新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ

第73話

「ねえ、アスカ。起きてよ、ねえ。」 ううん、誰よ。良い気持ちで寝ているアタシを起こそうとしているのは。 「ねえ、アスカ〜っ。トウジやケンスケなんかは、もう行っちゃったよ。早く起きてよ。」 へっ、何ですって。アタシはガバッと起き上がったわ。あっ、本当だわ。周りにはヒカリ やユキの姿が見えないわ。あああっ、女の子の友情なんて儚いのね。アタシを置いて行く なんて。 「あっ、良かった。アスカが起きてくれて。」 そう言って、シンジは嬉しそうな顔をしているわ。あら、いやだ。アタシったら、結構眠 っていたのかしら。う〜ん、それじゃあアタシが悪いのかしら。 「えへへっ。シンジ、ごめんね〜っ。」 アタシがちょっと笑って首を傾げたら、シンジったら真っ赤になっちゃって。シンジった ら、可愛いわねえ。 「ううん、いいよ。それよりさ、早く行こうよ。」 「うん。」 アタシは、元気に返事をすると立ち上がったわ。 *** 「うわあ〜い、らくちん、らくちん。」 そう、午後はボートの時間なの。ボートっていっても、手漕ぎのボートじゃなくって、湖 とかでたまに見かける足で漕ぐタイプなの。それにモーターを取り付けて、足を使わなく てもいいようにしているのよ。だから、とってもらくちんなの。 水上スキーも楽しいんだけど、思った以上に体力を使うのよ。筋肉も疲れるしね。だから、 こうして楽をしているっていう訳なのよ。 「ねえ、アスカ。水上スキーもいいけど、ボートものんびりしてていいね。」 「そうね。らくちんなのが特にいいわね。」 「それよりも、アスカと二人っきりっていうのがいいな。」 あら、やだ。シンジったら。いきなり、何を言うのかと思ったら。 「どうして?」 アタシは、分かっていながらとぼけたわ。 「どうしてって。それは、僕が、ア、アスカのことが大好きだから。」 「ふふふっ、嬉しいわ。ありがと。」 アタシはにっこり笑ったの。そうしたら、シンジったら急に真剣な顔になったのよ。どう したのかしら。変なシ〜ンジ。 「ねえ、アスカ。今は二人っきりだし、誰も聞いている人はいないから、正直に言ってほ しいんだ。もしかしたら、アスカは父さんか誰かに言われて、僕と付き合うようになった の?」 「へっ?」 急に、何て変なことを言うのよ、シンジは。アタシは、思わず間抜けな声を出してしまっ たの。でも、シンジは真剣な表情になったわ。 「アスカ。僕は不安なんだ。アスカは僕にとっても良くしてくれている。アスカは家でも 優しいし、あんまり得意じゃないのに、毎日3食殆ど欠かさずに料理を作ってくれている。 家事だって、殆どアスカがしてくれるじゃないか。学校でも、友達が出来たのだってみん なアスカのおかげだし。ネルフでも、僕はアスカがいなくちゃどこにも行けないからって、 いつもアスカが側にいてくれるし。でも、アスカが優しくしてくれればくれるほど、僕は 不安になるんだ。アスカは正直言って物凄い美少女だし、そのうえ優しくて思いやりがあ るし、明るくて積極的だし、スポーツだって万能だし、頭だって物凄く優秀だし、まさに 完全無欠って言ってもいい位だよね。」 まあ、そうよね。シンジにしては良く分かってるじゃない。 「でもね、そんな完全無欠な女の子が、僕のことを好きになる訳がないんだ。僕なんて、 そんなにかっこよくないし、顔は普通だし、あんまり優しくないし、暗くて消極的だし、 運動神経だって良くないし、頭だってそんなに良くないし。どんなにひいき目に見たって、 どこにでもいる、普通の男の子なんだ。普通の女の子にだって、今まで好きだって言われ たことないし、バレンタインデーだって義理チョコすらもらったことないし、そんな僕を 好きになるなんて、絶対におかしいよ。アスカは、誰かに弱みを握られて、脅かされて、 仕方なく僕の相手をしてくれるんでしょ。もし、それが僕の父さんなら、僕が掛け合って あげる。だから、無理をしなくてもいいんだよ。」 なっ、なんてこと言うのよ、こいつは。考えが飛躍しすぎているのに気付かないのかしら。 でも、困ったわね。こういう時のシンジは、理屈は通じそうにないもの。う〜ん、どうし よう。 「ほら、黙ったね。やっぱり僕の思った通りなんだね。でもアスカ、安心してよ。父さん か誰か知らないけど、僕から頼んで、アスカに何の迷惑もかからないようにするから。」 アタシは、シンジの話を聞きながら、2つの案を考えたわ。どちらにしようか迷ったけど、 最初に思いついた案を実行することにしたの。で、アタシは俯いて黙り込んだわ。 「アスカ。もう、僕と一緒に住まなくてもいいよ。もう、無理なんてする必要はないんだ よ。訓練だって一人でやるし、もうアスカなしでも大丈夫だから。」 シンジは優しく言ったわ。だから、アタシも優しい声で言ったの。そう、シンジを安心さ せるためにね。 「シンジ、いつ気付いたの?」 「つい、最近だよ。何人かの人から、ドイツにいた頃のアスカの話を聞いたんだよ。そう したら、アスカが僕みたいな普通の男の子を好きになるわけないって分かったんだ。だか ら、何か他の理由があるに違いない、そう思ったんだ。はははっ、いつもは当たらないの に、こういう時だけ僕の勘が当たるなんてね。どうしてかな。」 しめたっ!いい話が聞けたわっ!これでアタシの勝ちねっ! 「そう、アタシの話を聞いたの?それでなのね?」 アタシは、か細い声で言ったの。その方が、後で効果が倍増するからなのよ。 「ああ、そうだよ。アスカ、気付かなくてごめんね。」 よし、今よっ!アタシは、思いっきり低く、気持ち悪い声で言ったの。 「それで、アタシを捨てようって思ったのね!!!」 「えっ?」 ふふふっ。シンジは、目を白黒させているわ。よ〜し、こっからが勝負よ。上手くシンジ を丸め込んでやるわっ! つづく(第74話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  シンジは、アスカみたいな完全無欠の少女が自分を好きになるはずがないと思い込んで しまったようです。普通なら、これで破局に向かって一直線ですね。でも、アスカのこと ですから、シンジを上手くいいくるめることでしょう。 2003.6.10  written by red-x