新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ



第24.5話 訓練


 時は少し遡る。婚約披露パーティーの翌日のこと。シンジは,トウジと一緒にネルフへ 行き,エレベータを降りた所で別れて,それぞれの訓練場所へと直行した。 シンジはトレーニングルームに直行した。最初の1時間は,ランニングと腹筋,腕立て伏 せを組み合わせたメニューをこなす。シンジは,基礎的な筋力や体力が,まだまだ十分に はついていないからだ。 その後に本格的な訓練が始まる。概ね30分交代で,柔道,合気道,逮捕術のそれぞれの 講師から訓練を受けるのだ。 シンジの任務は,アスカの護衛であるため,空手やその他の格闘技を学ぶよりも,相手の 力を利用する合気道や,相手の力を封じ込める逮捕術などを採り入れることにしたのだ。 「先生っ!お願いしますっ!」 シンジは,柔道の講師に何度も掴みかかっては,軽くいなされて,床に叩きつけられる。 こうして,受け身を覚えていくのだ。普通の人間なら,間違いなく飽きてしまうのだろう が,シンジは違った。自分が気を抜けば,アスカに万一のことがあったときに,後悔する ことが分かっているからだ。 シンジは,毎日,毎日,30分もの間,繰り返し受け身を繰り返した。 柔道が終わると,次は合気道だ。合気道は,相手の力を利用して,技をかける。柔道とは うって変わって,講師が攻めて,シンジが技をかけていく。講師は,最初の数回,シンジ に技をみせるのみで,後はシンジが技をかけるのだ。 最初は,講師は全く同じ動作で襲いかかり,シンジが技をかけるという繰り返しだ。何十 回何百回と,同じ技を繰り返して,シンジが技をモノにしたら,講師は攻撃のパターンを 少し変えて,襲いかかる。シンジは,またもや同じ動作を何回も繰り返して,体で技を覚 えるのだ。 最後の逮捕術は,襲いかかってる敵の動きを封じ込めるためのものだ。これも同じように 講師が−この講師のみネルフ職員ではなく現職警官が交代で担当するのだが−襲いかかり, シンジがその動きを封じ込めるという動作が繰り返される。 講師は,最初の数回のお手本と,時折思い出したようにアドバイスする時以外は,技をか けて来ない。シンジは,繰り返し技をかけ,時折講師のアドバイスを受けて,体で技を覚 えていくのだ。 「ありがとうございましたっ!」 逮捕術の訓練が終わる頃には,シンジの息はあがっており,しゃべるのも一苦労なのだが, 最後のあいさつだけは,気力で声を振り絞って言うのだ。 だが,これで終わりではない。この後は,本来の軍事教練が待っている。毎回メニューや 講師が違うのだが,激しい訓練が続く。 (僕がアスカを守るんだっ!) アスカに対する,一途な気持ちが,シンジの気力を支えていた。そうでなければ,体力も 運動神経も人並み以下のシンジが,このような訓練に耐えられようはずもない。こうして, 1日に3時間とはいえ,シンジは精根尽き果てた状態でお昼時を迎えるのだ。 *** 「よお,センセ。調子はどうや。」 食堂でトウジが声をかけてきた。今日のお昼は,トウジと二人きりだ。いつもは,アスカ, ミサト,リツコなどと一緒にわいわい賑やかに食べるのだが,あいにく今日は,皆コンフ ォート17にいる。 「もう,へとへとで,声も出ないっていう感じだよ。」 そう言ってシンジは肩をすくめた。 「惣流がいないと,空元気も出ないっちゅうわけか。」 「トウジだって,そうだろう。洞木さんがいないと,元気ないじゃないか。」 シンジが口を少し尖らせて言うと,トウジは頭を掻いた。図星だからだろう。 「まあ,そんなことより,メシや。ワイにとって,この時だけが至福の時間やからな。」 トウジは,そう言いながら,親子丼を食べ始めた。それ以外にも,野菜炒めにほっけ,お 好み焼き−しかも関西風−まである。 「トウジは大食らいだからなあ。」 そう言うシンジも,ご飯が大盛りの肉じゃが定食に,野菜炒め,チキンカツと,トウジほ どではないが,かなりの量だ。シンジも運動の後で,かなりお腹が空くのだろう。 「まっ,しっかり食おうやないか。」 「そうだね。」 こうして,シンジとトウジは,二人きりで,ちょっと寂しい昼食を摂った。このあとは, シンジは昨日やらなかった分の訓練が待っており,トウジも別メニューの訓練が待ってい るのだ。 「お互いに頑張ろうや。」 「お互いの彼女のためにね。」 シンジがにやけて言うと,トウジはウッと言って,喉にお好み焼きを詰まらせた。それを 見たシンジは,大笑いした。 (第25話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  シンジは,大好きなアスカのために,必死に体を鍛えていきます。 2002.2.15  written by red-x