあるが、ヒカリの後ろにトウジとアスカが控 えているからでもある。男はトウジを恐れ、男女ともにアスカを恐れている。 「今日は大事を取ってお休みしますが、明日からは普通に出勤します。心配しなくても大 丈夫です。」 「はい、質問ですっ!」 ケンスケが早速手を挙げる。 「なあに、相田君。」 「いつ産まれる予定なんですか。」 「まあ。気が早いわね。そうね、6月が出産予定日という話しだったわ。」 「はい、僕も質問です。」 「私もです。」 その後、生徒達の質問攻撃は続き、ホームルームはその話題で終わってしまった。 *** 「おい、ふざけんなっ!何で俺が中東まで行かにゃならんのだっ!」 その頃、ジャッジマンはリョウジに食ってかかっていた。だが、リョウジはジャッジマン の剣幕にも全く動じていなかった。 「決めたのはアスカだ。文句は彼女に言うんだな。まあ、言えればの話しだがな。」 「うっ。このヤロウ。原因はお前が作ったんだろうが。責任を取りやがれ。」 アスカの名前を出されると、ジャッジマンも逆らえない。途端に勢いが無くなった。 「まあ、待てよ。見方を変えれば、お前達の組織にとってはチャンスじゃないか。組織の 一員であるお前が、国連軍の司令官になるんだぜ。一気に勢力を拡張出来るぜ。」 「あのなあ。俺は前線で戦うのが似合ってるんだ。司令官なんぞ、ケツがかゆくなるだけ だ。それにな、政治的な話に首を突っ込まにゃならん。俺には不向きだ。」 「ほうっ。それをアスカの前で言うんだな。」 「てめえっ。覚えてろよ。」 「まあ、そう怒るな。アスカなりの考えがあってのことだろう。それにな、アスカはそも そもミサトには政治的な役割しか期待していなかったろうし、実戦部隊の実質的な指揮は、 お前にやらせるつもりだったと思うぜ。」 「はん、どうだかな。」 「それとも、お前はいいのか。お前が司令官を断れば、碇司令が司令官で、お前が実戦部 隊の指揮を執ることになるんだぞ。」 「げえっ。冗談じゃねえ。冬月副司令ならともかく、碇司令じゃな。」 「ん?待てよ。冬月副司令か。そりゃあ、いい考えかもしれんな。アスカに言っておこう か。」 「結局、俺は行くはめになるのかよ。」 「ああ、そうだ。」 「ちっ、しょうがねえな。冬月副司令が司令官なら、俺も何とか我慢してやる。」 「ああ、アスカにそう言っておくよ。」 「バカ!冬月副司令が司令官に適任だと思うと伝えろよ。お前の意思でな。」 「い・や・だ。」 「ちっ。嫌なやつめ。」 ジャッジマンは、思いっきりしかめっ面をした。 *** 「ネルフ広報部からのお知らせです。本日、我がネルフが中心となって、平和維持活動軍 をサウジアラビアへ派遣することを決定いたしました。」 数日後、テレビの報道番組に一斉にアスカの顔が写った。平和維持活動軍について、正式 な発表を行うのだ。 「司令官には冬月ネルフ副司令、司令官補佐にはジャッジマンネルフ作戦部副部長が就任 いたします。 ネルフ本部からは、エヴァンゲリオン1体、パイロット数名及びその支援部隊。それに加 えて実戦部隊が1個中隊ほど派遣されます。 平和維持活動軍は、サウジアラビアの首都、メッカに派遣されます。そこを拠点にして、 イラク軍の侵略を阻止します。併せて、世界各国から軍隊を集結させ、イラク国内までイ ラク軍を押し戻します。 日本を発つのは、おおよそ2週間後の予定です。急いでいるのですが、何分急なことでも あり、準備に時間がかかっています。 日本全国のみなさん、世界各国のみなさん、サウジアラビアの罪無き民衆を救うために、 どんなに小さなことでも構いません。是非とも我がネルフにご協力下さい。」 アスカがぺこりと頭を下げたところで、放送は終了した。 *** 「ふうっ、放送はうまく終わったわね。」 「お疲れさま、アスカ。」 シンジは、アスカを労った。そして、片手には缶コーヒーが握られていた。 「ありがと、シンジ。」 アスカは、シンジから缶を受け取り、ごくごくとコーヒーを飲み干した。 「でも、アスカ。あんな嘘の発表なんかしちゃっていいの?」 シンジは心配そうに聞いたが、アスカは少し呆れた。 「アンタ、バカァ?敵にわざわざこっちの戦力を教える必要なんかあるわけえ?少しは頭 を使いなさいよ。」 「そ、そんなもんなのかな。」 「そんなもんよ。戦いはもう始まってんのよ。少しでも有利になるように手を打たないと。 日本のみんなには、後で予定が変わりましたって言えばいいんだもの。大したことはない わ。」 「そ、そうかな。」 ギロリ。アスカがシンジを睨んだ。 「そ、そうだよね。アスカの言う通りだね。」 「アンタって、つくづく争いごとには向いていないのよね。あ〜あ、ちょっと情けないわ ねえ。もっとしっかりしてほしいわよねえ。」 「ごめ…ううん、分かったよ。努力するよ。」 「まあ、いいでしょ。何でか知らないけど、あの歴戦の強者のジャッジマンさんが、シン ジはなかなか見どころがあるって言ってたものね。アタシにはそうは思えないけど、一応 ジャッジマンさんは傭兵稼業が長い人だから、その辺の人を見る目はあるでしょうしね。 あの人の顔を立てて、シンジの将来性をちっとは信じてあげましょ。」 「うん、ありがとう、アスカ。」 「さあて、これからが大変よ。明日中にエヴァンゲリオンを出撃させるんだから。シンジ も今日は徹夜で手伝ってもらうからね。」 「ええっ、勘弁してよおっ。」 ギロリ。アスカはさっきよりも更に強くシンジを睨んだ。 「アンタが手伝わないと、助かるはずの数千人の命が無くなるんだけど、それを知ってて 言ってるのよね?」 今度のアスカの視線は、いつもの優しいものでは無かった。侮蔑と落胆と憎しみとが入り 交じったような冷たい視線だった。 「し、知らなかったよ。わ、分かったよ。何でも手伝うよ。アスカの言う通りにするよ。」 一瞬にして、蒼白で血色の悪い顔になったシンジを見て、アスカは許してあげることにし た。 「じゃあ、さっさと付いて来なさいよっ!」 「う、うん、アスカ。」 ズンズン歩いて行くアスカの後ろを、シンジは懸命に付いて行った。 (第83.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  どうも戦いには不向きのシンジです。あまりの能天気ぶりに、アスカは今にも切れそう です。ですが、いざという時には役に立ってくれるでしょう、多分…。  それより、ミサトはリョウジの子をその身に宿します。結婚から半年、結構早い妊娠で す。リョウジが頑張ったのでしょうか。 2003.10.23  written by red-x



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