新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第71話 戦争の影 前編

「はい、みなさん。1カ月の研修ご苦労さまでした。」 マヤが笑顔で言うと、研修生達の顔が緩んだ。そう、この1カ月は厳しい訓練が続いたの だから無理もない。やっと次のステップに移れるかと、期待に胸が弾んでいる者も多かっ た。 「ですが、皆さんに悪い知らせがあります。」 だが、マヤのその言葉によって、研修生達は顔を見合わせた。シンジに頬を張られたイラ イザ、シンジをマナと二人きりにして間違いを起こそうとしたテリーとニール、この3人 の顔は真っ青だった。自分達が本国に強制送還されるという噂があったからだ。 「皆さん、お静かに。実は、今中東で不穏な動きがあります。ですから、研修期間の短縮 が検討されているのです。皆さんにはさらに辛い思いをさせてしまうかもしれません。」 マヤが続けて言うと、エジプト支部のザナドが手を挙げた。 「あの、質問してもいいですか。具体的にどんな動きがあるんでしょうか。」 「良いでしょう、お答えします。イラク帝国に不穏な動きがあるのを察知したんです。」 「やっぱり!」 「サダムかっ!」 「ちくしょうっ!」 研修生達の騒ぎは、次第に大きくなっていった。それを見てマヤが慌てふためいたため、 見かねたアスカが前に進んでいき、深呼吸をしてから一喝した。 「はい、静かに!イラク帝国の情報は、まだ確実なものではありません。ですから、他言 無用です。それに、これからの研修日程を聞きたくない人は退出するように!」 退出という言葉に、研修生達は一瞬で静かになった。 「さあ、マヤ続けて。」 「あ、ありがとう、アスカちゃん。」 こうして、おとなしくなった研修生達を相手に、マヤはこれからのスケジュールを説明す るのだった。 *** 「ねえ、アスカ。ちょっといいかしら。」 マヤの話が終わり、アスカが研修室を出ようとしたところ、サーシャに呼び止められた。 ザナドも一緒である。 「何よ?」 「今の話、もっと詳しく知りたいんだけど、教えてくれないかしら。」 「何言ってるのよ。ぺーぺーのアタシが知るわけないでしょう。マヤに聞いてよ。」 「そりゃあ、聞いてるわよ。でも、教えてくれないでしょ。」 サーシャは、マヤの方を見た。マヤは、研修生達に取り囲まれて質問攻めに遭っていたの だが、どうやら何も答えてくれないようだ。 「アタシだって、何も聞いてないもの。だから、教えることなんか何もないわよ。いくわ よ、シンジ。」 「あ、ああ。」 その場の気まずい雰囲気を察してか、シンジの返事は元気が無かった。 ***  サーシャと別れた後、アスカはサーシャも含めて、ミラクル5のメンバーをアスカルー ムに呼んだ。 「さあて、みんな揃ったわね。」 アスカはそう言って周りを見渡した。シンジ、トウジ、カヲル、ケンスケらの本部付きの パイロットもいる。 「ごめんね、サーシャ。あんなとこで、機密情報をべらべらしゃべる訳にはいかなかたの よ。だから、許してね。」 「ううん、いいのよ。そうよね、あんなところで聞いた私も悪かったわ。でも、焦る理由 は分かってくれるわよね。」 「ええ、もちろんよ。だから、ここに呼んだんでしょ。あともう少し待ってね。加持さん が来るから。」 アスカが言い終わると同時にドアが開いて、リョウジ、ミサト、リツコの3人が入ってき た。 「よお、お揃いだな。待たせたしたかな。」 リョウジは、頭をかきながら言った。 「ううん、それほど待たなかったわよ。じゃあ、悪いけど、早速始めてちょうだい。」 「ああ。分かったよ。」 リョウジは手近なソファに腰を掛けた。すると、マリアがさっとコーヒーを差し出す。 「ああ、ありがとう。」 リョウジはコーヒーを一口すすった。そして、ゆっくりと話し始めた。 「さて、知らない子もいるだろうから、セカンドインパクト前の話からしよう。俺達が生 まれて数年後かな。イラクは隣国のクウェートという小国に攻め入った。それに周辺国が 反発したんだ。だが、周辺国ではイラクに太刀打ち出来なかった。 そこに目をつけたアメリカがイラクを懲らしめようと主張して、国連主導で軍隊を結集し てイラク軍と戦ったんだ。湾岸戦争って言ったかな。その戦争で、イラクはメタメタにや られたんだ。そして、事実上降伏したんだな。 ところが、当時イラクの大統領だったフセインは、責任を問われることなく大統領の椅子 に座り続けた。さすがに全世界を相手に戦って勝てると思うほどの馬鹿じゃなかったわけ だ。だから、自分の保身を図れると分かった途端降伏したのさ。そして、力を温存してい たんだ。 当時、イラクは大量の化学兵器を持っていた。だから、国連はその化学兵器を捨てるよう にと何度も言った。だが、イラクはのらりくらりとかわして、まんまと化学兵器を温存し たんだ。来るべき戦争に備えてな。」 「あの、何でイラクは隠し通すことが出来たんですか。」 シンジの問いに、リョウジは続けて言った。 「もともと、化学兵器は化学工場を転用することで簡単に作れるらしい。それに、イラク は外部の者の入国を制限したり、秘密を他国に漏らすものは虐殺したりして、恐怖によっ て国民を支配していたらしい。だから、秘密がもれなかったらしいんだ。 おそらく、そのままの状況が続けば、アメリカか国連が停戦協定を無効だとして、イラク に再侵攻していただろう。その時は、おそらくフセイン政権はおしまいになっていたはず だ。だが、その前にセカンドインパクトが起きてしまった。」 「ど、どうしてそんな人が裁かれなかったんですか。」 「さあな、正直なところ、俺にも分からん。だが、理由はいくつか考えられる。 一つは戦争の継続によって、石油の採掘に支障をきたす恐れがあったからかな。 それに、戦争反対を叫ぶ市民グループの活動も大きかったようだ。 とにかく、イラクのフセイン大統領は裁かれずに、大統領の地位にとどまった。そして、 影でイラク軍の戦力を増強していったんだ。そこにセカンドインパクトが起きて、世界情 勢は大きく変わった。 発端は、9月15日だ。インド・パキスタン国境で難民同士が軍事衝突し、それを皮切り に世界各地で内戦が勃発した。イラクはそれに乗じて同じイスラム国家であるパキスタン を支援するという名目で軍事行動を起こしたんだ。 だが、パキスタンに行く前に、イランを通る必要がある。だが、イランはイラク軍をすん なり通す訳がない。以前戦争した間柄だしな。当然ながら、この2国は戦争状態になった んだ。 普通に考えれば、セカンドインパクト前のイラクの人口は2,400万人、それに対して イランは6,300万人だったから、イラクの侵攻は無謀だと思われたが、結果は違った んだ。イラクは、隠し持っていた生物兵器や化学兵器を大量に使って、イラン軍に大打撃 を与えたんだ。 そして、フランスから買ったミラージュ戦闘機や、ロシアから買った戦車でイラン軍を打 ち破った。50万人いたと言われるイラン軍は、その殆どが殺し尽くされたという。歩兵 が主体のイラン軍では、化学兵器や最新兵器にはひとたまりもなかった訳だ。 それだけじゃあない。女性や子供に爆弾をもたせて、イランの指導者達に自爆攻撃を仕掛 けたんだ。サダムフェダーインと言ったっけな。そんな名前の民兵組織を使って、イラン 政府の指導者を暗殺したんだ。それで、イラン政府の指揮命令系統はズタズタになって、 イランはあっけなくイラクの手に落ちたんだ。 そして、イラク軍はパキスタン政府に助力を申し出たが、パキスタンがイラク軍を領土内 に入れるわけがない。パキスタンは、アフガニスタンに攻められそうだから、そちらの方 を何とかしてほしいと言ったんだ。 そこで、イラク軍はアフガニスタンに攻め入った。そして、ここでも同じように化学兵器 や自爆兵器を使って、国土を支配してしまったんだ。さらには、トルクメニスタンにも攻 め入って、支配下に治めてしまた。 セカンドインパクト前だったら、こんなことをすればアメリカや国連が黙っていなかった んだが、どの国も自分の国の混乱を収めるのに手一杯だった。 それに、イラクのずるいところは、親米国家やアラブ国家、核兵器を所有している国家を うまく避けたことだ。湾岸戦争では、同じアラブ国家を攻めて、アラブ全体を敵に回して しまったし、親米国家のサウジアラビアも攻めようとして、アメリカの怒りを買ってしま ったから、前回の失敗を繰り返さなかったっていう訳だ。 こうして、3つの国を侵略したフセインは、長男ウダイにアフガニスタンを、次男クサイ にイランを統治させ、イラク連邦共和国の発足を宣言したんだ。だが、誰もそう呼びはし ない。イラク帝国と呼ばれるようになったんだ。 その後、2月14日にバレンタイン休戦臨時条約が締結され、各地の内戦状態は下火にな ったんだが、その時にイラク帝国の存続が事実上追認されてしまったんだ。 その後、イラクは比較的おとなしくしていたんだが、サードインパクトの発生から少し怪 しい動きを始めたんだ。 次の狙いは、3つ考えられる。一つはパキスタン。だが、パキスタンの人口は1億近い。 核兵器も持っている。それに、パキスタンを倒すと次はインドと国境を接することになる。 だからこの可能性は低いだろう。 一つはトルコ。だが、トルコはNATOという、アメリカも含めたヨーロッパ最大の軍事 同盟の一員だ。イラクは、絶対に手を出さないだろう。 最後がサウジアラビアだ。この方が可能性が一番高い。セカンドインパクト前と違って、 アメリカに以前ほどの力はない。サウジアラビアが侵略されても、アメリカは文句は言っ ても軍隊は派遣出来ないだろう。 この前、ゼーレの手先となっていたにせよ、我々がアメリカの戦力を削っちまったしな。 あれで、イラクはアメリカに強力な軍隊を派遣する力が無いって分かってしまったような んだ。 おそらく、イラクはイスラエルを攻めるという名目で、軍隊をシリアやヨルダンやサウジ アラビアに侵攻させて、あわ良くばイスラエルに本当に侵攻するつもりなんだろう。状況 によっては、エジプトも攻めるつもりかもしれない。 それとも、イスラエルを攻めるというのは、はったりかもしれない。イラクの真の目的は、 アラブ世界の統一を図るのことかもしれない。もともと、イラクにはイスラエルを正面き って攻める理由はない。アラブ諸国の受けがいいから反イスラエルと言っているが、あん な狭い国土を侵略してもうまみはないし、かえってパレスチナ人の面倒を見なければなら なくなる。 それに、イスラエルの周辺を固めてしまえば、イスラエルはそれほど脅威ではなくなるし、 イスラエルの方から攻めなければ、イラクもイスラエルの悪口だけ言って、実際には攻め 込まないかもしれない。おそらく、その可能性の方が高いだろう。」 そこまで一気にしゃべると、リョウジはコーヒーを飲み干した。 「だが、サウジアラビアがイラクに併合されると、世界の石油の2割近くをイラクが握る ことになる。これは、いくら弱体化したとはいえ、アメリカはもちろん、国連だって見過 ごせない。湾岸戦争の時と同じく、各国が軍隊を送り込むだろう。 問題は、イラクの侵略がいつか、ということだ。エヴァンゲリオンが出撃すれば、国連軍 はかなり有利に戦える。もちろん、ネルフも全面協力することになるだろうから、エヴァ が出撃する可能性は高い。 それに、大規模な国連軍の作戦行動は初めてになるだろうから、ネルフの作戦部も国連軍 に組み込まれるだろう。もしかしたら、ミサトの指揮で国連軍が動くかもしれない。こう 言っては何だが、エヴァを指揮して戦ったことがあるのは、ミサトしかいないからな。 そうなると、問題はパイロットだ。シンジ君、君はイラクに行って戦えと命令されたら、 どうする?」 「ぼ、僕は…。」 シンジはアスカをチラリと見た。そして、押し黙ってしまった。誰もがシンジを見て、そ の返事を待ったが、アスカが沈黙を破った。 (第71.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  のんびりムードから一転、シリアスな展開になりそうです。エヴァの世界では、イラク 戦争は起きていないので、フセインは未だに大統領に在職しています。 2003.4.20  written by red-x



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