新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ




第10話 新たな友人




「ふぁあああっ。」

シンジは大きなあくびをする。


「ああ、良く寝たな…。」

シンジが呟くと同時だった。


「アンタ、何でアタシの隣で寝ているのかしら。理由を聞きたいわね。」

アスカの恐ろしく冷たい声がした。


「え、アスカ、おはよう。」

シンジからは、アスカの顔が見えないので、とりあえず無難な返事をした。


「シンジ、何でアタシと一緒に寝てんのよ。聞かせてもらおうじゃない。」


「覚えていないの。」


「覚えてない。」


「昨日の晩、僕が帰ってきたら、アスカが急に悲鳴をあげたんだ。」


「ほーっ、それで。」


「僕が近寄ったら、アスカが泣いてて、一緒に寝てくれって頼んだんだ。」


「あっそ。それで。」


「『一緒に寝てくれたら、アタシ、シンジのこと…す、少しだけど、す、好きになってあ

げる。そして、シンジが望むなら、シンジの恋人になってもいいわよ。』なんてアスカが

言うから、僕はアスカと一緒に寝ることにしたんだよ。」


「それで。」


「これで全部だけど。」


「ふうん、アタシがそんな作り話を信じると思っているの。」


「ほ、本当だよ。アスカは本当に覚えてないの。」


「記憶に無い。」


「そ、そんなあ…。昨日も同じこと言っていたのに。」


「他に言う事はないのね。じゃあ、判決を言い渡すわよ。アンタ、死刑!」


「ええっ!そんなあ。酷すぎるよ。」


「正直に言わなかったからよ。」


「そうか、信じてくれないんだね。いいよ、それなら。でも、アスカがそこまで言うなら、

僕にも考えがあるよ。」


「はん、なあに。言ってみなさいよ。」


「もう、いくら頼まれても、アスカとは寝ない。絶対だよ。それでいいね!」


「シンジ、ふざけたことを言うと、グ−で殴るわよ。目を閉じなさい。」

そう言うと、アスカはシンジの方を向いた。


「アスカ、酷いよ。僕の言うこと聞いてよ。」


「今すぐ目を閉じる!閉じないと、物凄く痛く殴るわよ!」


シンジはいやいや目を閉じた。だが、口は動いていた。


「アスカ、聞いて…。」


シンジの声はそこで止まった。シンジの口は、アスカの口でふさがれたのだ。シンジの舌

にアスカの舌が絡み、シンジの顔に浮かぶ表情は、戸惑いから困惑へそして歓喜へと変わ

っていった。




どれ位の時間が経ったのだろうか。アスカとシンジの口が糸を引きながら離れていった。


「シンジ〜、ごめんね〜。ちょっとからかってみたくなったの。キスしてあげたから、許

してちょうだいね〜。もっとも、キスは一緒に寝てくれたお礼だけどねぇ。」

アスカは、そう言って、可愛くにっこりと笑った。


(へへっ。何だか、シンジをからかいたくなっちゃって。)


「もう〜、アスカったら、勘弁してよ。寿命が縮まったじゃないか。」

そう言ってシンジは口をとがらせた。だが、あまり怒ってはいないようだ。


(良かった。シンジはあんまり怒っていないみたい。やっぱり、キスのお蔭かしら。)


「だって、からかえるのって、今回限りでしょ。明日からは、さすがに無理だし。まあ、

可愛い彼女のキスに免じて許してね。」


「え、彼女って。」


「あ〜、シンジのバカァ。アタシ達、恋人同士になったんじゃないの。だから、アタシは

シンジの『彼女』でしょ。それとも、単なる同居人の方がいいのかしら。」

(むっ。シンジの鈍感!)


「い、いや、そんなことないよ。」


「じゃあ、アタシはシンジの何なの。」

(本当に鈍感なんだから。このニブチン。)


「えっと、アスカは、僕のこ、恋人で、つまりは、彼女…かな。」


「なにどもってんのよ。まあいいわ。でも、これだけは忘れないで。他人に聞かれたら、

シンジがアタシに告白したって正確にいうのよ。シンジが恋人になって欲しいって言った

から、アタシはOKしたんだからね。そこんとこは絶対に間違えちゃ駄目よ。」

(絶対に間違えちゃ駄目だからね。)


「う、うん。分かったよ。絶対に間違えないよ。」


「絶対よ。じゃあ、早速だけど、可愛い彼女のために朝食を作ってくれないかしら。シン

ジ、お願〜い。」

(お腹が空いちゃったもんね。)


「うん、いいよ。」

シンジは起き上がると、洗面所から濡れタオルを持ってきて、アスカに渡すと、朝食の支

度を始めた。一方、アスカはタオルで顔を拭くと、布団の脇に置いてある鏡に向かい、髪

をとかし始めた。朝の身支度の始まりである。時計の針は7時を指している。


「アスカ〜、ご飯出来たよ〜。」

シンジから声がかかる頃には、アスカの身支度は殆ど終わっていた。身支度に必要な物は、

前日にシンジが布団の枕元近くに用意してあったため、あまり手間はかからなかった。後

は、シンジに着替えを手伝ってもらった。



***



「シンジの料理って、おいしい〜。」

アスカはにこにこしながら朝食を頬張っている。対するシンジも頬が緩んでいる。


「アタシって、こんなおいしい料理が毎日食べられるなんて、幸せね〜。」

(ふふっ、シンジったら、赤くなって、かっわぁいいっ。)


「そ、そんなことないよ。」


「いつもありがとね。」

(ホントよね。シンジ、ありがとう。)


「ううん、どういたしまして。僕もアスカに喜んでもらって嬉しいよ。」

シンジの顔はまだ真っ赤である。もちろん、今日もシンジはアスカの口に食事を運んでい

るため、真っ赤なのであるが。


「ふふっ。で、シンジ、今日は何か用事ある?」


「ううん、無いけど。」


「じゃあ、ちょっと連れて行って欲しい所があるんだけど。」


「うん、いいよ。で、どこに行くの?」


「ご近所よ。じゃあ、食べ終わったら、車椅子の用意をお願いね。」


「うん、いいよ。」


その後二人は良い雰囲気の中で食事をした。アスカは、何故かとても心地よい感じがした。


(アタシの態度が変わるだけで、こんなに雰囲気が良くなるなんて。アタシったら、今ま

で何てバカなことをしていたんだろう。でも、良かった。間違いに気付いて。アタシも少

しは成長したのかしら。)


そんなことを考えながら、アスカはにこやかに食事を続けた。もちろん、食事の後に、シ

ンジの頬にキスをしたのは言うまでもない。



***



「あっ、シンジ、そこそこ。そこよ。」

アスカは周りをきょろきょろしながら、とあるマンションを指す。アスカは、シンジに車

椅子を押してもらって、自宅近くのマンションを目指していたが、割合簡単に目的の場所

を見つけられた。


「アスカ、このマンションに何の用なの。」


「後で教えるわ。」

そう言うとアスカはマンションの中に入って行った。


アスカはエレベーターに乗ると、12階のボタンを押した。そして、目的の階で降りると

きょろきょろしながら、動いて行った。そして、アスカは、1208号室の前で動きを止

めた。


「シンジ、ブザー押して。」


アスカの頼みに応えて、シンジがブザーを押そうとした時、後ろから声がした。


「そ、惣流さん…。」


二人が驚いて振り返ると、髪の長い美少女が立っていた。ストレートのさらさらの茶髪に

細面の顔、左右に長い瞳が印象的な、アスカとは違ったタイプの美少女だった。


「おはよう。アタシは、惣流・アスカ・ラングレーよ。こっちはアタシの彼の碇シンジ。

あなたは、もしかすると、森川雪さんかしら。」


「は、はい。」

少女は驚いているようだ。


「今日は、お礼を言いに来たの。」

そう言うと、アスカはにっこりと微笑む。


「も、もしよろしかったら、うちにあがってください。ここでは、何ですから。」

その少女は、顔を少し赤くしながら言った。


「それじゃあ、ちょっとだけおじゃまするわ。」

アスカは少し迷ったが、好意に甘えることにした。


「シンジ、肩貸してね。」

アスカはそう言うと、シンジの助けを借りて、森川さんの家の中に入って行った。



***



「…と、言う訳で、ユキはアタシを見かけて、ネルフに連絡してくれたのよ。お蔭でアタ

シは、危ない所だったけど、助かったらしいの。」


精神が崩壊して街を彷徨っていたアスカを見つけ、ネルフに連絡したのは、森川雪である

ことをアスカはシンジに話した。


「だから、ユキはアタシの命の恩人なの。ありがとう、ユキ。本当に何てお礼を言ったら

いいか。」

アスカはユキに頭を下げた。早速『ユキ』と呼んでしまうところがアスカらしい。


「そうか。森川さん、アスカを助けてくれて本当にありがとう。心からお礼を言うよ。」

シンジもそう言うと、にっこり笑った。


「えっ、そんな。私は当たり前のことをしただけですから。気にしないでください。」

ユキはそう言って俯いた。


「でも、本当に助かったわ。ありがとね。」

アスカはにっこり笑って言った。


それから3人は、学校の話題で1時間程盛り上がった。先生のこと、友人のことなどだ。

A先生と3年生のB子が出来ているらしいとか、Aの男の子とBの女の子がつきあってい

るとかいった類のとりとめのない話だったが、シンジもアスカも、久々ににぎやかで楽し

い時間を過ごした。


3人は笑いながら話していたが、突然、ユキが改まって聞いてきた。


「あの〜、さっき、惣流さんは、碇君のことを彼って言ってませんでした?」


「ええ、そうよ。」


「えっ、聞き間違いじゃ無かったんですね。」


「まあね。」


「二人がつきあっているっていう噂は本当だったんですね。」


「う〜ん、本当とは言えないわね。だって、アタシ達が恋人同士になったのは、つい昨日

のことだもの。」


「えっ、そうなんですか。で、どちらが告白したんですか。」


「えっと〜。」

アスカはチラッと、シンジの方を見た。


「実は、僕からアスカに告白したんだ。」

シンジは、アスカの意図を理解し、口を出した。


(えへへへへ。シンジったら、分かってくれたのね。嬉しいわ。)

アスカは心の中でニンマリとする。


「と、いう訳なのよ。ユキ、分かった?」


「ええ、でも、碇君のどこがいいんですか?」


「優しいところかな。他にも色々あるけどね。」

そう言うアスカの顔が少し紅くなる。


「ちょっと意外でしたね。でも、惣流さんが付き合う位の人だから、碇君は見かけによら

ず、凄い人なんでしょうね。」


「いいこと言うわね。シンジは、そんじょそこらの軟派な野郎とは、一味違うのよ。分か

る人にしか分からないけどね。」

アスカの顔がパッと明るくなった。


「そうなんですか。私、碇君のこと、見直しちゃいました。碇君て、実は、凄い人なんで

すね。」


「あははははは。そうでもないけどね。」

褒められているのかどうか良く分からないため、シンジは乾いた笑いをする。


「そんなことないです。惣流さんが付き合う人ですから、碇君は凄い人なんです。それな

のに、碇君は謙遜しているんですね。さすがだわ。」

ユキは、真剣な表情で言った。


「まあ、それ位にして。アタシも恥ずかしいし。」

さすがのアスカも、ユキの理屈には付いていけないようだ。


「そうですね。碇君のどこがいいかについては、後でゆっくりと、詳しく聞きますから。

本人の前では言えませんものね。」


「ユキ、あんたって、そういう人だったの。」

アスカはちょっと驚いたような顔をした。


「ごめんなさい。でも、凄く知りたいんです。惣流さんて、人気者ですもの。」

ユキはそう言うと、ペロッと舌を出した。


「まあいいわ。ユキは命の恩人だし。でも、今は駄目よ。もうちょとしてからね。」


「はい、それでいいです。」

ユキはアスカの良い返事を聞いて、にっこりと笑った。




9時半になり、そろそろ帰ろうかという時に、ユキがアスカの体調のことを聞いてきた。


「惣流さん、体調はいかがですか。」


「良くなってはいるけど、まだ、風呂も一人では入れないのよ。」


「え〜っ。じゃあ、私が一緒に入りましょうか。ねっ、そうしましょう。」


「えっ。」

(うっ、まずい。下手に断ると、シンジと一緒に入っているのがばれちゃう。)


アスカはチラッとシンジの方を見ると、シンジは右手でOKサインを出していた。


(シンジは一緒に入るのが恥ずかしいのかしら。それとも、アタシの世話ばかりで大変な

のかしら。)


アスカは少し考えたが、シンジに思った以上に負担をかけているかもしれないことに気付

き、ユキの申し出を快く受けることにした。


「お言葉に甘えても、いいのかしら。」


「ええ、私は全然構わないわ。それどころか、お役に立てた方が嬉しいの。学校はいつ始

まるか分からないし、やることが無くて、死にそうなのよ。」


「じゃあ、お願いするわ。何時頃だったらいいのかしら。」


「そうね。6時位ならいいかしら。」


「じゃあ、待ってるわね。また後でね。」

そう言って、アスカ達は帰って行った。


こうして、アスカ達は、森川雪という新たな友人を得たのだった。



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2001.11.4  written by red-x