新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第4部 ネルフ再生



第68話 みんなでキャンプ 前編

「ねえ見てよ、このシンジの写真。良く撮れているわよ。飾っておこうか。」 金曜日の夕食後のコーヒータイムに、アスカはシンジの写真をみんなに見せようとしたが、 シンジは必死になって防ごうとした。その写真は、シンジのスコート姿の写真だったから だ。 「ちょ、ちょっと待ってよ、アスカ。勘弁してよ。」 「ちぇっ、似合うのにねえ。」 アスカは、結局シンジに写真をひったくられた。 「ふう、危ない、危ない。」 シンジは、胸をなでおろした。だが、アスカはニヤリと笑う。 「シンジ、写真はいくらでも焼き増し出来るのよ。安心するのは早いわよ。」 「アスカ、頼むよ〜。もう許してよ。」 シンジは涙目になっている。 「でもねえ、喉が渇いちゃって気分が良くないのよねえ。」 アスカはぼそりと呟く。 「あっ、アスカ。コーヒーお代わりしようか。」 「あら、シンジったら、珍しく気が利くわね。じゃあ、お願いしようかしら。」 シンジは、テキパキとコーヒーをお代わりしてアスカに差し出した。もちろん、インスタ ントではない。 「う〜ん、おいしいわねえ。シンジにしちゃあ、上出来じゃない。」 アスカは上機嫌だが、シンジはおどおどしている。 「ねえ、アスカ。もう許してあげなさいよ。あれからもう1週間も経つのよ。」 おどおどしているシンジを可哀相に思ったのか、ミサトが横から口を出した。 「許すって、どういうことよ。アタシはもうとっくに許してるわよ。シンジも、みんなの 前で謝ったしね。」 アスカは、そう言いながら少し頬を膨らませた。 そう、あの後シンジは勝手にみんなの前から姿を消してみんなに心配させたことを詫びて、 みんなから許しを得ていたのだ。ゼーレの脅威がほぼ無くなったとはいえ、エヴァのパイ ロットは常に所在を明らかにして、有事の際は直ぐに本部に直行して、待機している必要 があるからだ。 そのパイロットのチーフであるシンジが勝手な行動をすることは、他の研修生に対しても 示しがつかない。このため、シンジは心配をかけた仲間と、リョウジやミサトに頭を下げ て謝っていたのだ。 その後のリョウジやミサトの調べで今回の事件の全容を掴み、単なる色恋沙汰と分かった ため、大事には至らず、この件は内々に処理されたが、本来シンジの行動は許されないも のだったのだ。 一方、マナはリョウジから説教され、一応リョウジの前では反省した様子を見せた。おそ らく心の中では舌を出していたのだろうが。 マナに協力した研修生達は、全員お咎め無しとなった。これは、研修生達を処罰するなら ば、シンジも処罰する必要があったことから、アスカが事件を揉み消すように工作した結 果でもある。 アスカとシンジの仲も、元通りになった。人の良いシンジが研修生に騙されてマナと二人 きりにされ、シンジがアスカを騙してマナと密会していたのではないと分かったことから、 アスカの怒りは一応収まったのである。 だが、シンジの身勝手な行動に怒っている者がいるため、アスカはシンジと二人きりの時 以外は、ちくちくとシンジに嫌味なことをしていた。そのことはミサトも知っているはず なのにと、アスカは頬を膨らませたのである。 「あっ、そう。良かったわね、シンちゃん。アスカは許してくれてるってよ。」 「あ、はい。ありがとうございます。」 シンジは、安堵の表情を浮かべた。それを見たアスカは、ちょっとやりすぎたかなと思っ たため、話を変えることにした。以前から言おうと思っていたことだった。 「ねえねえ、もうすぐ連休だからさあ、みんなでぱあっと遊びに行きましょうよ。ユキ、 悪いけどヒカリ達を呼んで来てよ。」 「あっ、はいっ。分かりました。」 直ぐにユキはヒカリのところへすっ飛んで行き、ヒカリとトウジを連れてきた。 「どうしたの、アスカ。」 「実はね、今度の連休にどこかへ遊びに行きたいなあ、なんて思ったのよ。どうかしら。」 「ええ、いいわね。で、どこまで声をかけるのかしら。」 ヒカリの問いかけに、その場の全員が耳を澄ました。アスカの言葉によって、せっかくの 連休が良くも悪くもなるからだ。仮にアスカが、『女の子だけで…。』などと言おうもの なら、シンジ達は心の中で滝のような涙を流すだろうし、来るメンバーによって、楽しさ はずいぶん変わるからだ。 今、この場には、大人はミサトとリツコだけだった。リョウジとマコトはまだ仕事中であ る。子供は、アスカ、シンジ、ヒカリ、ユキ、トウジ、ケンスケ、カヲル、マリアの8人 だ。 「そうねえ、子供は丁度男女4人ずつでいいんだけど、もっと声をかけるかどうかね。ヒ カリはどう思う?」 「同じクラスの人ならいいかもしれないわね。」 「でも、線引きが難しいわね。ネルフのメンバー中心でいくか、仲良しグループでいくか ね。」 アスカは少し悩んだ。アスカはどちらでもいいのだが、ヒカリにとってはネルフのメンバ ー中心だとちょっと違和感があるかもしれない。それに、ミンメイら同じクラスの研修生 は、2月に転校して来たばかりで、ヒカリやユキとはそれほど仲が良いとは言えない。 かといって、それ以外のクラスメートだと、シンジが戸惑うだろう。シンジは休みがちで あったため、いつものメンバー以外とはあまり話したことがないのだ。 アスカとヒカリでそんな話をしていると、ユキが申し訳なさそうに言った。 「あのお、惣流さん。私はお留守番します。妹達の世話をしなければなりませんから。」 「何よ、アタシと一緒に遊びには行けないって言うの?」 「そ、そんなことないですけど。」 「じゃあ、小さい子も一緒に連れて行きましょうよ。それなら良いでしょ。」 「えっ、でも…。」 「いいの、アスカ?私はその方が嬉しいけど。」 ヒカリも、ノゾミのことが気になっていたようだ。 「ワイも、その方がいいんやけどなあ。」 トウジも乗り気である。 「じゃあ、決まりね。アタシ達8人に、オチビちゃん達4人の計12人ね。それに、場合 によっては保護者としてミサトかリツコということで。大人は色んな都合があるでしょう から、後は任せるとして、それでシンジは良いわよね?」 「う、うん。」 「他に意見のある人は?」 むろん、アスカに意見を言える人など、ヒカリ以外にはいない。 こんな調子で、アスカとヒカリを中心に話がまとまり、結局山梨県にある本栖湖の湖畔で 2泊3日のキャンプを行うことになった。日程は、4月の29日から5月1日までである。 そして、一緒に付いていく保護者は、結局リツコとマコトになった。 要は運転手をするのと、小さい子供達の面倒を見るのに必要だったため、アスカからの強 い要請を受けてのことである。 ***  29日の日は、良く晴れて青空が広がっていた。まさにキャンプ日和である。天気予報 によると、この天気は1週間は続くようだ。 「アタシの日頃の行いが良いから、天気になったのよっ!」 と、アスカは得意気になっていた。 さて、朝5時にマンションを出発した一行は、車2台に分乗した。1台はリツコが運転し、 アスカ、シンジ、ヒカリ、カヲル、トウジの計6人が乗った。6人乗りのカローラスパシ オである。 もう1台はマコトが運転し、ユキ、ケンスケ、マリア、オチビちゃん達の計8人が乗った。 8人乗りのスピードワゴンである。 リツコの隣には、行きはアスカが座ることになった。真ん中の列にはヒカリとトウジが座 り、後列にはシンジとカヲルが座る。 最初のうちは、アスカとヒカリが二人で話して盛り上がり、男3人が細々と会話を続ける ような状況だったが、本栖湖が見えた時からアスカがはしゃぎだした。 「ねえ、ヒカリ、見てよ。あれが本栖湖ね。結構水が綺麗じゃない。」 「そうね。ここの湖は、かなり透明度が高いって聞いたことがあるわ。」 「おおっ、綺麗やなあ。」 「う〜ん、綺麗な水はいいねえ。」 「うわあ、芦ノ湖の水よりも綺麗だね。」 それぞれの感想を言い合い、その後はみんなで和気あいあいという雰囲気となった。 そんなこんなで、7時前には目的地に到着した。 「どう?ネルフの管理しているキャンプ場よ。最近オープンしたから、超穴場なの。泊ま るのは古くさい建物に見えるけど、中は新しいわよ。ホテル並の設備が揃っているわ。」 そう言って、アスカは胸を張った。確かに嘘は言っていないが、突貫工事で昨日完成した ことは言っていない。そう、このキャンプ場は、今回のキャンプのために作られたものだ ったのだ。 宿泊施設は、完成品である建物をマリアがエヴァでここまで運んだものであり、それを1 週間ほどかけて外観を周囲の景色に合わせ、なおかつ古い感じのものにしたのだった。む ろん、食材も新鮮なものが冷蔵庫に満載してあった。 これは、テントを張って本格的にキャンプをしたいと言うケンスケら男性陣の意見に対し て、女性陣全員がシャワーと風呂やトイレはホテル並のものが良いという意見で一致した 結果でもあった。 「さあて、宿泊場所は確認したから、もうちょっと奥の方に行くわよ。」 「えっ、ここでキャンプをするんじゃないの?」 ヒカリは驚いた顔をしたが、アスカは笑って言った。 「ここでも出来るんだけど、もっと穴場があるのよ。」 こうして、一行はトンネルをくぐり抜けて、さらに奥の方へと向かって行った。 *** 「ヒカリ、どう、ここは。結構穴場でしょ?」 「ええ、自然そのままっていう感じね。」 狭い道をひた走って着いた場所は、まさに超穴場だった。人家は近くに無く、川は澄み、 魚が泳いでいた。 「今日は、この辺で1日遊ぶわ。男達は、車の外で待つように。」 アスカの指示で、男達は車の外に出た。 「おい、シンジ。一体どうしたんや。こんなとこで何をするんや。何か惣流から聞いて へんか。」 「ううん、アスカからは何も聞いていないけど。」 シンジも首を傾げた。 「俺も聞いていないけどな。一体何をするんだろう。明日はテニスをするって聞いたか ら、ラケットなんかは持って来たけどな。」 男連中は、ただ首をひねるのみである。 「お待たせっ!」 だが、アスカの声に振り向いたシンジ達は、心臓が止まるほど驚いたのであった。 (第68.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ○コンフォート17マンション居住者 ・アスカ、リツコ、(シンジ) ・シンジ(夜に寝るだけの部屋) ・ミサト、リョウジ ・トウジと妹 ・ヒカリとコダマ、ノゾミ ・ケンスケ ・マコト、カヲル ○朝食・夕食 2月20日から ・アスカ、シンジ、ミサト、リツコ、ユキ、リョウジ、ケンスケ、マコト、カヲル が一緒に食べる。 ・トウジと妹、ヒカリと妹、ユキの弟妹(時々コダマ) は、ヒカリの家で食べる。 夕食は、仕事の関係で遅れる者も多いが、日によって異なる。 最近はマリアが加わることが多い。 2003.2.10  written by red-x



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