新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
フフフッ。シンジの奴、徹底的にこき使ってあげるわ。だって、アタシが満足に動けな
いなんて、つまらないじゃない。シンジでもからかっていないと、やっていけないわ。シ
ンジもアタシみたいな美少女にこき使われるのは嬉しいはずよ!
第2話 紅い瞳
「何よ、シンジも鈴原も涙見せちゃって。全く情けないわね。」
「そういう惣流かて泣いてはったくせに。よう言うわ。」
「涙は女の子の特権よ!そんなこともわからないの!」
「はいはい、惣流の演技にはかなわへんな。わいかて騙されてもうたしな。」
「あったり前でしょ。あれ位の演技は、女の子ならお茶の子さいさいよ!ま、そもそもア
ンタ達とは頭の出来が違うしね!」
記者会見の後、ネルフのとある休憩室に戻ったシンジ達3人は、テレビを見ながらくつ
ろいでいたが、いつの間にかアスカとトウジが言い合いを始めていた。アスカにとっては、
男の子が泣くのは情けないことらしい。しかも、シンジならまだしも、あのトウジが泣い
たのだ。アスカにしてみれば、トウジに絡むことがうっぷん晴らしに丁度いいようだ。
一方のトウジにも言い分はある。普段のトウジなら泣くなんて考えられないのだが、綾
波の遺影を見て、感情の高まりを抑えられなかったようだ。トウジにしてみれば、悲しい
時に泣くのは当然らしい。しかも、他人のために泣くのだから。とはいえ、二人の言い合
いは、テレビがネルフのニュ−スを放映するまで続いた。
***
あの記者会見の後、またたく間に世界中にニュ−スが広まった。最初にインタ−ネット
でネルフの記者会見の様子がコメント抜きで公開された。後に様々なコメントが追加され
ていくのだが、最初は、記者会見のナマの様子が知らされた。
次に、テレビの特番が放映された。その切り口は様々だったが、「使徒という化物達と
戦う少年少女達」、「ゼ−レという悪の組織と戦った少年少女達」、「人間に仲間を殺さ
れ,悲嘆に暮れる少年少女達」というのは各社共通のものだった。
各社のニュ−スは、概ねネルフに好意的なものだった。元々、碇司令らが、ゼ−レや使
徒に関する情報を全世界に公開していたことに加え、記者会見におけるシンジの怒り、ト
ウジの涙、アスカの涙といったものが、記者達の心を打ったことが大きく影響していた。
特に、アスカの涙の効果は絶大だった。年端もいかない少女が苦しみに耐えて戦い、ぼ
ろぼろの体になったのだ。その少女の流す涙を疑う者などいるはずが無かった。ましてや、
少女はケガの痛みよりも疑われることの心の痛みの方が強いと言って涙を流したのだ。
これは、シンジやトウジの顔にモザイクをかけて放映することになっていたことも関係
するのだが、どのテレビも、アスカの言葉や姿を繰り返し流した。アスカの憂いを帯びた
『紅い瞳』に誰もが見入った。こうしてアスカは一躍有名人となった。その後、1年近く
もの期間にわたって、「紅い瞳の少女は誰だ?」というような特番が放映されることにな
り、いずれも高視聴率を記録するのだった。
***
その頃、司令室にて、碇ゲンドウと冬月副司令がにこやかに談笑していた。
「碇、記者会見はうまくいったな。」
「ああ。シナリオ以上にな。」
「アスカ君の涙があれほど効果があるとは、驚いたよ。彼女には、いずれお礼をしなくて
はいけないな。」
「必要な時に力を貸す、それだけで充分だ。」
「そうだな。我々が礼を言っても戸惑うだけだろう。しかし、碇、彼女のセリフはアドリ
ブか。とてもそうは思えないのだが。」
「だが、事実だ。」
「彼女が得意なのは理数系だけではないということか。しかも母国語でなしにあれだけ言
えるとはな。しかも、『紅いコンタクト』を付けたのは、彼女の機転だというじゃないか。
将来、優れた女優になるかもしれんな。実は、広報部が彼女を欲しがってな。このままネ
ルフ本部にとどまってくれるといいのだが。」
「シンジがいる。問題ない。」
「そうだといいが、まあいい。ゼ−レはどうする。」
「あの男に任してある。問題ない。」
「となると、資金の問題が大きいな。ゼ−レの後ろ楯が無いのは痛いな。」
「技術を売ればいい。問題無い。使徒の脅威もある。」
「まさか、碇、使徒の脅威を種に国連から金を引き出すつもりか。それはまずいぞ。使徒
が来ませんでしたではすまなくなるぞ。」
「来ないという保証はない。15年の間があったという事実もある。」
「碇、お前もずるいな。シンジ君に全てを押しつけるつもりだな。」
「フッ、問題ない。」
こうして二人は、今後のネルフの方針を固めていった。
ゼ−レに対しては、マスコミを使ってその力を削ぎ落とし、殆ど無力化したため、諜報
部を中心にして、関係者の逮捕・拘束を行っていく。Evaシリ−ズについては、製造に使
用した一切合切の施設を接収する予定だ。
資金面では、国連から使徒の脅威を種に資金提供を続けさせ、更にEva関連の技術を売
ることなどによって、従前と同様の資金を手当て出来る見込みである。今までは、使徒が
破壊の限りを尽くした後の復興にかなりの資金を割かれていたため、今後使徒が来なけれ
ば、従前よりも資金は潤沢になるはずだ。
Evaについては、初号機と弍号機が行方不明であるが、ゼ−レのEvaシリ−ズを改造し、
新初号機、新弍号機、新参号機、新四号機を本部に、新伍号機以降は、アメリカ、ドイツ、
中国、エジプト、ブラジルの各支部に配備する予定である。
チルドレン達の処遇だが、基本的には今までと変わらない。シンジが新初号機に、アス
カが新弐号機に、トウジが新参号機に搭乗する。新四号機は、パイロットが決まるまで、
予備機とする。訓練は、当面はシンジとトウジが行い、アスカは体調が回復してから合流
する。
人事についてだが、行方不明のリツコの代理でマヤが技術部長代行となり、同じく行方
不明のミサトの代理でマコトが作戦部長代行となった。人材の補充については、ゲンドウ
と冬月で意見が別れたため、保留となった。他支部の影響を排除するため、あくまで日本
人での補充にこだわるゲンドウと、速やかな機能回復を優先するため、他支部の人材を受
け入れるべきだと考える冬月とが対立したのである。
組織全体についてだが、二人とも、戦略自衛隊の解体と一部ネルフへの組み込みを考え
ていた。実際に人間に攻め込まれたらひとたまりもない現状を何とかすべきと考えたのだ。
しかし、これについては、相当時間がかかることが予想されたため、持ち越しとなった。
***
さて、休憩室でのんびりとテレビニュ−スを見ていたシンジ達の所に、日向作戦部長代
行が訪れた。伊吹マヤ技術部長代行も一緒だ。
「みんな、今日はご苦労さま。これから、今後のことを話すので、よく聞いて欲しい。」
そう言うと、日向は今後のシンジ達の処遇について、話し始めた。
まず、アスカだが、マヤから頼みごとがあるため、マヤの指示にしたがってほしいとの
ことだった。ゆっくり休めると思っていたアスカは、当然のごとく不満気だったが、マヤ
が『アスカを見込んで頼みがある』と言うので、渋々承知した。
次にシンジだが、新初号機が何とか動作するまで時間がかかるため、自宅待機となった。
当然アスカのサポ−トを行うことになる。マヤが『アスカの言うことを何でも聞いてあげ
て』と言うので頷いたが、その時にアスカがニッと笑ったことに気付き、背筋が少し寒く
なった。
最後にトウジだが、病み上がりのため、ネルフでリハビリをする傍ら、Evaの訓練も同
時平行で行うことになった。これは、トウジがシンジやアスカと比べてEvaの訓練時間が
短いためであり、少しでも二人に追いつく必要があったからだ。
「以上だが、何か質問はあるかい。」
日向が尋ねたが、3人とも質問はなく、その場で解散となった。
「シンジ、惣流の尻に敷かれちゃあかんで。気ぃつけや。」
「そ、そんなことないよ。いやだな、トウジったら。」
シンジはアスカの方をちらりと見たが、特に怒った様子はなく、シンジは胸をなでおろし
た。さすがに、アスカがこれからシンジをこき使おうと考えていることなど、思いもよら
なかった。
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2001.9.18 written by red-x