新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
アタシって、やっぱり優秀なのよ。その証拠に、ネルフの各部門から引っ張りだこじゃ
ない。さ〜て、どこに行こうかな。ま、そこまで頼むんなら、技術部に行ってもいいけど
ね。マヤがそこまで言うんならね。
第11話 マヤのお願い
ユキの家から戻ると、アスカは開口一番、シンジに尋ねた。
「シンジ、アタシと一緒にお風呂に入れなくなって、本当に良かったの?」
「う〜ん、ちょっと残念だけど、理性を保つのって、結構大変なんだ。だから、少しホッ
としているのも事実なんだ。」
「へへっ、それってどういう意味かな?」
アスカはニヤリと笑いながら聞く。
「アスカって、可愛いし、柔らかいし、抱き心地が良くて最高なんだけど、一緒にいると
物凄くエッチな気分になっちゃうんだ。だから、このままだと、アスカに変なことをしち
ゃいそうで怖いんだ。でも、そんなことをして、アスカに嫌われたくないんだ。」
シンジはうつむき加減でそう言った。
(そうか。シンジも普通の男の子なんだ。でも、何気なく褒めてくれてるわね。)
「ふうん、シンジも普通の男の子なんだ。で、アタシって、最高なんだ。」
「あっ。いや、その、えっと…。」
シンジは自分の言ったことに気付き、真っ赤になった。
「いいのよ。褒めてくれてありがとう。それに、正直に言ってくれて嬉しいわ。でも、安
心して。最後の一線を超えなければ、シンジのこと、嫌いにならないから。」
(でも、最高って、どういう意味かしら。ちょっと気になるわね。)
「う〜ん、超えない自信がないんだけど。」
(げっ。そりゃあ、まずいわよ。アタシ、この歳でママになりたくないもの。しょうがな
い。ここはシンジをおだてておいた方がいいわね。)
「大丈夫よ。シンジはアタシのことが好きなんでしょ。だったら、アタシに嫌われるよう
なことは出来ないわ。それに、アタシはシンジのこと、信じてるから。」
アスカはそう言うと、にっこりと微笑む。
「そ、そうだよね。アスカが信じてくれるなら、僕もアスカの信頼に応えるように努力す
るよ。だって、アスカのことが大好きだから。」
シンジは、アスカの本音が見抜けなかったため、本当に真剣な表情で言った。
「ありがとう、シンジ。」
アスカは再び微笑んだ。
(きゃっ、シンジったら、急に何てこと言うのよ。嬉しいけど、恥ずかしいっ。)
アスカはドキッとした。シンジをおだてるつもりが、シンジの真剣な表情を見て、心なら
ずも胸が少しときめいてしまったのだ。
「ピンポーン。」
ちょうどその時、いい雰囲気を壊す音がした。シンジはちょっと残念そうな顔をして玄関
へと向かった。
「あ、マヤさん。おはようございます。」
突然の訪問者はマヤだった。
「シンジ君、急に来ちゃってごめんね。また、お仕事のお願いなの。」
「ええ、いいですよ。どうぞ、上がってください。」
「悪いわね。お休みのところ、お邪魔して。」
そう言いつつ、マヤはリビングへと向かった。
「マヤ、おはよう。」
(ふん、お邪魔虫はマヤだったのね。まあ、マヤならしょうがないか。)
アスカはいい雰囲気が壊れたことに少しだけ気を悪くしていたが、相手がマヤと知って、
機嫌が元に戻ったようだ。
「おはよう、アスカちゃん。昨日はありがとうね。物凄く助かっちゃった。」
「ううん、どういたしまして。あれ位、お茶の子サイサイよ。」
アスカはそう言って胸を張る。
「そう、助かるわ。今日は、悪いけど、これ全部お願いね。」
マヤはそう言うと、書類がたくさん入った紙袋を差し出した。昨日の書類の優に5倍はあ
りそうだ。
「まさか、これ全部今日中なの?」
アスカの頬がひくついている。
「ううん、出来れば1週間位でやってくれると嬉しいんだけど。」
マヤはひくつくアスカを見て、慌てて答える。
(昨日と同じ位の質で、量は5倍だから、5〜6日あれば出来そうね。うまくすれば4日
で出来そうだけど、さすがに無理はしない方が良いものね。)
「1週間ね。シンジが手伝ってくれれば、何とかなるかもね。」
書類をぱらぱらと見ながら、アスカが言う。
「本当、ありがとう。お願いね。」
マヤの目は輝いている。実は、この仕事は、本来は半年位かかるものと思っていたので、
マヤにとって、アスカは天使に見えるのだ。
「分かったわ。じゃあ、出来たら連絡するわね。」
「ええ。それと、もう一つアスカちゃんにお願いがあるの。」
「えっ、なあに。」
「実は、アスカちゃんのことを色々な部署で欲しがっているの。アスカちゃんは可愛いか
ら、広報部が特に欲しがっているの。」
「へえっ。そうなの。」
(へへっ、アタシって確かに可愛いものね。)
「でも、私は、うちに欲しいの。だから、出来たら技術部を希望してくれると嬉しいんだ
けど。お願いできなないかな。」
「ふうん、面白そうね。分かったわ。マヤだったら知らない仲でもないし。正直言って、
アタシは理工系が好きだから、丁度いいかもね。で、何をやるの。」
「アスカちゃんは、エヴァのパイロットだから、その経験を活かして、兵器開発をやって
欲しいの。同じ理由で、エヴァの運用管理もね。それで、余力があれば、MAGIの運用
管理を手伝って欲しいの。」
「そ、それって、半端な仕事量じゃないでしょう。」
(げげっ。何か、物凄く大変そう。)
「アスカちゃんなら大丈夫よ。出来る範囲で構わないし。」
「まあ、いいわ。でも、体が言うことを聞くようになるまでは、このままでいたいんだけ
ど。要は在宅勤務がいいんだけどね。」
「ええ、いいわ。といっても、アスカちゃんが技術部に所属したらの話だけどね。」
「駄目そうなの。」
「ううん、分からないの。碇司令もはっきり言わないし。私は司令に直訴したんだけど、
同じことをしている所があるのかもね。」
「さっき言っていた、広報部?」
「そうね。他にもあるかもしれないの。でも、先輩がいないから、私は物凄く大変なの。
MAGIの運用管理だけでも、気が遠くなるほどの仕事量があるの。」
「じゃあ、人を増やせばいいじゃないですか。」
それまで黙って聞いていたシンジが口をはさむ。シンジにとっては、アスカが忙しくなる
のは、あまり気分が良いものではないのだろう。
「シンジったら、バカね。今のネルフじゃあ、お金が幾らあっても足りない状況なのよ。
新しく人を雇うお金なんて、あるわけ無いじゃない。」
アスカはあきれて言った。
「そうね。アスカちゃんの言う通り、今のネルフはお金が無くて、人員増は難しいの。だ
から、今の人員でやるしかないのよ。」
「それに、機密事項を扱う人間は少ない方がいいんでしょ。元々、アタシ達チルドレンは
機密を嫌ほど知っているし、そういう点からも、うってつけなのよね。」
「ふうん、そんなもんなのかなあ。アスカって、良く知っているね。」
シンジはアスカを少し尊敬するような目で見つめた。
「そりゃそうよ。機密をスパイにべらべらと得意気に話す誰かさんとは違うもの。」
そう言いながら、アスカはシンジのことを見る。
「うっ。ごめん。」
シンジは、マナの一件があるため、反射的に謝ってしまった。
「まあまあ。じゃあ、私は今日はこれで失礼するわ。アスカちゃん、出来たらお願いね。
私を助けると思って。それじゃあね。」
マヤはそう言うと、去って行った。
「さ〜て、どうしようかな。」
マヤが去った後、アスカは呟いた。
「やっぱり、アスカは技術部に行きたいの?」
「まあね。マヤ一人じゃ、無理だし、しょうがないでしょ。まあ、司令が何を考えている
のかは分からないけどね。」
「そうか。アスカは忙しくなっちゃうね。」
シンジは寂しそうに言う。
「シンジも遊んでないで、ネルフで働いたら。そうしたら、アタシと一緒の時間が、少し
は増えるわよ。いくら忙しくても、食事の時間位は一緒になれるでしょ。」
(食堂のメニューより、シンジのお弁当の方がおいしいものね。)
「そうだね。僕も考えてみるよ。」
シンジの顔がぱっと明るくなった。アスカの考えが分からないシンジは、『アタシと一緒
の時間が、少しは増えるわよ。』という言葉にほのかな期待を抱いたのだ。
「じゃあ、今日頼まれた仕事は二人でやるのよ。アタシが先生になって、みっちりとしご
くから、覚悟しなさい。」
(アンタがしっかりやれば、アタシが楽出来るものね。)
「ええっ。そんなあ。」
シンジはがっくりと肩を落とした。だが、その日から1週間、アスカの厳しいしごきが始
まるのだった。
***
その日の夜6時丁度に、ユキはやって来た。ユキは、アスカとシンジに仕事を続けるよ
うに言うと、夕食を作り始めた。もちろん、3人分である。お蔭で、二人は7時まで仕事
を続けることが出来た。
「夕御飯、出来ましたよ〜。」
ユキの声がすると、シンジとアスカは食卓へ向かった。そして、3人で和気あいあいと食
事をした。ユキは、アスカのことを、色々と聞いたりせずに、『惣流さんのお話が、何で
もいいから聞きたいな。』と言ったため、アスカの自慢話が中心になってしまった。
アスカは、1時間かけてガギエルとの戦いの顛末を自慢気に話し、途中で何度かシンジが
『こんなこともあったんだよ。』と口を挟むといった調子だった。ユキは、アスカの自慢
話を嬉しそうに聞いていたため、アスカも上機嫌になった。
食事の後は、シンジは洗い物、アスカとユキはお風呂となった。ユキは思ったよりも力が
あり、シンジの力を借りずにアスカを持ち上げて、風呂へと運んで行った。自宅でお風呂
に入ってきたというユキは、アスカの体を洗うと、二人して湯船に浸かり、女の子同士の
話に花を咲かせた。ファッションの話を中心に、殆ど一方的にアスカがしゃべりまくるの
だが、ユキは結構嬉しそうな様子だった。アスカも良い聞き相手が出来て上機嫌だった。
ユキが風呂を出て、帰る支度が出来た頃には、9時を少し回っていた。ユキは明日以降も
来てくれることを約束し、嬉しそうに帰って行った。アスカと話したことが、とても楽し
かったようだ。帰り際に、アスカはユキにちょっとした頼みごとをした。
ユキが帰った後、シンジにはアスカのマッサージが待っていた。ユキの手前、パジャマを
着たアスカだったが、ユキが帰るやいなや下着姿になり、シンジにマッサージをさせた。
「アスカ、どう?気持ちいい?」
シンジの手がアスカの腕をさする。
「うん、シンジ、ありがとう。もうちょっと優しくしてくれるといいな。」
「うん、わかったよ。」
「そう、そこそこ。そこが気持ちいいわ。もっとやって。」
「はいはい。お嬢様。」
「シンジがこんなにマッサージがうまいんだったら、もっと早く頼むんだったな。あ〜、
失敗した。」
「でも、昔のアスカだったら、嫌がったんじゃないかな。」
「そうかもね。でもいいわ。過ぎた事は忘れないと。」
「それでこそ、アスカだよ。アスカは、前向きに生きなきゃ。」
「褒めても、何も出ませんからねえ。ふふっ。」
「出なくてもいいよ。僕に優しくしてくれればね。」
「そうね。朝はからかって、ごめんね。許してね。」
「もう、いいよ。アスカは愛情のこもったキスをしてくれたし。」
「シンジ、まだ愛情はこもってないのよ。わ・か・っ・た?」
(全くこもっていないわけじゃないけどね。)
「ちぇっ、残念だな。」
シンジは本当に残念そうに言った。
「あったり前でしょ。愛情をこめてほしかったらもっともっとアタシに優しくするのよ。
いい、分かった。」
そんな平和な会話をしながら、30分ほどマッサージを続けた後、二人は横になった。
眠りにつこうとするシンジに対して、アスカが声をかけた。
「ねえ、シンジ、起きてる?」
シンジがアスカの後ろにいることから、アスカからはシンジの顔が見えないため、アスカ
は小声で言った。
「うん、起きてるよ。」
シンジも小声で答える。
「シンジにお願いがあるんだけど、いいかな。」
「うん、なあに。言ってみて。」
「うん、アタシって、シンジのことを知っているようだけど、以前のシンジのこととか、
結構知らないことが多いでしょ。シンジもアタシのことを知らないじゃない。でも、アタ
シ達って家族でしょ。それじゃあいけないと思うのよ。だから、アタシ達、もっとお互い
のことを話した方がいいと思うの。シンジはどう思う。」
「そうだね。僕もそう思っていたけど、切り出せなかったんだ。」
「じゃあ、夜のこの時間は、お互いのことを聞き合う時間にしましょう。じゃあ、早速、
アタシから。シンジの小さい時のことを教えて。」
「小さい時のことか。あんまり、いい思い出はないけどね…。」
そう言いつつも、シンジは、アスカに自分の子供時代の事をぽつりぽつりと話し始めた。
公園でお母さんが迎えに来る友達が羨ましかったこと、周りにあるものに当たり散らした
こと、自分がいらない子だとずっと思っていたこと。シンジはそんなことを淡々と話しだ
した。
アスカはそれを聞いて、シンジに対する認識を新たにした。それまでは、碇司令の庇護の
元、ぬくぬくと育ってきたお坊ちゃんという印象があったが、シンジの悲しい子供時代が
自分に似ていることが分かったからだ。
(ふうん、シンジって、アタシと似たような境遇だったんだ。アタシと違って、シンジは
感情が内向きになったのね。その点がアタシと逆ね。何とか、コイツの感情を外向きにし
たいといけないわね。ちょっと骨が折れそうだけど、頑張ってみるか。)
そんなことを思いながらも、アスカはいつの間にか眠りについていた。
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2001.11.11 written by red-x