新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第48話 臨時ボーナス

「昨日はみんなご苦労さま。お蔭でゼーレの戦力が半分以下になったわ。」 アスカは,昼ご飯を食べながら皆に礼を言った。ちなみに,婚約解消を発表してからは, アスカは転校生達と一緒にお昼を食べている。マックス,ミリア,アリオス,アールコー ト,キャシー,ミンメイ,サーシャ達である。 一方のシンジは,トウジ,ケンスケ,カヲル,ヒカリ,ユキ,マリア達と,お昼のお弁当 を食べている。アスカは,皆に気付かれないようにシンジの方をチラリと見た後,言葉を 続けた。 「そこで,まだ未確定だけど,ネルフ本部職員全員に臨時ボーナスを支給しようと思って いるのよ。一人当たり一律百万円にするつもりよ。命懸けだったにしてはちょっと安いけ ど,我慢してちょうだいね。」 それを聞いて,ミリアを除く全員の目が輝いた。 「でも,まだ安心しないでね。上の許可が出ていないから。おそらく今日中に結論が出る とは思うけどね。」 それを聞いて,マックスとアリオスがやや肩を落す。 「まあ,そんなにがっかりしないでよ。それより,明日からはまた臨戦体制になるわよ。 ゼーレの攻撃も,後1週間前後であるとおもうから。だから,気をひきしめて欲しいのよ。 今度こそは,エヴァンゲリオン部隊の活躍が頼りなんだから。」 アスカの真剣な表情に,全員が力強く頷くのであった。 ***  昼食が終わると,アスカは一人でネルフへと向かった。目指すはゲンドウの所だが,一 度アスカルームに寄ることにした。ゲンドウへの報告に必要な資料一式を持っていくため である。すると,そこにはミサトが待ち構えていた。 「あれ?一体どうしたのよ,ミサト。こんなところで。」 「えっとね,アスカに聞きたい事があってね。昨日の話なんだけど。」 (あれ?なんだろう。もしかすると…。) 「ああ,臨時ボーナスの話ね。」 「そうよ。あれって,確実よね?」 「なあに言ってんのよ。昨日も言ったでしょ。まだ司令に話していないって。」 「えっ,それじゃあ駄目になるかもしれないの?」 「まあ,そういう可能性もあるわね。」 その瞬間,ミサトの顔が青くなった。 「お願い,アスカ。そのお金を当てにして,一杯エビチュを買っちゃったのよ。だから, 何とかしてちょうだい。」 ミサトはそう言うなり,両手を合わせて頭を下げた。 「ああ,エビチュ位だったら,アタシが奢ってあげるから心配しないでいいわ。」 「それがね,ちょっち,口をすべらしちゃって…。」 「ま,まさか…。」 「そうなのよ。本部中に知れ渡っちゃったのよ。アスカ,お願い。この通り。」 そう言いながら,ミサトは再度両手を合わせて頭を下げた。 「もう,しょうがないわねえ。」 アスカは呆れて,何も言えなかったが,ミサトのため一肌脱ぐことにした。ゲンドウへの 報告内容を当初予定より変えるのだ。これによって,後でシンジに嘘つき呼ばわりされて しまうのだが。 *** 司令室に入ると,そこにはゲンドウ,冬月,そしてシンジが待っていた。 「惣流一佐,参りました。遅れてすみません。」 アスカはビシッと敬礼した。 「ああ,構わんよ。アスカ君も,今回は良くやってくれた。礼を言うよ。」 「では,よろしいですか。早速,ご報告します。」 「まあ,その前に座りたまえ。」 冬月は,ゲンドウの机の前に置いてある椅子を指して,アスカに着席を促した。 「はい,ではお言葉に甘えて,座らせて頂きます。」 アスカは会釈した後で席に着いた。こうして,4人とも座った状態で,久々に秘密会議が 行われた。最初はアスカの報告だ。 「まず,今回の作戦における被害ですが,人的被害はゼロでした。物的被害も殆どありま せん。心配された敵の反撃も,SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)のみでした。弾頭は 核兵器ではありませんでしたし,残骸は湖に落ちたため,これによる被害はありません。 ただし,一部の機械が衝撃波で故障しており,被害額はおおよそ数億円です。」 「そうか,それ位で済んで良かった。」 「ああ,問題無い。」 「次に作戦の成果ですが,敵と思われる部隊の進撃が,殆ど止まりました。そのうち,約 8割の戦力が日本から離れていくのが確認されています。残る2割についても,足止め状 態です。」 「アスカ君,その残る2割は,どこの国のものかね。」 「アメリカ,ロシア,ドイツ,イタリア,オーストリアの一部です。」 「そうか。数は少なくても精鋭か。」 「はい。ですが,まだ望みはあります。実は,鈴原三尉にヒントをもらって,今回の作戦 において,敵のコンピュータに細工をしているのです。」 「細工と言うと,どんなものかね。」 「はい,実は鈴原三尉が将棋をしているのを見て,敵の兵器をこちらで利用することを思 いついたのです。未だに残っている戦力の兵器の約2割は,こちらの方である程度コント ロール出来る状態にあります。うまくいけば,同士討ちさせることも可能でしょう。今, それについて,MAGIでシミュレーションを行っています。」 「そうか,それは何とも頼もしいな。だが,敵はこのまま帰るかもしれんな。」 「いえ,それは無いでしょう。」 「ほう,どうしてだね。」 「実は,お二人に内緒で,並行して別の作戦を行っていました。『Sleeping Thief』とい う作戦です。その作戦が成功したので,おそらくゼーレは近い内に攻撃して来る筈です。」 「ほう,どんな作戦かね。」 「簡単に言うと,敵の資産をごっそり頂きました。それも半端な額ではありません。」 「どれ位かね?」 「そうですね,おおよそ300兆円のゼーレの資産をかすめ取りました。これで,ゼーレ の力はかなり落ちた筈です。おそらく,これを取り戻す為に,全力でここを攻めて来るで しょう。」 「さ,300兆円かね。」 冬月は絶句した。ゲンドウも,驚きのあまり,口を開いたままである。これが本当ならば, ネルフは資金的には,後100年は持つだろう。 「はい,敵の資金を奪うことによって,敵の弱体化を狙いました。これは,かなりの打撃 になる筈です。S計画(ゼ−レ殲滅・掃討計画)の要とも言って良いでしょう。また,敵 から得た資金によって,NR計画(NERV再生計画),ER計画(EVANGELION再生計画)が 格段に前進します。まさに,一石二鳥の作戦なのです。」 「ほ,本当に300兆円もの資金が手に入ったのかね。」 「ええ,本当です。約1万の口座に分けてあり,1口座当たり,300億円になります。 ただし,日本円はそのうち約2割,残りはドルとユーロが半々です。ネルフとは直接関係 のないルートでマネーロンダリングをしていますし,ゼーレさえ倒せば,取り返される心 配はありません。ですが,ネルフ以外のルートを多用したため,必要経費がかなりかさみ ました。それについて,是非ご了承頂きたいのですが。」 「ふむ,一体幾らかね。」 (さあて,ここが勝負ね。) アスカは強く拳を握った。ここで否定されると,大変なことになるからだ。 「そうですね,約5兆円になります。」 「まあ,良かろう。」 それまで黙っていたゲンドウが口を開いた。その瞬間,アスカは心の中で安堵した。これ でアスカの作戦は非合法なものではなく,ネルフという組織で正式に認められた,一応合 法と言えるものになるからだ。だが,そんなアスカの思いを誰も気付かなかったようだ。 「そうだな,300兆円のうちの5兆円なら,止むを得ないだろう。」 冬月も頷いた。 「ありがとうございます。これで,the phoenix operationに関する報告は終了しました。 何かご質問はありますか。」 「敵の再侵攻は,あとどれ位かかると思うかね。」 「おそらく,1週間前後かと。それを過ぎると,ゼーレの資金力が落ちたことが知れ渡り ます。そうなる前に勝負をかけてくるでしょう。それに,今度はゼーレの直轄部隊も出て くるでしょう。」 「そうか,分かった。今日はもう帰っても良いよ。明日からは,また臨戦体制になるよう だがね。」 「はい,では失礼します。」 こうして,アスカの報告は終わった。 *** 「ねえ,アスカ。どうだった?」 アスカルームに向かったアスカとシンジを,ミサト達が待ち構えていた。 「もち,OKよ。」 「やったあ,アスカ恩に着るわ。」 ミサトは大喜びである。いつの間にか来ていた加持とリツコも嬉しそうだ。だが,シンジ は事態が飲み込めないようで,困惑していた。 「ねえ,アスカ。どういうことなの?」 「ああ,シンジには詳しく話していなかったわね。皆に臨時ボーナスが出るかもしれない っていう話は言ったわよね。」 「うん,昨日聞いたよ。でも,それがさっきの話と,どう関係するのさ。」 「あのねえ,あの二人に正面切って言ったとして,OKが出ると思う?絶対無理よ。だか ら,言い方を変えたのよ。『必要経費がかなりかさみました。』って言って,了承しても らったでしょ。総額も言ってあるし,後は必要経費に臨時ボーナスが入っていれば良い訳 よ。アンタも,もう少し頭を働かせなさいよ。」 「そ,それって詐欺じゃあ。」 だが,その呟きをミサトは聞き逃さなかった。 「シンちゃん。間違っても,司令に本当のことを言っちゃ駄目よ。もし言ったら,ネルフ の職員全員を敵に回すわよ,良いわね。臨時ボーナスのことは,知れ渡っているし,今更 無しですとは言えないのよ。みんな,アスカには感謝しているんだから。」 「そうね,どこかの作戦部長さんが,早まって言いふらすんだもの。まあ,アタシはどっ ちでもいいけどね。」 「へへへへへっ。やっぱ,まずかったわね。でも,良いわ。シンちゃんは私達の味方だか ら,黙っててくれるわよねえ。ねっ,お願い。」 「は,はい…。」 シンジもどうやら観念したようだ。こうして,一人当たり百万円という,大盤振る舞いの 臨時ボーナスは,その日のうちに職員の口座に振り込まれた。 だが,これ以外の臨時ボーナスもあった。アスカは,ミラクル5のメンバーに対して,一 律1000万ドルの成功報酬を与えたのだ。さすがに,これに対しては4人とも狂喜した のは言うまでもない。 *** 「ねえ,アスカ。300兆円の話って,本当なの?」 その日の夜,布団に入ってから,シンジはアスカに尋ねた。 「もちろん,本当よ。でも,実際は500兆円位あったかしら。」 「ええっ。300兆円じゃなかったの?」 「多い分にはいいじゃない。良く考えなさいよ。あの時,5兆円の必要経費が駄目だって 言われたら,後で195兆円増えましたって言えば済むじゃない。」 「それって,嘘だよね。」 シンジは絶句した。何ていい加減なのかと。 「失礼ね,交渉テクニックって言って欲しいわよね。そんなこと言うと,もう二度と背中 なんて流してあげないからね。」 「えっ,そ,それは…。」 「何よ,手が痛くて背中を洗えないですって。アンタこそ大嘘じゃない。最初に嫌だって 言ったら,『エヴァに乗っても,悪い事しか起きないんだ。』なんていじけたフリなんか しちゃってさ。アンタがお昼時に背中を掻いているのを見た人がいるんだからね。」 「あははははっ。」 シンジは乾いた笑いを浮かべた。そう,シンジは昨日の夜,アスカに背中を流してもらう ように頼んできたのだ。シンジに対して優しくすると言った手前,アスカは断りきれずに シンジと一緒に風呂に入って,シンジの背中を流したのだ。 だが,それが嘘であることが分かってしまったのだ。まあ,何度か一緒にシンジと風呂に 入ったことのあるアスカにしてみれば,可愛い嘘なのだが。結構,似たようなことをして いる二人であった。 「でも,5兆円なんて,一体どうしてそんなにかかったのさ。」 「ああ,簡単よ。アタシへの報酬が5兆円なのよ。その他の経費は3000億円以下に収 まったけどね。」 「そ,それって…。」 さすがに,シンジの開いた口が塞がらなかったようだ。 (ふん,アタシにとっては,正当な報酬なのよっ!) 確かに,アスカのお蔭でゼーレの資金をかすめ取ったのだから,その報酬が得られた金額 の1%というのは,アスカにとっては当然と言えなくもないのだが。だが,あまりにも大 きな金額であった。 (第48.5話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  こうして,アスカはとんでもない大金持ちになりました。 2002.7.28  written by red-x



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