新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
(シンジは嬉しそうだし、アタシもシンジのことをこれまで以上にこき使えそうだし、ま
あまあかな。色々と気に食わないこともあるけど、あの悪夢を見なくて済むのは大きいわ
ね。ああ、でも良い気持ち。シンジはマッサ−ジも上手なのね。体力が戻ってもしばらく
は動けない振りをして、一緒にお風呂入ろうかな。シンジは怒るかな。シンジのことだか
ら、怒っても涙を見せれば大丈夫そうね。)
第8話 恋人(簡易バージョン)
シンジが出かけてから、アスカはしばらくパソコンを動かしていたが、ついつい疲れて
眠くなり、うとうとしてしまった。そして、再び例の悪夢を見てしまった。そして、夢の
中で、恐ろしい目に遭っていた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」
アスカは物凄い悲鳴をあげたが、丁度その時、運良くシンジが帰ってきた。
「アスカ、大丈夫!」
シンジはアスカの元に駆け寄って、アスカを抱きしめた。
「シンジ!」
アスカはシンジに抱きつく。
「シンジ!シンジ!シンジ!シンジ!シンジ!」
アスカも、シンジを強く抱きしめた。アスカは、体中に冷や汗をかいており、顔は真っ青
だった。
「うわぁ〜ん。シンジ〜、怖かったよ〜。うわぁ〜ん。」
アスカは泣きじゃくる。
「アスカ、怖い夢を見たんだね。でも、もう大丈夫だよ。安心して。いいよ。」
「シンジのバカ!何でもっと早く来ないのよ!怖かったんだから、本当に怖かったんだか
ら、もっと早く来なさいよ!」
アスカは、昨日と同じことを言ってシンジを責める。
「アスカ、ごめんね。怖い夢を見たんだね。でも、もう大丈夫だよ。」
シンジの優しい声にアスカは徐々に落ち着きを取り戻した。そこで、アスカはやっと昨日
のことを思い出した。
「シンジ、ごめんね。アタシ、昨日も同じ夢を見たのね。そして、シンジに一緒に寝るよ
うにお願いしたのよね。」
アスカは少し震える声で言う。
「そうだよ。やっと思い出したんだね。」
「うん。だから、お願い。今日も怖いから、一緒に寝て欲しいの。」
「ごめん。今日は勘弁してほしい。」
「え〜っ!なんで!どうして!」
「理由は、アスカが良く知っているはずだよ。」
シンジの目はちょっときつかった。アスカは身に覚えがあるので、ちょっとたじろいだ。
「わ、わるかったわよ。謝るから、怒らないで。」
「怒ってはいないけど。でも、今朝は凄く痛かったんだよ。だから、怖くてアスカとは寝
られないよ。」
シンジは、今朝、アスカが股間を蹴りあげたことを言っているらしい。死刑と言ったこと
では無いようだ。
「うっ。」
アスカは二の句が告げなかった。だが、これで怯むようなアスカではない。
「もう、あんなことしないから。」
「そんなこと言っても、信じられないよ。」
「じゃあ、どうすれば信じてくれるのよ。」
「どうしても駄目。」
「意地悪!」
「だって、アスカが悪いんじゃないか。本当に痛かったんだよ。僕は何もしていないのに。
それなのに、アスカったら、思いっきり蹴りあげたうえに、いい気味なんて言って、酷い
とは思わないの。」
「う〜っ。」
シンジの言うことが正しいので、うなる事しか出来ないアスカだった。
(仕方ない。色仕掛けでいくか。)
「シンジ〜。一緒に寝てくれれば、後でキスしてあげる。それでどう。ねっ。」
「嫌だ。」
「シンジ〜。一緒に寝てくれれば、胸を揉み放題よ。それでどう。」
「駄目。」
「シンジ〜。一緒に寝てくれれば、体を触り放題よ。これでもだめ?」
「駄目。」
「シンジ〜。一緒に寝てくれれば、体中、キスし放題よ。これでもだめ?」
「駄目。」
「しょうがない。最後の一線を超えなければ、何でもOK!これなら良いわよね。」
「だから、駄目だって。」
「最後の一線を超えなきゃ駄目なの?シンジのドスケベ!」
「だから、そういう問題じゃないの。」
「う〜っ。」
シンジがあまりにかたくななので、アスカは考え込んでしまった。
「分かったわ。じゃあ、これで最後のお願いにするわ。」
そう言うとアスカは、少し顔を紅くした。
「だから、何言っても駄目だよ。」
シンジは、ムスッとした顔をする。
「一緒に寝てくれたら、アタシ、シンジのこと…す、少しだけど、す、好きになってあげ
る。そして、シンジが望むなら、シンジの恋人になってもいいわよ。」
アスカは、俯いたまま言った。
「えっ!」
シンジの目に驚愕の色が浮かんでいた。おそらく、シンジはアスカが色仕掛けで来ること
を予想していたのだろう。予想外のアスカの言葉に、シンジの心は激しく揺れ、直ぐには
返事が出来ないようだった。そして、しばらくの間、その場を静寂が支配した。
「シンジ、やっぱりアタシのこと、嫌いなの?」
静寂を破ったのは、アスカだった。シンジからは、返事がない。まだ、何を言ったらいい
のか、迷っているようだ。アスカは少し躊躇したが、最後の賭けに出ることにした。
「もういいわ。アタシ、シンジがアタシのこと好きかもしれないって思っていたの。だか
ら、わがままばかり言っていたの。いつかシンジがアタシのこと好きだって言ってくれた
ら、アタシ達は恋人同士になるのかなあなんて思ったりもしていたの。」
アスカは声を落としながらそう言うと、一筋の涙を流した。
「でも、アタシ、思いっきり勘違いしてたのね。アタシったら本当に馬鹿よね。でも、も
ういいの。シンジの気持ちが分かったから。シンジはいやいやアタシの相手をしているっ
て分かったから。アタシ、シンジよりも素敵な人を探すから。だから、こんなこと、もう
二度と言わないわ。もう、二度と…。ううっ…。」
アスカは顔を手で覆い、嗚咽をもらした。と、その時…
「違う!」
シンジが唐突に言った。
「え…。」
「違う!勘違いじゃない!僕は、アスカのことが大好きだ。だから、勘違いじゃない!」
シンジの声は震えていた。
「えっ、ホント。本当なの。アタシみたいなわがままな女のことが本当に好きなの?アタ
シのことが嫌いじゃないの。アタシのことをからかっているんじゃないの。」
「う、うん。本当だよ。信じてアスカ。僕は、アスカが大好きだ。僕はアスカのことを嫌
いじゃない。からかってもいない。信じて欲しい。」
「じゃあ、アタシと一緒に寝てくれるのね?」
「う、うん。でも、今朝みたいなことにはならないって約束してくれる。」
「も、もちろんよ。」
「アスカ。」
「な、なあに。」
「今言ったこと、本当なの。僕のこと、嫌いじゃないの。信じていいの。」
シンジは澄んだ目で、アスカのことを見つめた。少し不安そうな顔をしている。
「アタシは、嫌いな人とは喋りたくないし、一緒に住まないし、そしてこんなことは絶対
にしないわ。」
言うが早いか、アスカはシンジを抱きしめて、キスをした。シンジは最初驚いて、離れよ
うとしていたが、アスカが舌を絡めてきた時点で諦めたようだ。シンジはアスカの背中に
手を回し、そのまま、熱い抱擁が続いた。
長いキスの後、ようやく二人は顔を離したが、二人の顔は真っ赤だった。しばらく、二人
は黙っていたが、アスカが沈黙を破った。
「シンジ。これで信じてくれた?」
アスカは、ほんのりと頬を染めて、シンジのことを見る。もちろん笑顔も忘れない。
「う、うん。」
シンジの頬も紅くなっている。
「じゃあ、アタシに何か言うことあるんじゃない?」
「ア、アスカ、僕はアスカが大好きだ。だから、僕の、こ…恋人になって欲しい。」
シンジは、恥ずかしそうに言った。
「うん、いいわよシンジ。アタシ達今から恋人同士ね。これからも、優しくしてね。」
そう心の中で思いつつも、アスカも頬を真っ赤に染めた。
「う、うん。もちろんだよ、アスカ。」
「じゃあ、アタシ、シンジの恋人だから、今まで以上に甘えてもいいわよね。」
「う、うんいいよ。」
シンジは恥ずかしそうに言う。シンジは舞い上がっていて、『今まで以上に甘える=今ま
で以上にこき使う』というアスカの企みまでは気付かないようだ。だが、シンジにとって
は、一層こき使われることになっても、アスカに甘えられる方が良いだろう。
「シンジ、嬉しい。」
アスカは、毎日鏡の前で練習している、とびっきりの笑顔をシンジに向けた。これがアス
カの最終兵器なのだ。まるで、天使のような優しい笑顔。これで落ちない男は滅多にいな
いだろう。普段のきつい顔のアスカとの落差が激しいため、シンジに対しては、一層効果
があったようだ。シンジはその笑顔を見て、メロメロになった。
「アスカ、綺麗だよ。アスカってこんなに可愛かったんだね。」
「あ〜ら、シンジったら、アタシのこと、可愛いって思っていなかったの。」
「う〜ん、何て言ったらいいのかわからないけど、僕がアスカの事を好きになったのは、
外見じゃないんだ。アスカは他の人と違って、僕に構ってくれたし。悪い所も教えてくれ
たし、ぐいぐい引っ張ってくれたし。それに、アスカって凄く輝いて見えたんだ。いつも
明るくて、行動力があって、僕にないものを一杯持っていたんだ。こんなんじゃ、理由に
ならないかな。」
「ううん、いいの。それだけ分かれば充分よ。」
「アスカ、大好きだよ。」
「うん、ありがとう。あたしも、まだ少しだけど、好きよ。」
「少しだけ?」
「だから、さっき言ったでしょ。一緒に寝てくれれば、少しだけ好きになるって。」
「少しだけか。でも、今はそれで充分かな。」
「シンジが優しくしてくれたら、もっと好きになるかもよ。シンジ次第よ。」
そう言って、アスカはもう一度にっこり笑った。
「うん、分かったよ。」
シンジも微笑んだ。
「とりあえず、今は夕食かな。ちょっとお腹空いちゃった。」
「あ、ごめん。もうこんな時間か。急いで夕食を作るね。」
「ねえ、シンジ。今日は、一緒にお風呂入ろうよ。」
「え〜っ。それはちょっと…。」
「やっぱりアタシのこと、好きじゃないんだ。」
アスカは落ち込むような仕草を見せた。
「ううん、そんなことないよ。わ、分かった。一緒に入ろう。」
シンジは慌てて言った。
「アタシの体を洗ってね。正直言って、昨日は自分で洗うのが辛かったの。左手だけしか
うまく動かなくて、アタシ、泣きたくなる位大変だったんだ。」
そう言うと、アスカは舌をペロリと出した。
「うん、分かったよ。じゃあ、ちょっと待っててね。」
そう言うとシンジはアスカを持ち上げて、リビングへ運んで行った。
今日の夕食は、時間が無かったこともあり、チャ−ハンになった。アスカは昨日と同じ
くシンジに食べるのを手伝ってもらった。もちろん、昨日以上に甘えてである。その結果、
シンジの顔がにやけっぱなしだったのは言うまでもない。
アスカは、食べ終わると、シンジに『耳を貸して。』と頼んだ。シンジは、不思議に思
いながらも、アスカに耳を貸した。そうしたら…
「ちゅっ。」
シンジの頬で音がした。シンジが驚いてアスカを見ると、アスカは笑っていた。
「食べるのを手伝ってもらったお礼よ。」
「え、えええええ!」
「ごめん、嫌だった?」
アスカの顔が少し暗くなった。
「そ、そ、そ、そんなことないよっ。う、嬉しいよ。」
シンジは思い切り動揺している。
「シンジ、嬉しいの?良かった。またこれからもしてあげるね。だって、アタシ達、恋人
同士だもの。これ位は…ね。」
そう言って、アスカは少し頬を染める。
「う、うん。」
シンジは満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、次はお風呂ね。よろしくね、シンジ。」
「う、うん。ちょっと待ってて。タオル持って来る。」
「ちょっと待った!今日は、小さいタオルはいらないからね。」
「ええっ!じゃあ、アスカは裸じゃないの。それってまずくない。」
「もう!どうせ最後には全部見るんだから、同じでしょ。もう、勘弁してよね。アタシが
風邪ひいちゃうじゃない。」
「あ、ご、ごめん。」
「分かればいいのよ。」
シンジは、アスカに促され、バスタオルを用意して、戻ってきた。
「じゃあ、シンジ、よろしくね。」
「えっと、何をすればいいのかな。」
「はあ?アタシを裸にして、とっととお風呂に運ぶのよ。おわかり。」
「そ、そうだね。」
シンジは頷くと、アスカの服を脱がして、お風呂に運んだ。
***
「ああ、いい湯だわ。やっぱり、お風呂はいいわね。ちょっと狭いけど。」
「ご、ごめんね。」
アスカの後ろでシンジが謝る。今は、湯船に二人で浸かっているのだ。
「シンジは悪くないわよ。アタシが一緒に入るよう頼んだんだもん。変なシンジ。」
「ははは。」
「それよりも、マッサ−ジお願いね。シ・ン・ジ。」
そう言うと、アスカはシンジにもたれかかった。
「どこをマッサ−ジすればいいの。」
「胸。」
「えええええええええええええええええええええっ。」
シンジは思わず大きな声を出す。
「冗談よ。左手をお願い。今日は使いすぎちゃったの。」
「そうだよね、じょ、冗談だよね。びっくりした。」
「シンジが望むなら、ホントにしてもいいわよ。」
「あ、あまり変な冗談を言わないでよ。」
「シンジがアタシの腕をちゃんとマッサ−ジしてくれたらね。その時のご褒美よ。」
「えっ。」
「ん、もう。いいから、左手。」
「う、うん。」
そう言うと、シンジは、アスカの左手を丁寧にマッサ−ジし始めた。
「あ、いいわね。気持ちいいわ。そう、そこそこ。」
アスカは心地良い気持ちになった。
(何か、信じられないわね。アタシとシンジが恋人になるなんて。シンジはアタシのこと
が怖くて言うことを聞いていたのかもしれないって思っていたけど、思い切り勘違いだっ
たようね。副司令の言う通りだったわ。シンジは嬉しそうだし、アタシもシンジのことを
これまで以上にこき使えそうだし、まあまあかな。色々と気に食わないこともあるけど、
あの悪夢を見なくて済むのは大きいわね。ああ、でも良い気持ち。シンジはマッサ−ジも
上手なのね。体力が戻ってもしばらくは動けない振りをして、一緒にお風呂入ろうかな。
シンジは怒るかな。シンジのことだから、怒っても涙を見せれば大丈夫そうね。)
アスカは、そんなことを考えてながら、いつの間にか眠ってしまった。
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2001.10.21 written by red-x