新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第67話 泣き虫シンジ

「シンジ……。一体アンタ、何してんのよ……。」 底冷えのするような冷たい声でアスカは訊いた。今のアスカは、シンジに裏切られたとの 想いから、頭に血が上り沸騰寸前だった。そのため、精神の安定を保つために理性でブレ ーキをかけているのだが、爆発を防ぐのがやっとの状態だったのだ。 無理に感情を押さえ込んでいるため、声は無機質で抑揚が少なくなり、聞くものにとって は冷たい声となるのである。 「あ、あの、ご、誤解なんだ…。」 だが、不用意なシンジの言葉にアスカは切れた。 「何が誤解だって言うのよっ!アンタなんか、もう知らないっ!」 アスカは、大声で怒鳴るとシンジに背を向けた。 (こいつ、許せないわ!人に心配かけさせておいて、こんなところで、こそこそとマナな んかと乳繰り合っているなんて!でも……。) アスカは、シンジに対して大きな怒りを感じていたが、一方で別の感情も生じていたので ある。それは、数日前のことに原因があった。 *** 「ええっ!アスカったら、まだシンちゃんと一緒に寝てるの?」 「ミ、ミサト。声が大きいわよ。もっと小さな声でしゃべってよ。」 数日前のこと。アスカはミサトとリツコにとある相談を持ちかけていた。シンジといつま で一緒に寝られるかという話だった。だが、二人はもう別々に寝ていると思っていたミサ トにとっては、驚くべき内容だった。 「ねえ、アスカ。一応聞くけど、アスカとシンちゃんって、もう最後までいっているの?」 ミサトの問いかけに、アスカは真っ赤になって答えた。 「バ、バカ言わないでよ。アタシは、そんなに軽い女じゃないわよ。第一、シンジのこと が好きかどうか分からないし。」 「じゃあ、最後までいっても良いと思っている?」 「そう思ってたら、相談なんかする訳ないでしょ?」 「まあ、それもそうね。どう思う、リツコ?」 「シンジ君も、もうすぐ15歳だから、体は一人前の男だと思っても良いわね。そのシン ジ君がアスカと一緒に寝て、いつまでも理性が保てるとは思えないわね。」 「で、でもさ。シンジって、そういうことに疎いんじゃないかなあって、思わない?」 「それはないわね。アスカには黙っていたけど、シンジ君はかなり女の子に対して興味を 持っているし、人並みかそれ以上にエッチね。」 「何よ、リツコ。どうしてそんなことが分かるのよ?」 「実はね、アスカが入院している時に、シンジ君がアスカの病室でエッチなことをしてい た記録が残っているの。」 「エ、エッチなことって?」 アスカの問いかけに、リツコは黙って近くの端末を叩いて、問題のシーンを映し出した。 「し、信じられない。シンジって、こんなことする奴だったの?この手のことには疎い奴 だと思っていたのに。」 アスカは唖然とした。 「どうしてそう思うのよ、アスカ。」 「だって、そうでしょ。こんな美少女と一緒に寝ているのに、滅多に襲いかかってこない し…。」 「あれっ、滅多にって言ったわね、アスカ?襲われたことがあるんだ?」 ミサトがニヤリと笑う。 「い、いいでしょ、そんなこと。まあ、正直に言うと何回か襲いかかってきたわ。」 「それで、アスカに撃退されたと。」 「違うわよ。アタシは力で抵抗したことないもの。でもね、シンジってキスしたり胸を揉 んだりするだけなのよ。どうやら、経験も知識も無いみたいなの。だから、アタシが頃合 いを見計らって、『もうやめてね。』って言うと、やめてくれるのよ。」 「ア、アスカ。それは、シンちゃんがお子ちゃまだからじゃないのよ。分かってるの?」 「へっ。違うの?」 アスカは首をかしげた。 「シンちゃんは、アスカのことが好きだから、嫌われたくないから、だからやめたのよ。 シンちゃんは、アスカに嫌われるのが絶対に嫌なのよ。そこんとこを分かってあげなさい よ。」 「そんなもんかなあ。アタシは、シンジが単にお子ちゃまだからと思うんだけどなあ。」 「じゃあ、一度でもOKしてごらんなさいよ。シンちゃんは、絶対に大喜びでアスカを抱 きしめて、最後までスルわよ。間違いなくね。だから、今はしっかりと断ること、それが 重要なのよ。」 「うん、ミサト、分かってるって。」 「だったら、一緒に寝ないで、離れて寝なさいよ。」 「それがさあ、やっぱり独りじゃ心細くて。」 アスカはそう言いつつ、テヘヘと笑う。 「あのねえ、アスカ。シンちゃんは、今のままだと蛇の生殺しなのよ。ちょっと可哀相じ ゃない?」 「そりゃあ、アタシだって悪いとは思っているわよ。だから、一番最初はシンジにするっ て決めたし、シンジにもそれは伝えてあるわよ。」 「「ええーーーーーーっ!」」 ミサトとリツコは、揃って大声をあげた。 「ちょっとおっ!うるさいじゃないのよっ!」 少し頬を膨らますアスカ。 「アスカは、やっぱりシンちゃんが好きだったんだ。」 ミサトはニンマリした。 「そ、そうじゃないわよ。シンジに悪いと思ってるから、だからよ。」 「でも、シンちゃんよりも好きな人が出来たらどうするの?」 「や、約束は約束だから、守るしかないわね。アタシ、約束を破るのは絶対嫌だし。」 「好きになった人に悪いと思わないの?」 「ちゃんと理由は説明するわ。それでも分かってくれないような人なら、諦めるしかない わね。」 それを聞いて、ミサトもリツコも思った。やっぱり、アスカはシンジが好きなのだと。 「だったら、悩むことないわよ、アスカ。だって、アスカは最初の人はシンちゃんだって 決めているんでしょ?」 「ええ、まあね。」 「だったら、シンちゃんに襲われたとして、シンちゃんが止まらなくなったとしても、最 初の人がシンちゃんだっていう結果は同じじゃない?早いか遅いかの違いでしょ?」 「もうっ、分かってないっ!それじゃあ、シンジが落ち込むでしょうが!アイツが傷つか ない方法は無いの?」 「でも、アスカ。今のままの方がシンジ君は傷つくわよ。きっと、シンジ君は今日こそは アスカがOKしてくれるんじゃないかって期待しているわよ。それなのにいつまでも駄目 だって言ってたら、シンジ君のことだからその場では笑っていると思うけど、アスカに嫌 われているんじゃないかって思うんじゃない?そんな状態で可愛い女の子からアプローチ されたら、シンジ君だってふらついちゃうわよ。」 「何よ、リツコ。シンジに限ってそんなこと無いって。アイツは、アタシ以外の女の子に は目を向けないんだから。」 アスカは自身満々に胸を張った。 「でもねえ、アスカ。シンちゃんは、毎晩目の前にごちそうを置かれて、食べたいのに食 べないで我慢しろって言われているのよ。精神的にかなりキツイと思うけど。」 「うっ。そう言われると、返す言葉も無いわ。」 「でしょう?目の前にごちそうを置くのをやめるか、それとも一口でもいいから食べさせ るか、どちらかにしなさいよ。」 「う〜ん、そう言われても困っちゃうわよ。」 「でも、アスカ。今の状態は良くないわ。本当にシンジ君は他の女の子の誘いに乗るかも しれないわよ。でも、それはアスカにも原因があるのを忘れないで。」 「は〜い、分かりましたよ〜っと。」 アスカは、そう良いながらも、シンジが他の女の子の誘いに乗るなどとは、露程も思って いなかったのである。 *** (シンジがマナに走ったのは、アタシが悪いっていうの?もう、アタシったらなんてドジ なの。ミサトやリツコにあれだけ言われたのに、何もしなかったなんて甘かったわ。でも、 本当にアタシが悪いの?分からない。シンジのことを思いっきりぶっ飛ばしたいけど、も しアタシが悪いのなら、そんなこと出来ないし。う〜っ、何かあったまくるわね。) アスカは、シンジに背を向けながらそんなことを考えていた。ミサトやリツコとのやりと りを思い出したことによって、沸騰寸前だった頭もそれなりに冷えてきた。そして、シン ジだけを攻められないなという気持ちも強くなってきた。 だが、やはり割り切れるような問題ではないし、実際に物凄く頭に来ている。このままこ こにいたら、シンジに大怪我をさせるほど殴りつけるか、シンジが立ち直れないほどの罵 詈雑言を浴びせそうだった。 (駄目だ、今は考えがまとまらない。こんな状態でシンジとやり合ったら、もう二度とシ ンジとはやり直しが出来なくなる。そうしたら、二度と一緒に寝ることは出来なくなるし、 また悪夢を見るかもしれない。嫌、それだけは、絶対に嫌!) 悪夢を見たくないために、アスカはシンジに制裁を加えるのはやめることにした。ここで シンジをぶっ飛ばせば、自分の気持ちがすっきりするのは分かっていたのだが、その後の ことを考えると恐ろしくて出来なかった。 せめて、シンジが反論の余地が無いくらいの悪事を働いていれば良かったのだが、アスカ 自身が婚約を仮のものだと言ったり、シンジの意に反して1回婚約を破棄しているのだ。 とてもじゃないが、シンジをなじることに無理があることは、アスカ自身も自覚していた。 (今は、黙って立ち去ろう。こんな状態でシンジと話をしたら、どう考えても悪い結果に なりそうだもの。マナにシンジをとられるかもしれないのは悔しいけど、シンジを苦しめ るような真似だけは避けよう。結局、自分に跳ね返ってくるもの。) アスカは、考えがまとまると、ゆっくりと歩きだした。だが、その時…。 「嫌だっ!アスカ、お願いだから行かないでよっ!」 シンジは叫び、後ろからシンジにしがみついた。 「止めなさいよ。アタシはねえ、今、猛烈に怒ってるのよ。見逃してあげるから、直ぐに 手を離しなさいよ。それとも、痛い目に遭いたいの?」 アスカはまたもや冷たい声で言った。だが、……。 「い、嫌だよっ!誤解だって分かってくれるまで、この手は離さないよっ!」 「あんたねえ、いい加減にしないと、首の骨をヘシ折るわよ。」 「良いよっ!アスカに嫌われるくらいなら、死んだ方がましだよっ!」 「なっ!」 「僕は、アスカが好きなんだ。大好きなんだ。だから、アスカに嫌われるなんて耐えられ ないよっ!」 そう言いながら、シンジは大声で泣きだした。 「じゃあ聞くけど、なんでマナと抱き合ってキスなんかしてたのよ?それも、こんなとこ ろで、鍵まで掛けてさ。」 そこまで言って、アスカは何かが心に引っかかった。 (あれっ?何か変よね。あっ、そうだ。あの鍵は、外から閉まっていたわ。とすると、鍵 を掛けたのはシンジじゃないわね。じゃあ、誰が?) その時、アスカの脳裏に2人の研修生の顔が浮かんだ。ここに来るときに、挙動がおかし かった2人だ。 (まさか、あの研修生達の罠?でも、そうだとしたら、何の目的で?はっ、もしかしたら、 アタシとシンジを仲違いさせて、エヴァンゲリオンの戦力ダウンを狙っているんじゃ。) 急にアスカの顔は真剣になった。まだ、ゼーレの残党がネルフを倒さんとしている可能性 は否定出来ないし、その場合、シンジが大きな障害になる。だが、何らかの理由でシンジ をあからさまに狙うことが出来ない場合、シンジに心理的な打撃を与えるのは有効な手段 だろう。 そう考えると、シンジにとって最も大きな心理的打撃はアスカに嫌われることだから、何 者かがシンジを罠にはめてた可能性は十分にある。 (そうだとしたら、アタシは敵の罠に引っかかってしまったっていう訳ね。フン、アタシ としたことが、しくじったわね。それに、仮に敵の罠ではないにしても、シンジに心理的 な打撃を与えるのは、非常にまずいわね。アタシはネルフの幹部なんだから、シンジがだ らしない分しっかりしなくちゃいけないのに、一体何をやっていたのかしら。そうよ、ア スカ。あなたはネルフのナンバー3なんだから、しっかりなさい。) 優秀なアスカは、一瞬とも言える短時間で考えをまとめた。そう、敵の謀略というのは、 さすがにアスカの思い過ごしであったが、実際にゼーレの残党やそれ以外の組織の攻撃が あった場合のことを考えると。アスカの思考は的を得たものだった。 だが、そうは言ってもアスカである。簡単には許さない。 「シンジ!アンタみたいな泣き虫は、だいっきらいよっ!許して欲しかったら、貸しが千 よっ!良いわねっ!」 「えっ!許してくれるの?」 「ふ〜ん、許して欲しくないんだ?」 「い、いえっ、分かりましたっ!借りが千でも良いですっ!」 そう言いつつも、シンジの涙は止まりかけていた。泣き虫が嫌いと言われたためだろう。 「あ〜っ、シンジ。良く見たら素っ裸じゃないのよっ!早く何か着なさいよっ!」 「で、でもっ。」 気付いてみたらマナはいなくなっているし、服も全て消えている。 「も〜っ、しょうがないわねっ!」 アスカは、自分のバッグの中から、テニスウエアを取り出した。 「これでも着なさいよっ!」 「え〜っ、恥ずかしいよ。」 「ふ〜ん、裸でいたいんだ?」 「うっ…。わ、分かったよ。」 シンジは仕方なくアスカのテニスウエアを着ることにした。 「あはははっ。シンジったら、良く似合ってるじゃない。写真撮ろうっと。」 すかさずアスカはカメラを構えて、パチパチ撮りだした。」 「や、やめてよっ!」 シンジの言葉に、アスカは耳を貸さない。それどころか、シンジを脅かした。 「アタシに嫌われたくなかったら、おとなしくポーズをとってなさいよっ!」 哀れシンジは、スコート姿の写真を何十枚と撮られ続けたのだった。 (第67.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  シンジは、運良くアスカの制裁をうけずにすみました。今回ばかりは、ゼーレに感謝? でしょうか。   2003.1.31  written by red-x



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