新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
第79.5話 トウジの企み
「はあっ…。」
訓練の後、シンジはため息をついていた。誕生会の数日前のことであった。
「おい、シンジ。どうしたんだよ。」
「どないしたんや。」
ケンスケとトウジが、心配して近寄ってくる。
「うん、じつはね。悩みがるんだ。」
シンジは、少し暗い顔をした。そんなシンジを見て、
「どうせ、惣流のことだろ。」
ケンスケが事も無げに言ったが、シンジは慌てた。
「ど、どうして分かったの?」
「だって、シンジ。お前は惣流のこと以外で悩むことがあるのかよ。」
う〜ん、と考えてから、シンジはぽつりと言った。
「そうだね、無いね。」
「だろ?で、今度は何だよ。」
「うん、じつはね。誕生会のプレゼントに、みんなの前でキスをするようにお願いしたの
に断られちゃったんだ。トウジはいいよね。委員長なんか、喜んでキスしてくれたもんね。
それに比べて、アスカったら酷いんだ。あんまり言うと、僕を殴るって言うんだ。あんま
りだよね。アスカは僕のことなんか、好きじゃないのかなあって、そう思ったら、無性に
悲しくなったんだ。」
それを聞いた二人は、開いた口がふさがらなかった。
(普通、男からそんなことを頼むかよ。お前は、そんなくだらないことで悩んでいたのか。
惣流が怒るもの無理ないぞ。)
ケンスケは呆れたままだったが、トウジは違った。
(そうや。あん時は惣流にはめられて、みんなの前でキスすることになったんや。今度は
こっちがお返しする番や。)
「なあ、シンジ。そういうことなら、ワイに任せときいな。何とかしたる。」
「ほんとう?ありがとう、トウジ。」
その瞬間、シンジの顔が、ぱあっと輝いた。
「それにな、惣流は、多分お前のことを好いとる。間違いない。」
「でも、何か自信が無くて。」
それを聞いて、トウジは内心しめた、と思った。
「じゃあ、こういう風に試すのはどうや。惣流とキスする時、惣流の口の中に唾液を流し
込むんや。惣流がシンジのことを好きなら、必ず飲むはずや。」
「アスカが飲む訳ないよ。唾液って、つばのことでしょ。そんな汚いもの、飲む訳がない
じゃないか。」
「ほな、シンジは惣流のつばは汚いと。だから飲まないんやな。」
「そ、そんなことないよ。」
「それは、なんでや。」
「もちろん、アスカのことが大好きだから。」
「そやろ。好きな人のつばやったら、飲むはずや。逆に、飲んだら好きってことや。それ
も、かなり好きってことや。」
「そ、そうか。そうだよね。僕だって、委員長や森川さんは好きだけど、つばなんて汚く
て飲めないもんね。」
「そやろ。そういうことや。まあ、頑張れや。」
トウジは、内心少し複雑な気持ちだったが、精一杯励ました。
「上手くいくといいな。」
ケンスケも一応励ます。
「うん、ありがとう。頑張るよ。」
「惣流とキスする時、思いっきり強く抱きしめるんや。絶対に離したらアカン。」
「うん、分かったよ。ありがとう、トウジ。」
こうして、シンジはトウジにそそのかされて、事に及んだのであった。
むろん、シンジが喜んでスキップしながら帰った後、トウジとケンスケが大笑いをしたこ
とは言うまでもない。
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あとがき
ヒカリの誕生会での一件の仕返しを図ったトウジ。それは見事に成就しました。シンジ
も、アスカに好かれているという自信がついたことでしょう。めでたし、めでたし。
2003.8.3 written by red-x