新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第5部 仕組まれた戦争



第100話 

「葛城部長。碇君のところに行き、言われた通りにしました。」 サーシャの報告に、リョウジはご苦労さんとねぎらった。サーシャは、シンジの部屋を出 た後、そのままリョウジの所へ来たのだった。 「それで、シンジ君はいつになったら戦えそうかな。」 リョウジの問いかけに、サーシャは自信なさそうに答えた。 「そうですねえ。あと数日、いや1週間位かもしれません。」 「そうか。やっぱり、アスカがいないと駄目か。」 リョウジはそう言って、首をすくめた。リョウジも、シンジがエヴァに乗って戦えるよう になるまで、少なくともあと数日はかかると判断した。アスカは、シンジにとってこの世 の何よりも大切な女の子なのだ。そのアスカが、シンジの目の前で事切れたのだから、そ のショックは計り知れないはず。 「碇君、何とかならないかしらね。」 サーシャはこぼした。既にスコピエへと攻め込む準備その他は整っており、後はシンジが エヴァに乗れるようになるのを待つだけだったからだ。 「こればっかりはしょうがないさ。まあ、気長に待とう。」 リョウジがそう言ってため息をついた時、リョウジの携帯電話に緊急の呼び出しがあった。 連絡は、保安部からだった。 「ん、どうしたんだ?まさか、ゼウスか?」 急に真剣な表情になったリョウジの耳に、信じられない報告があった。シンジが病室を抜 け出し、ケージへと向かっているというのだ。しかも、保安部の人間を殴り倒しながら。 「シンジ君には、一切手を出すな。いいなっ!」 リョウジはそう厳命すると、シンジの元へと向かった。 *** シンジは、ケージを目指してゆっくりと歩いていた。途中で保安部の人間が足止めしよう としたが、邪魔する者は全て殴り倒していた。 シンジは、邪魔者がいなくなると再び歩きだした。そして、俯きながら小声で呟いていた。 「ちくしょう、ゼウスの奴ら。 僕は、絶対にお前達を許さない。 よくも、よくも、僕のアスカを…。」 シンジの目は、怒りと狂気に満ちていた。普段の穏やかな優しい笑顔は、影も形も無かっ た。そのシンジの前に、再び邪魔者が現れた。保安部では手に負えないと判断し、傭兵部 隊が応援に現れたのだ。リョウジからの連絡は、間に合わなかったのだ。 「おい、碇シンジ。そこで止まれ。」 シンジの目の前に現れたのは、レッドアタッカーズの中隊長、レッドウルフだった。傭兵 の世界では、レッドウルフかジャッジマンかと言われるほどの凄腕である。それはシンジ も知っているはずであり、レッドウルフはシンジが止まると思っていた。だが、予想に反 してシンジは止まらない。ゆっくりと、確実に前進していく。 「しょうがない。腕付くといくか。」 レッドウルフは、真剣な顔をして身構えた。そして、シンジが間合いに入ると同時に攻撃 を仕掛けた。一気にシンジの左横に移動し、ハイキックを首の後ろにお見舞いしたのだ。 だが、シンジは微動だにしなかた。 「な、なんだって。そんな、馬鹿な…。」 簡単にシンジを倒せると思っていたレッドウルフは、顔を引きつらせた。こいつは、いつ の間にこんなことが出来る様になったんだ。驚きのあまり、一瞬隙が出来た。その隙を、 シンジは見逃さなかった。 「僕の邪魔は、絶対にさせない!」 シンジは、そう言うと軽く手を振った…はずなのに、レッドウルフはゆうに30メートル は吹っ飛んで行った。 「げぼっ!」 レッドウルフは、血反吐を吐いた。どうやら、あばらも数本折れたらしい。レッドウルフ は、久々に戦慄した。こんな強い奴を相手にするのは、2014年の秋、ベトナムで死に かけた時以来だった。 「くっ…。やってくれるじゃねえか。今までは、猫を被ってたって訳か。」 レッドウルフは、唇を噛んだ。温室育ちの、弱虫の坊主。それが、シンジに対するレッド ウルフの評価だった。ジャッジマンがシンジを評価していると言った時も、レッドウルフ は鼻で笑った。エヴァに乗らないシンジは、戦士にはほど遠い、そう思っていた。ところ が、格下と見ていたシンジにこのざまだ。 「ぐうっ。」 レッドウルフは、立ち上がることが出来なかった。体中の力が抜けて、体が思う様に動か ない。止むなく、レッドウルフは銃に手を伸ばしかけた。 「止めろっ!」 そこに、リョウジの声が響いた。間一髪、地獄絵図が展開するのに間に合ったのだ。 「シンジ君…。」 リョウジは、シンジの顔を見て絶句した。人間、ここまで変わるものかと。リョウジの前 には、シンジの顔をした鬼が立っていたのだ。 「加持さん、どいて下さい。いくら加持さんでも、僕の邪魔はさせませんよ。」 シンジはそう言うと、ゆっくりとリョウジに近付いて来た。 「邪魔はしないさ、シンジ君。どうせ、ケージへ行くんだろ?俺に付いて来いよ。近道を 教えてやるよ。」 リョウジは、これ以上シンジが暴れるのを防ぎたかったのだ。そこで、一か八か、シンジ の思い通りにさせようと考えた。シンジは一瞬眉を潜めたが、どうやらリョウジへの信頼 感は以前と同じようだった。コクリと頷いたのだ。 「信じていいんですね。」 「ああ、俺とシンジ君の仲だろ。それに、俺がアスカをやられて怒っていないとでも?」 「いえ、分かりました。」 リョウジは、なんとかシンジの暴走を抑えることに成功した。そして、リョウジが去った 後には、悔しさに震えるレッドウルフが残されていた。 *** ケージに着くと、シンジは着替えもせずにエヴァに乗り込もうとした。 「おい、シンジ君。プラグスーツは着ないのか。」 驚くリョウジに、シンジは抑揚の無い声で答えた。 「ええ、必要ありませんよ。このまま行きます。加持さん、発進準備をお願いします。」 そう言って、エントリープラグに乗り込んだ。 「まあ、いいさ。シンジ君が戦う気になったんなら、その方が都合が良い。」 リョウジは、手筈通りにスコピエ攻撃計画を発動した。リョウジの指示に従って、交代で 本部に詰めていた要員は既に発令所でスタンバイしていた。オペレーターは、大井サツキ である。妹のように可愛がっていたエカテリーナの敵討ちの手助けが出来ると知って、連 日発令所の仮眠所に泊り込んでいたため、いち早く駆けつけたのだった。 「シンジ君、エカテリーナの敵討ちを頼むわよ。」 サツキの言葉に、シンジは力強く頷いた。そんなサツキの想いを受けて、シンジはエヴァ を起動した。 「よし、シンジ君。キャリアーは既に用意してある。こちらの指示に従って動いてくれ。」 リョウジの言葉に、シンジは冷たい声で答えた。 「いいえ、お断りします。僕は、僕の方法で復讐します。」 そう言うが早いか、初号機は何かをこじ開けるような仕草をした。すると、信じられない ことに、空間に裂け目が出来たのだ。 「なっ!」 驚くリョウジや発令所の面々を尻目に、初号機はその裂け目に入り込み、いずこかへ去っ た。そして、その裂け目は直ぐに閉じられた。数秒後には、初号機は綺麗さっぱり無くな っていた。 「こ、これはっ!」 リョウジは、スコピエで待機しているネルフの部隊に、緊急連絡をした。すると、時を置 かずして、サツキが絶叫に近い大声を張り上げた。 「初号機、スコピエ上空に出現しましたっ!」 信じられないことに、初号機は、ほんの一瞬でスコピエに移動していたのだ。 「おい、シンジ君。一体どうするつもりなんだ。おい、シンジ君!」 リョウジは何度もシンジとの連絡を試みたが、シンジからの応答は無かった。このため、 リョウジは、すぐさまマリア達に連絡をとった。 *** 「大変ですっ!エヴァンゲリオン初号機が上空に出現しましたっ!」 勝利の美酒に酔いしれていた、スコピエ近郊にあるゼウス本部では、突然の初号機出現に パニックを起こしていた。 「何だとっ!何で今まで気付かなかったんだ。」 ゼウス幹部のリーダー格であるクレイトスが怒鳴ったが、部下は突然出現したと言って弁 解した。 「馬鹿な。そんなことがあってたまるか。瞬間移動でもしたと言うのか。」 他の幹部も、怒りだした。だがその時、初号機から通信が入った。 「僕は、碇シンジ。惣流アスカの婚約者です。アスカを殺したのがあなた達ゼウスである ことは分かっています。単刀直入に言います。あなた方には死んでもらいます。」 シンジの声は、無機質で冷たい感じだった。 「何を言うんだ。彼女を殺したのは、イラクの元大統領一派だ。我々ではない。それとも、 何か証拠があるのかね。」 クレイトスは反論したが、シンジは鼻で笑った。 「いいんですよ、もうそんなことは。アスカはね、遺書を残していたんですよ。自分が死 んだら、ゼウスが犯人だと思えってね。当然、僕はアスカの言うことを信じますよ。だか ら、あなた方には死んでもらいます。」 「ちょ、ちょっと待て。証拠はあるのか。」 他の幹部も反論したが、シンジは冷笑するのみだった。 「分かってないですね。僕にとって、証拠なんて意味が無いんですよ。アスカが言うこと が僕の全てですから。」 それを聞いて、クレイトスは背筋が寒くなった。自分の知っているシンジとはどこか違う。 それが肌で感じられたからだ。 「いいですか、30分だけ時間を与えます。その間に全面降伏すれば、ゼウスと関係の無 い人の命は助かります。さもなければ、…マケドニア全土が焦土と化します。」 「な、なんだって…。一体、何を言ってるんだ。」 クレイトスには、シンジの言葉の意味が最初は分からなかった。いや、信じられなかった という方が正しいかもしれない。だから、慌てて聞き返した。 「ふっ。分からない人ですね。後30分で、僕は初号機を自爆させます。それで、マケド ニアとその周辺は吹き飛びます。もちろん、マケドニアのどこにも逃げ場はありません。」 「な、何を言ってるんだ。お前は、本当にイカリシンジなのか。そんなことをしたら、大 勢の罪無き人々が巻き込まれて死ぬんだぞ。そんなことが、許されると思っているのか。」 クレイトスは怒鳴ったが、シンジはフッと笑った。 「分からない人ですねえ。僕はねえ、自殺するんですよ。死んだ人間に許すも許さないも ないでしょう。それにねえ、一緒に地獄へ行く人は、多い方がいいですしね。」 「なっ…。お前は、狂っているのか…。」 クレイトスは絶句した。シンジの言っていることは目茶苦茶だ。とてもじゃないが、正気 の人間の言うことには思えなかった。 「そうかもしれませんね。でも、そんなことはどうでもいい。アスカがいない世界なんて、 滅んだって構わない。そんな世界にした、あなた方が悪いんだ。」 するとそこへ、部下から報告があがった。 「クレイトス様。ネルフが世界中に緊急放送を行っています。ネルフによると、初号機が 我々ゼウスに奪われた結果、30分で大爆発するから急いで避難せよとのことです。」 「何っ!で、爆発の範囲は?」 「それが、マケドニアと隣接国全てです。アルバニア、ギリシャ、ブルガリア、ユーゴス ラビアの各国にも、国外脱出の避難勧告が出されています。バルカン半島南部は、消えて 無くなる可能性が高いそうです。」 「何だとっ!」 「ネルフは正気なのかっ!」 その場の幹部達は、揃って立ち上がった。だが、クレイトスは悟った。これは、イカリシ ンジの暴走なのだと。もう、ネルフには止める術が無いのだと。 「ま、待て、イカリシンジ。お前は、一体何のために戦って来たんだ。正義のため、人類 の平和のためじゃないのか。そのお前が、大勢の罪無き人を殺すなんて、あり得ない。な あ、そうだろう。」 クレイトスは、必死にシンジを説得しようとしたが、シンジは笑うのみである。 「あなた、バカじゃないんですか。僕みたいな弱虫で卑怯な人間が、世のため人のために 戦う訳がないでしょうが。僕はねえ、他人に強要されて戦ってきたんですよ。それもねえ、 嫌々ね。だから戦うことには、もううんざりしてるんですよ。もう、終わりにしたいんで すよ。死ねばねえ、僕は楽になるんですよ。アスカさえいれば、僕は我慢出来たかもしれ ない。でもね、どっかのバカがアスカを殺したんですよ。だったらもう、死ぬしかないじ ゃないですか。どうせ死ぬなら、仲間は多いほどいい、そうは思いませんか。でもね、ア スカを死に追いやった人間は絶対に許せない。そいつが誰か分からなければ、疑わしい奴 らはまとめて殺すしかない、そうでしょう?」 「なっ…。」 シンジの理屈は、無茶苦茶だった。そんな理由で大勢の罪無き人々を殺すなんて、クレイ トスには信じられなかった。だが、クレイトスが絶句している間に、初号機めがけてスコ ピエ軍の戦闘機が迫っていた。 「よしっ、間に合ったか。」 クレイトスは、ほっとした。こんなこともあろうかと、以前初号機の動きを見事に止めた 電磁パルス爆弾を積んだ戦闘機を配備しておいたのだ。戦闘機は数十機、それが各々数発 のミサイルを発射した。ミサイルは、初号機の至近で次々と爆発し、初号機は爆煙に包ま れた。 「おおっ、やったか。」 「ふん、驚かせやがって。」 ゼウス幹部が悪態をつくが、爆発が収まると、無傷の初号機が宙に浮かんだままだった。 爆弾は、全く効果が無かったのである。 「諦めの悪い人達だ。」 シンジはそう呟くと、両手を天に向かって掲げた。すると、初号機の両手にいつの間にか 長くて紅い剣が握られていた。 「僕の邪魔をするなんて、許せない…。」 シンジが言った後、初号機の両手が素早く動いた。すると、どういう訳か、戦闘機が次々 と爆破炎上していったのである。 「そ、そんな…。」 クレイトス達が呆然と見守る中、1分もしないうちに戦闘機は全て撃墜されてしまった。 圧倒的な戦力を見せつけられたクレイトス達の戦意が喪失したその時、通信に割り込む者 がいた。リョウジだった。 「おい、シンジ君。バカな真似は止めろ。死んで、一体何になる。そんなことして、アス カが喜ぶとでも思っているのか。」 叫ぶ様に声を張り上げるリョウジを見て、クレイトスはこれで助かったと胸をなで下ろし た。だが、信じられないことに、シンジは首を横に振った。 「加持さん、あなたは分かっていない。いや、誰も分かっていない。僕が、どんなにアス カのことを好きなのか。アスカが喜ぶ?そうじゃないことは、僕にだって分かります。ア スカはきっと物凄く怒りますよ。でもね、僕はアスカに怒って欲しいんですよ。加持さん は、そんなことも分からないんですか。」 「な、何を言うんだ。」 流石のリョウジも、シンジの無茶苦茶な理屈に唖然とした。だが、シンジは構わず話し続 ける。 「アスカはねえ、前に言っていました。自分が死んだら、地獄に行くって。だったら、僕 も地獄に行くしかないじゃないですか。そのためには、少なくてもスコピエの人には全員 死んでもらいます。それくらい死なないと、僕はアスカの元へとは行けませんから。それ に、アレクサンドロスの予言でしたっけ、アスカが狙われた理由というのは。僕は、アス カが死ぬ原因になったアレクサンドロスに関する物は全てこの世から消えて欲しいんです よ。だから、マケドニアは滅びて欲しいし、マケドニアの人は、皆死んでもらいたいんで す。」 リョウジの顔は、真っ青だった。そのうえ、指が小刻みに震えていたのである。それを見 て、クレイトスはこれが芝居ではないことが分かってしまった。 「シンジ君、いつからそんな恐ろしいことを考えるようになってしまったんだ。あの優し いシンジ君は、どこへ行ってしまったんだ。」 「さあて、どこでしょうね。加持さん、こういう諺を知ってますか。 『悪に強しは、善にも強し』って。」 「ああ、大体の意味は分かる。どんな大悪党でも、改心すれば凄い善人になるっていう奴 か。」 「ええ、そうです。僕の場合、その逆だと思いませんか。アスカが死んだ瞬間、僕の良心 は消えて無くなったんです。いや、違いますね。悪意にとって変わってしまったんです。」 「いや、そんなことはない。シンジ君はそんな子じゃない。他人を傷つけることを誰より も嫌がっていたじゃないか。」 「ええ、確かにそんなこともありましたね。あの頃が懐かしいですよ。でもね、僕はアス カを愛してしまった。だから、一番大事な物が変わってしまったんですよ。今の僕にとっ て一番大事なのは、もう一度アスカに会うこと。そのためには、地獄に行くしかないんで す。これだけは、誰にも邪魔させません。」 「そんなことはない。いいか、もう一度考え直せ。今ならまだ間に合う。もうすぐネルフ の部隊がゼウスの基地にたどり着く。だから、待つんだ。待ってくれ。」 「いいえ、待ちません。僕は、アスカを死に追いやった人間を皆殺しにしてやります。」 「おい、待て!シンジ君!」 「では、通信はこれで終わります。ごめんなさい、加持さん。地獄に来ることになったら、 また会いましょう。」 「おい!待て、待ってくれ!」 だが、リョウジの説得も虚しく、シンジとの通信は回復しなかった。 一方、この会話を聞いていたゼウスの幹部達は、呆然とした。クレイトス以外の者達も、 どうやらシンジが本気らしいということが分かったからだ。 「そ、そうか。そういうことだったのか。」 その時クレイトスは、ランブロがやけにきっぱりとこの地を去った理由に初めて気付いた。 ランブロはきっと、この事態を予想していたに違いない。それを自分達に隠していたのだ と。このままでは、自分達が人類のリーダーとなるどころか、国ごと滅ぼされてしまうこ とがクレイトスにも分かった。しかも、今シンジが死んでしまったら、予言にあった最後 の使徒を倒すことが出来なくなってしまう。それだけは絶対に避けたかった。そうなると、 方法は一つしかない。自分達が降伏して、アスカ暗殺の黒幕をシンジの前に突き出すと言 って時間稼ぎをし、その間にネルフにシンジが死なないよう説得してもらうしかない。 「止むを得ない。人類の滅亡を防ぐため、我らが国土を守るためだ。ネルフとイカリシン ジに通信を送れ。無条件降伏する…。」 クレイトスは、血が滲み出るほど唇を噛みしめた。 *** 無条件降伏の後、5分もしないうちにネルフの部隊がゼウスの基地になだれ込んできた。 そして、クレイトス達のいる所に、10分もしないうちにやって来た。あまりの手際のよ さに、流石のクレイトスも驚いた。クレイトスは、どうやらこの場所は既に突き止められ ていたらしいと分かり、唖然とした。 「おい、ランブロはどこだ?」 部隊のリーダー格の男に尋ねられたが、クレイトスは正直に言うしかなかった。その男は、 最初は驚いた顔をしていたが、直ぐにネルフへと連絡をとった。 「おい、葛城部長。聞こえるか。」 「ああ、聞こえる。どうしてアンタがそんなとこにいるんだよ、カールさん。」 リョウジは、本当に驚いた顔をした。 「ゼウスに関しては、私が一番詳しいからな。あの事件よりも前に、こいつらの本部を探 していたのさ。で、今はここにいると。」 「ああ、そうか。でも、直ぐに逃げた方がいい。シンジ君はここで死ぬって言って、我々 の言葉に耳を貸さないんだ。」 「そうか、やっぱりな。でも、大丈夫だ。私に任せておきなさい。」 「何っ。一体どうやって?シンジ君は、通信を切って応じないんだ。もう、我々にも打つ 手が無いんだ。いいから、早く逃げてくれ。」 「ふっ、大丈夫だよ。」 カールはそう言うと、部下に指示してゼウスの幹部連中を部屋から連れ出した。そして、 シンジに通信を送った。 「おい、シンジ君。私だ、カールだ。私のことを覚えているか?」 「えっ、どうして…。」 シンジは、切ったはずの通信が繋がって驚いていた。 「まあいい。君は、そんなにアスカに会いたいのかね。」 「ええ、そうです。僕は、心の底からアスカを愛しています。だから、アスカのいない世 界なんて、僕には何の意味もないんです。もう、1秒たりとも生きていたくないんです。」 「だがな、果たしてアスカに会えるのかね。」 「ええ、会ってみせます。絶対に。」 「私なら、もう少し可能性がある方法を知っているんだがね。」 「えっ…。本当ですか?是非教えて下さい。」 実は、アスカに会える自信が無かったシンジは、藁にも縋るような気持ちで尋ねた。 「ああ、簡単なことさ。自爆なんて止めて、こっちに来るがいい。」 「カールさん、僕を騙そうとしていませんか。」 シンジは、一転してカールを疑いのまなざしで見た。 「そんなことはないさ。それ、あっちを見てごらん。」 シンジは、カールの指し示す方向を見て絶句した。 「はーい、シンジ。騙してごめんなさいね。」 そう、そこには死んだはずのアスカが、笑顔で立っていたのである。 「う、嘘だ。アスカは確かに死んだはずだ。お、お前は偽物だ。」 そう言うシンジの体は、震えだした。 「何言ってるのよ。いいからこっちに来なさいよ。会えば分かるでしょ。」 首を傾げてにっこりと笑うアスカに、シンジは首を横に振った。 「いや、駄目だよ。僕は騙されないよ。」 「あのねえ、どうしたら信じてくれるのよ。」 アスカは、眉をひそめた。 「僕が気の済むまで、アスカのことを調べさせてもらう。調べる手段や時間に制限は付け ない。それが絶対条件だ。」 「はいはい、分かったわよ。シンジが気の済むまで調べればいいわ。」 後でアスカはこの言葉を後悔することになるのだが、何とかシンジは自爆を思い止まった のである。 *** 「うわーん、アスカ! アスカ!アスカ!アスカ! うわーーーーーーーーーーん!」 シンジは、アスカに会うなり大声で大泣きした。アスカの胸に顔を埋めて、ワンワン泣き だしたのである。 「あのねえ、シンジ。恥ずかしいでしょ、離れなさいよね。」 アスカが引き剥がそうとしたが、シンジは思った以上に力が強く、引き剥がすことが出来 なかった。終いにはアスカも根負けし、泣き止むまでシンジの好きにさせることにした。 とはいえ、シンジがいつ泣き止むのか分からなかったため、カールにも手伝ってもらって ヘリで近くのホテルに移動し、そこの一番グレードの高い部屋で、シンジが泣き止むのを 待つことにした。だが、一向にシンジは泣き止まず、結局一晩中泣き続けたのである。 朝日が差し込む頃になって、ようやくシンジは泣きつかれて眠ってしまったが、アスカも 一晩中眠れなかったため、一緒になって眠ってしまった。 *** 「はっ!」 昼過ぎにアスカが目を覚ますと、シンジは既に起きてアスカの胸を揉んでいた。そして、 お約束というか、アスカは素っ裸だったのである。 「ちょ、ちょっと。アンタ、一体何をすんのよ!」 アスカが抗議すると、シンジは約束だからと言って、聞き入れなかった。 「本当にアスカなのか、これからじっくり調べるからね。」 「なっ…。」 一杯食わされたと気付いた時にはもう遅かった。シンジは、アスカの体を調べ始めたので ある。アスカはシンジを何とかなだめて止めさせようとしたが、シンジは聞き入れなかっ た。そこで実力行使しようとしたら、シンジにこう言われて思い止まった。 「僕を騙すなんて、酷いよ、あんまりだよ。これ以上騙すなら、本当に死んでやる!」 そこまで言われると、あまり強くは出られない。万一、再び初号機に乗って自爆されたら、 大変なことになってしまう。アスカも、今のシンジが普通の精神状態ではないこと位は分 かっている。しかも、その原因を作ったのはアスカだ。結局、シンジに悪いことをしたと 思ったアスカは、やんわりと抵抗するだけにした。もちろん、それでシンジの暴走を抑え られるはずもなく、それから丸一日、アスカはシンジに好きなように体の隅々まで調べら れてしまったのである。 「あ〜ん、お嫁に行けなくなっちゃう〜っ。」 そう言ってアスカが嘘泣きしても、シンジはこう言い返した。 「大丈夫。僕がもらうことになってるでしょ。それとも、約束破る気なの?」 このため、アスカは泣く泣く我慢するしかなかった。だが、不思議なことに、アスカはシ ンジに対して怒る気にはなれなかった。 なお、この時に何があったのかは、二人だけの秘密となった。後にこの日のことを聞かれ た時には、シンジがずっと泣き続けたことにした。もちろん、誰も疑う者はいなかった。 *** そして翌朝、シンジが起きる前にアスカは目が覚めた。アスカは、ルームサービスで朝食 を頼むとシャワーを浴び、身支度を整えるとシンジを起こした。 「シンジ、起きなさいよ!」 「う、うん…。」 シンジはのろくさと起き、アスカに言われてシャワーを浴びた。そして、シンジが服を着 て部屋に戻ると、朝食の用意が整っていた。 「さあ、シンジ。一緒に食べましょう。」 「う、うん…。」 シンジはテーブルに座って、黙々と食べ始めた。アスカも同じく無言で食べた。だが、食 後のコーヒータイムになって、アスカから話しだした。 「シンジ、昨日のこと覚えてる?」 「えっ。う、うん…。」 シンジは、自信がなさそうに答える。 「やっぱり、あまり覚えていないのね。シンジはねえ、精神が錯乱していたみたいなの。 だから、あまり記憶が無いでしょ。違う?」 「う、うん…。」 またもや、シンジは自信なさそうに言う。 「ごめんね。それもこれも、元はと言えばアタシのせいよね。シンジ、騙してごめんね。 アタシのこと、許してくれるかな?」 もちろん、シンジは直ぐにアスカを許した。 「もちろんだよ、アスカ。許してあげるよ。」 今度は、さきほどよりも力強く答えた。 「良かった。ありがと、シンジ。」 アスカはそう言うなり、シンジにキスをした。 「ア、アスカ…。」 シンジは最初は驚いていたが、直ぐに我に返ってアスカをベッドに押し倒し、強く抱きし めた。そして、アスカに頬ずりしながら言った。 「アスカ…。本当に死んだのかと思ったよ…。でも、生きてて良かった…。本当に良かっ た…。」 そう言いながら、またもや涙を流した。 「ふう、良かった。ようやく正気に戻った訳ね。昨日のシンジはどう見てもおかしかった もの。」 「だって、死んだと思ったアスカが生きていたから…。でも、信じられなくて…。」 シンジは、まだ涙を流している。だが、アスカはゆっくりと話し始めた。 敵の狙撃手の銃弾を事前にすり替えておいたこと。 リツコ特製の特殊な防弾チョッキを着て、いかにも撃たれたように見せかけたこと。 シンジに言うと芝居が見抜かれると思い、黙っていたこと。 情報漏れを防ぐため、秘密を知る人間はごく少数に留めたこと。 そのおかげで、ネルフ内部のスパイを突き止められたこと。 カールの情報や、狙撃手の情報などから、ゼウスの本部を突き止めたこと。 今までゼウスの本部に潜入していて、テロの動かぬ証拠を見つけたこと。 本来の作戦は、エヴァで陽動している間に、この本部を制圧する予定だったこと。 シンジの予想外の行動で、思った以上に簡単にゼウスが降伏したこと。 これから、ゼウスの犯した犯罪行為を、裁判などで暴いていく予定であること。 このアスカの話を、シンジは黙って聞いていたが、いつの間にか眠ってしまった。アスカ は深くため息をついた後、シンジの背中に手を回して目を瞑り、同じように眠りについた。 翌朝アスカが目覚めた時、二人は裸になって抱き合っていたが、アスカは嫌な顔はせずに シンジを軽く抱きしめた。 (目次へ)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき アスカの命を賭けた作戦は、見事に成功しました。シンジも、新たな力を得たようです。 シンジの暴走も、結果は吉と出ました。  なお、戦後の世界がどうなるのかという話は、次回以降に持ち越します。 2005.10.21  written by red-x



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