新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第51話 決戦!第3新東京市

「あ〜あ,これで私達も最上級生ね。」 ヒカリはため息をついた。今日は3月18日の金曜日で,つい先程卒業式が終わり,つい にヒカリ達の上級生は居なくなったのだ。 「まあ,いいじゃない。部活に入っている訳じゃないし。部活に入っている子は大変よ。 部長になっちゃう子もいるしね。」 アスカは笑って応える。 「でも,中学生活も,あと1年かと思うとね。」 「何よ。おばさんみたいなこと,言っちゃって。」 そう言ったアスカだったが,携帯電話のコールに顔を曇らせた。 「ヒカリ,直ぐにシェルターに避難して。敵が来たみたいだわ。」 「うん,アスカ,頑張ってね。」 「鈴原に言っておくわね。ヒカリが愛しているから頑張ってって,言っていたってね。」 「んもう,アスカったら。」 「あら,嫌かしら。」 「そうじゃないけど…。」 ヒカリの顔は真っ赤だった。そこに,爆音を響かせてルノーがやって来た。 「あっ,ミサトね。嫌だけど,緊急事態だからしょうがないか。じゃあね,ヒカリ。」 「うん,アスカ。みんなによろしくね。」 こうして,アスカはヒカリに別れを告げると,ルノーに乗ってネルフへと向かった。 *** 「リツコ,状況はどうなっているの?」 「分からないわ。今調べているところよ。」 ルノーには,リツコとシンジが乗っていた。このため,とりあえずリツコに状況を聞いた が,リツコも何ら情報を掴んでいないようだった。だが,携帯端末を叩いて,少しでも情 報を得ようとしていた。 「あっ,分かったわ。どうやら敵の先陣がやって来たみたいね。」 「数はどれ位なの?方角は?距離は?」 「そうね,今の所は大した数ではないわ。空母が2にその他の艦艇が30といったところ かしら。でも,どんどん数が増えているみたいね。方角は,東と南よ。距離はまだかなり 離れているわ。アスカの言う通り,有人索敵網を張りめぐらしておいて,大正解だったわ ね。レーダーでは,まだ敵を把握出来ていないわよ。敵さんは,かなりステルス性能の高 い装置を持っているようね。」 実は,アスカの発案で,敵がステルス性の高い兵器で攻撃してきても見逃さないように, 有人索敵網を構築していたのだ。それが,今回は大当たりだったという訳だ。もし,敵の 発見が遅ければ,奇襲を受けてしまう。最初の攻撃で最大火力を投入されたら,それだけ で全滅ということがあり得るのだ。無論,エヴァが発進する前に攻撃を受けたら,ひとた まりもないだろう。 「そう,やっぱりね。そうなると,違う方角から,陽動部隊が出てくるわね。」 「そうね。間違いないでしょうね。戦自には注意を呼びかけておくわ。」 「ええ,お願いね。今日は長い1日になりそうね。そうだ,シンジ。ネルフに着いたら, 速攻でエヴァに乗る準備をするのよ。早ければ早いほどいいわ。」 そこまで言うと,アスカはシンジの耳に口を近づけた。そして,小声でこう言った。 「シンジ,絶対に攻撃をためらったら駄目よ。もし,攻撃するかどうか迷ったら,アタシ の死体を思い浮かべて。アンタが敵への攻撃をためらったら,それが現実になるのよ。良 いわね。敵の死体とアタシの死体,選ぶのはシンジよ。これだけは忘れないでね。」 「そ,そんな・・・。」 シンジは絶句した。だが,アスカは諭すように言った。 「良い,シンジ?これは殺し合いなのよ。いくらこちらが白旗を掲げても,アタシ達が生 かされることは無いわ。非情だけど,これは生きるか死ぬかの戦いなのよ。もし,シンジ が口先だけでなく,本当にアタシのことを好きなら,アタシを守るために力のかぎり戦っ てよ。悔しいけど,今のアタシはシンジに頼るしかないの。それに,アタシは意気地なし は嫌いだから,そうじゃないことを証明して。 出来る事なら,アタシがシンジの代わりに戦って敵を倒したい。でもね,そうするとアタ シの命は間違いなく失われるわ。アタシはまだ死にたくないの。だから,シンジ,お願い。 世界のために戦ってとか,みんなのために戦ってなんて言わない。アタシのために,アタ シの命を救うために戦って・・・。」 アスカはそこまで言うと,シンジの手を固く握り,シンジの目を見た。シンジもアスカの 目を見つめ返した。アスカは,その目にシンジの決意を感じ取った。 「分かったよ。僕は,命懸けで戦う。アスカを守るために・・・。」 シンジもアスカの手を固く握った。 (ふん,格好つけちゃってさ。) そんなことを思いつつも,シンジが嘘や冗談でそんなことを言う人間ではないことも分か っていた。おそらく,シンジは本気なのだ。本心から命懸けで戦う決意を固めたのだろう。 アスカは,そんなシンジをちょっぴりだけど,頼もしく思うのだった。と同時に,女の子 として,嬉しくも思っていた。 ***  ネルフに着くと,一行はそれぞれ別れた。アスカはアスカルームに,シンジは更衣室に, ミサトとリツコは発令所である。 「お待たせ!」 アスカルームには先客がいた。アールコートである。彼女はシンクロ率が起動指数に達し ないため,パイロットからは外されていたのだ。マックス,アリオス,キャシーらは別の 任務に就くことになっている。特に得意なものがないアールコートは,アスカの手伝いを することになったのだ。 「こんにちは,惣流さん。」 「どう,状況は?」 「はい,今スクリーンに映します。」 アールコートの声と共に,正面に据えつけられた100インチのプラズマディスプレイに 日本地図と敵戦力の配置が映った。 敵戦力は,3方面からやって来ている。北東から空母2にその他25隻の艦隊,東からは 空母1にその他15隻の艦隊,南西からは空母2にその他20隻の艦隊だ。 「ふうん,思ったよりも多いじゃない。」 アスカは唇を噛んだ。それは,空母の数が多いからだった。事実上,空母以外の戦力は, ネルフにとって脅威ではない。近寄ってくる前に叩いてしまえば良いからだ。だが,空母 はそうはいかない。こちらの射程外から航空兵力を発進させて来るからだ。 一応,空母に対する備えはあるが,相手に通じるかどうかは分からないのだ。しかも,ま だ発見出来ない潜水艦の脅威も残っているし,爆撃機からの攻撃もあり得るのだ。 「まあ,いいわ。やってやろうじゃないの。」 アスカは不敵に微笑んだ。 *** 「日本海側から,SLBMが発射されましたっ!」 「数は20っ!高速で接近してきますっ!」 発令所は,喧騒に包まれていた。予想外の攻撃が北側からあったからだ。ミサトはすぐに アスカと連絡を取った。 「アスカ!日本海側から,SLBMが発射されたわっ!これから戦自に迎撃を要請するわ ねっ!」 だが,アスカの答はNOだった。 「待って。戦自には,やり過ごすように要請して。」 「な,何ですって。」 「いいから,お願い。戦自には,戦力を温存してもらわないといけないのよ。その代わり, エヴァを全機発進させるわ。」 「分かったわ。任せたからねっ。」 こうして,最初の敵の攻撃は,その殆どが無傷で第3新東京市へと向かってきた。だが, ミサトも言葉と裏腹に,全てを任せてはいなかった。万一のことを想定し,マコトに迎撃 準備を命令した。この命令は結局無駄になるのだが,責任者としては,当然の処置であっ た。 *** アスカがアスカルームに着いた頃,シンジは更衣室の中で手早く着替えていた。そして, 着替え終わると,ケージへとすっ飛んで行った。 シンジがケージに到着して5分経って,パイロットが全員集合した。と言っても,ケージ で集合する訳ではなく,エントリープラグに全員搭乗している。シンジは,無線で全員に 作戦についての基本的事項を再度説明した。 これには,いつ出撃するか分からないパイロット達の精神的疲労を防ぐ目的もあった。と りあえずシンジの話を聞いていれば,余計な事を考えないだろうとのアスカの発案だった のだ。無論,それ以外にも,現在の敵の動向を伝え,それに沿った作戦を実行するためで もあったのだが。 そして,パイロット達は,出撃の時間を前に特に緊張することなくシンジの話を聞いてい たのである。 そこへ,アスカから全機緊急発進の命令があった。 「みんな,いくよっ!」 シンジの掛け声と共に,エヴァンゲリオン全機が発進した。 *** 地上に出たエヴァは,3機1組となって,それぞれの配置場所へ集まった。いずれも小高 い丘や山の上である。 第1小隊ミンメイ,第2小隊サーシャ,第3小隊ケンスケがそれぞれポジトロンライフル を持って,砲手となった。各小隊にポジトロンライフルは2丁配備されているが,1丁は 遠距離狙撃用,もう1丁が近距離攻撃用だった。遠距離攻撃用のは砲手が担当し,近距離 攻撃用のは,地上戦担当の者が使うのだ。 「みんな,落ちついて撃ってほしい。難しい事は,コンピュータが全部やってくれるから, 心配しなくても良いよ。僕だって,最初の1発目こそ外したけど,2発目は命中したもの。 だから,きっと大丈夫だよ。」 「おい,シンジ。1発目は外したのか。」 ケンスケは心配そうな声で尋ねたが,シンジは笑って言った。 「だって,しょうがないよ。相手から攻撃してきたんだもん。でも,今回はそういうこと は無いから,心配しなくて良いよ。」 「な,何だ。それを早く言ってくれよ。」 ケンスケのため息に,他のパイロット達から笑いが漏れる。だが,その笑いも長くは続か ない。アスカから,攻撃開始命令があったからだ。 「本当かよっ。ミサイルなんて,影も形も見えないぜ。」 ケンスケの呟きに,ミンメイが応えた。 「見えてからじゃあ,遅いんですよ。大丈夫です。コンピュータを信じましょう。」 「ああ,分かったよ。」 ケンスケは苦笑しながら答えた。 本来は,高速で動く物体を撃つというのは至難の技なのだが,そこはMAGIの力をもっ てサポートすれば,決して難しいことではなかった。だが,ミンメイやサーシャと違って, ケンスケはそこまでの信頼をコンピュータに期待していなかったのだ。 「サーシャ,撃ちます。」 ケンスケとミンメイが会話をしていた僅かな間に,サーシャが第一撃をSLBM(潜水艦 発射弾道ミサイル)に放っていた。元々,ポジトロンライフルは,衛星軌道上の敵を狙撃 出来るほど射程距離が長い。従って,遥か遠くでSLBMが爆発するのが見えた。 「良し,俺もやるぞ。」 ケンスケとミンメイもサーシャに倣い,次々とライフルを撃った。こうして,ゼーレの攻 撃第1陣は,あっけなく防ぐことが出来たのである。 (第52話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ネルフの迎撃体制について 発令所 ・ゲンドウ,冬月,リツコ,マヤ,シゲル ・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用               ・加持 :傭兵部隊の指揮 アスカルーム ・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮,全体の指揮(実質) ・アールコート エヴァンゲリオン部隊 ・シンジ:現場指揮官,第1小隊長  ・ミンメイ,マリア:第1小隊  ・カヲル,ミリア,サーシャ:第2小隊 ・トウジ,ケンスケ,ハウレーン:第3小隊 2002.8.18  written by red-x



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