新世紀エヴァンゲリオン 外伝 超少女アスカ
第34話
「あ、あのう、僕の名前は碇シンジといいます。皆さん、よろしくお願いします。」
シンジは、そう言いながら頭を下げたわ。そう、ここは第3新東京市立第壱中学校の2年
A組よ。アタシとシンジは、転校のあいさつをしているっていう訳よ。シンジったら、ち
ょっと緊張しているみたいね。声がうわずっているわ。
でもね、だあれも聞いていないのよ。えっ、何でかって。そりゃあ決まってるわよ。クラ
スのみんなの目は、超絶天才美少女のアタシに釘付けになっているからよ。ああ、美しい
って、罪なのね。ごめんね、シンジ。
でも、大丈夫よ。直ぐにみんなは、シンジに注目するようになるわ。さあてと、次はアタ
シの番ね。アタシは明るく微笑みながら言ったわ。
「アタシの名前は、惣流・アスカ・ラングレーです。皆さん、仲良くして下さいね。」
その瞬間、クラス中の男子が大騒ぎしたわ。
「かっわいいなあ〜。」
「綺麗だ〜。」
「すっげえ、美人だなあ。」
「モデルかなあ。」
男共は、そんなことを口々に言い出したの。そして、収拾が付かないくらいの騒ぎになっ
たのよ。でもね、ちょっとソバカス顔の可愛い女の子が一喝してその場を収めたの。この
子、結構やるわね。
アタシがそう思った時、ある男の子が手を挙げたの。
「先生、転校生に質問したいんですが、良いですか?」
「まあ、いいでしょう。但し、静かに手を挙げて下さいね。それから、変な質問はしない
ように。」
それを聞いた男共は、一斉に手を挙げたの。もちろん、女の子もね。
「じゃあ、最初は洞木さん。」
先生は、唯一手を挙げていない女の子を指名したわ。きっと、先生からの信頼が厚いのね。
「はい。お二人とも、何処から来たんですか。」
最初に答えるのはシンジね。アタシは目で合図をしたわ。シンジも分かったらしく、ちゃ
んと答えたわ。
「僕は、ドイツから来ました。」
それを聞いて、教室がどっと沸いたわ。セカンドインパクト前もそうだと思うけど、外国
からの転校生っていうのは、珍しいようね。
「アタシもドイツから来ました。」
それを聞いて、教室のあちこちでヒソヒソ話が聞こえたきたわ。同じ国から同時期に来た
から、何か関係があるのかと疑い始めたようね。アタシの思う壺ね。
「じゃあ、次は加藤。」
またしても、女の子が当てられたわ。
「はい。え〜と、惣流さん。言いたくなかったらいいんですが、左手にはめているものは
何ですか。」
おっと、いきなり来たわね。アタシはチラリとシンジを見たら、物凄くあたふたしていた
の。笑っちゃうわね。シンジの目は、言わないでっていう感じだったわ。でもね、それじ
ゃあ、これ見よがしに左手の指輪をちらつかせていた意味が無いのよ。
「ああ、これは婚約指輪です。」
「えええええええええええええええええええええっ!」
「うっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ショーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!」
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!」
途端に教室中は大騒ぎになったわ。でも、加藤さんは続けて聞いたの。
「あ、あの、婚約者って、誰ですか。」
それを聞いて、シンジはアタシを見て、止めてくれって目で訴えたのよ。でも、アタシは
気付かぬフリをして、シンジの手を掴んだの。そして、みんなにシンジの左手にはめられ
ている指輪が良く見えるようにしたのよ。
「は〜い、ヒントその1。この指輪は、アタシの指輪とお揃いで〜す。」
でも、それだけでみんな、分かっちゃったらしいのよ。えっ、そんなの当たり前だって。
まあ、それもそうね。で、再び教室内は大騒ぎになっちゃったのよ。
でも、アタシは冷静に観察したの。男の子の3割がシンジを睨み付けて、3割が泣いて、
3割が呆然とした顔をしていたの。そして、女の子の2割がシンジを睨み付けて、2割が
泣いて、2割が驚いて、4割がほっとしていたわ。
で、少しみんなの興奮が収まりかけた頃、先生は別の人を指名したわ。
「じゃあ、次は相田。」
「はい。婚約したのはいつですか。そして、どれくらい前から付き合っていますか。」
「え〜と、婚約したのは、昨日です。付き合ったのは、半年位前からです。」
シンジはそう答えたわ。そりゃそうよ。アタシと事前にそう言うように、打ち合わせたん
だもの。でも、アタシはこう言ったの。
「今のは嘘です。」
その瞬間、みんながシンジを見たわ。そして、教室はシンと静まり返ったの。そりゃあ、
そうよね。婚約者の片方が言った事を、もう片方が否定したんだもの。シンジも、ひどく
驚いた顔をしたけど、教室のみんなはもっと驚いた顔をしたわ。
でも、アタシはにっこり笑ってこう言ったの。
「正確には、婚約したのは10年前です。昨日は、婚約指輪を買ってもらっただけなんで
す。二人には皆さんが思う以上に長い歴史がありますから、女子の皆さん、アタシからシ
ンジを取るなんて考えは捨ててくださいね。」
そうそう、アタシはこれが言いたかったのよ。こう言っておけば、シンジに唾をつけよう
なんて、酔狂な女の子は居なくなると思ったのよ。あの、マナっていう女の子以外はね。
「も、もしかして、親が無理やり決めた婚約者ってことですか。」
あら、相田ったら、良い質問ね。アタシは、その質問ににっこりと笑って答えたわ。
「絶対に違います。アタシがシンジに一目惚れしたから、親達を説得したんです。最初は
親も反対していましたが、アタシ達の愛の深さに負けて、婚約を認めてくれたんです。も
っとも、アタシが『婚約を認めなかったら死んでやる〜っ!』って何千回も言ったからか
もしれませんけどね。」
あら、みんな、唖然としちゃったわ。でも、まだこれからよ。
「ですから、二人の仲を割こうなんて思わないでくださいね。こう見えても、アタシの趣
味は、格闘技全般です。空手は不得意だけど、ヨーロッパのジュニア選手権の男子優勝者
よりは強いです。」
そこまで言ったら、教室内は騒然としたわ。みんな、信じられないっていう顔をしていた
わ。さあて、もう一押しね。
「相田君っていったかしら。500円玉を貸してちょうだい。」
「あ、ああ、良いよ。」
アタシは相田から500円玉を受け取ると、上下を掴んでねじ切ったわ。哀れ、500円
玉は真っ二つになったわ。
「アタシからシンジを取ろうとしたら、こうなります。覚悟して下さいね。」
あら、教室内の気温が急に下がったような気がするけど、気のせいかしら。それに、先生
も含めて、誰も何も言わなくなったわ。ちょっとやり過ぎたかしら。てへっ。
つづく(第35話へ)
目次(目次へ)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
シンジに余計な虫がつかないようにと、アスカは最初が肝心とばかりに意気込みます。
果たして、これが吉とでるでしょうか。
2002.8.20 written by red-x