新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


 私の名前は森川雪。父が死に,妹と弟と3人で路頭に迷ってしまったが,私はある青年 と出会い,惣流さんの監視をする代わりに,彼は私達の生活の場を用意してくれた。いわ ば,惣流さんのおかげで私の新たな人生が始まったのだ。  そんなある日,2−Aに霧島マナという転校生がやって来た。彼女が来てから,惣流さ んの顔色が冴えなくなった。彼女が,惣流さんを苦しめているに違いない。

外伝その5 祈り(5)



 霧島マナは,ずっと碇君にまとわりついているらしい。哀れな惣流さんは,碇君に何度

も忠告をしたようなのだが,碇君は,マナがスパイであるとは信じなかったようだ。碇君

は救いようがないバカだということが良く分かった。


 色々と話を聞くと,マナという女は,本当にいやらしい性格をしている。碇君にまとわ

りついて,愛想笑いを振りまき,気を引いているのだ。こんなのは,スパイの常套手段で

引っかかるバカはいないと思うのだが,現実にいるのだからしょうがない。碇君は,本当

に大バカなのだ。


***


 マナが転校してきて,初めての日曜日,碇君はいそいそと出かけて行った。その後を何

と惣流さんが尾けて行ったのだ。私も慌てて後を追った。


碇君は駅前に向かっていた。惣流さんがその後を尾けている。そのさらに後を私が尾けて

いた。惣流さんは,サングラスをかけ,髪を束ねていた。変装しているつもりらしい。知

っている人が見ればバレバレなのに。私は,惣流さんには悪いが,吹き出しそうになって

しまった。


駅に着いてしばらくすると,マナがやって来た。白い帽子を被り,ノースリーブの白いワ

ンピースを着ていた。パッと見では,なかなか清楚で可愛い感じがした。もちろん,惣流

さんの足元にも及ばないが,かなり良い線いっていると思う。


碇君は,マナを見ると,ニコニコして声をかけた。そして,連れ立って電車に乗って,芦

ノ湖へと向かった。


芦ノ湖で二人は遊覧船に乗った。碇君はのんびりとしていたが,マナはそんな碇君に対し

て,積極的に話しかけていた。最初は照れていた碇君も,次第ににこやかな顔になってい

った。それに反比例するように,惣流さんの顔は引きつっていった。


お昼には,二人は一緒にお弁当を食べていた。二人とも打ち解けてにこやかに会話を楽し

んでいるような雰囲気だった。惣流さんは,物陰でサンドイッチをかじっていた。何故か

後ろから見ても,怒りのオーラが見えるような感じがしていた。私は家から持って来たお

にぎりだ。


お弁当を食べている時の碇君は,恥ずかしそうにしたり,ニコニコしたり,表情が豊かだ

った。一方の惣流さんは,拳を強く握りしめていた。


夕方に二人は温泉街へとやって来た。そして,とある温泉に入って行った。惣流さんも時

間を置いて入って行ったが,直ぐに出てきた。そして,涙を流しながら走り去ってっ行っ

た。私は慌てて惣流さんの後を追った。


惣流さんは,寄り道せずに,真っ直ぐに家に帰った。私も惣流さんが家に帰るのを確認す

ると,自分の家へと向かった。今日は,訳の分からない1日だった。


 家に帰ってから,今日の惣流さんの行動の意味を考えてみた。最初は,碇君が機密を漏

らさないように監視したのだと思っていたが,夕方に見せたあの涙を見る限りは,どうも

違うようだ。信じたくはないが,惣流さんは,碇君のことが好きらしい。


あんなバカな男を好きになるなんて,惣流さんらしくはないが,恋は盲目という。納得出

来ないが,しょうがないだろう。私がどうこうできる問題では無いし。

私は,マナがスパイであることを碇君に伝えようかとも思ったが,さすがにまずいと思い

なおした。私に出来ることは,マナが早く居なくなるように祈ることだけだった。


***


 私の祈りが通じたのか,数日後からマナの姿が見えなくなった。これで惣流さんの笑顔

が戻るかもしれないと思った私は,2−Aのクラスを見に行った。案の定,マナの姿は見

えなくなっていた。私は,友人にマナのことを聞いてみた。


「ねえ,霧島さんを最近見かけないけど,どうしたの。」

「休んでいる理由は,知らないのよ。でも,転校早々休むなんて,よっぽど調子が悪いの

か,碇君と何かあったのか,どっちかよね。」

「碇君と何かあったって言うと?」

「例えば,碇君が惣流さんとよりを戻して,霧島さんに別れを告げたとか。」

「それは無いわ。私,碇君と霧島さんが日曜日にデートしていたっていう話を聞いたこと

があるもの。」

「あら,それって本当?それにしては,惣流さんは落ち込んでいないわね。やっぱり,碇

君は惣流さんの下僕っていう噂は本当なのかしら。それとも,単に知らないとか。」


私は,どちらでもないことを知っていたが,あえて黙っていた。

「碇君はどうなの。何か変わった所はある?」

「そうね。最近,ちょっとボーッとしていることが多いかしら。霧島さんが居ないからか

もね。そうなると,碇君が振られたのかしら。」

「碇君て,さえないものね。」

「えーっ。でも,優しいし,エヴァのパイロットだし,結構人気があるよ〜。でも,惣流

さんが側にいるから,皆近づかないだけみたいよ。」

「へーっ,ホント。おっどろきよね。あの碇君が人気があるとはね〜。あんまり良い所が

ないと思うけどな。」

「そんなこと言うと,惣流さんに睨まれるわよ。」

「えっ,何で。」

「何か,惣流さんは,碇君のことを好きっていうよりも,自分のモノっていう感覚じゃない

かって思うのよ。だから,自分のモノを他人に使われたりけなされたりするのは気分が良く

ないんじゃないかってと思うのよね。」

「ふ〜ん,そんなものかしらね。」


私は何か違うという感じがしたが,適当に誤魔化しておいた。

「あ,そろそろ休み時間が終わるから,じゃあね,ユキ。」

「うん,じゃあね。」


私は友人と別れて,教室へと戻った。結局,マナに関して大した情報は得られなかったが,

惣流さんがあんまり落ち込んでいないことが分かったのは,大きな収穫だった。だが,惣流

さんは碇君のことが好きではないのか。いや,違うだろう。あの涙はそれでは説明出来ない。

やはり惣流さんは,碇君のことが好きか,それに近い気持ちを持っているのだろう。落ち込

んでいないのは,おそらく外見だけで,本心では落ち込んでいるはずだ。それが分からない

ように見せられる惣流さんも凄い。だが,マナが居ないお蔭もあるだろう。いくら惣流さん

でも,目の前でいちゃいちゃされたら,さすがに落ち込まずにはいられないだろうから。


***


 惣流さんは,マナが居なくなったお蔭で,ある程度は元気になったようだ。私は,マナが

二度と惣流さんの前に現れませんようにと,祈るしかなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2001.11.30  written by red-x