新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
第92.5話 勘違いと筋書き通り
「ランブロ様、悪い知らせです。」
暗い部屋の中で、声が響いた。
「なんだ、アリよ。」
アリと呼ばれた男は、苦々しい顔で報告した。
「ゼーレのカール将軍が、監獄の島から姿を消しました。」
その報告は、ランブロにとっても意外だったらしい。ランブロはーたちまち取り乱した。
「なっ、何だとっ!バ、バカなっ!いかに無能な国連だとて、男一人を監禁することすら
かなわなかったというのか。それとも、ゼーレの残党どもが助けたのか?」
「いえ、どちらでもないようです。カール将軍がいなくなった後も、監獄には混乱が一切
見られません。」
「それでは、ネルフはどうなんだ。本部に攻め入ったゼーレの将軍がいなくなったんだ。
今頃、慌てふためいて探しているだろう。」
「いえ、そのような気配もございません。カール将軍が姿を消しても、ネルフには全く動
揺している素振りは見られませんし、探している様子でもありません。」
「そんなことはあり得ない。もし、カール将軍がゼーレの残党を糾合してネルフに攻め入
れば、ネルフも無傷では済まないだろうに。その際、イカリシンジやカツラギミサトが死
んだら一体どうするんだ。」
「確かにそうです。ですが、私の掴んだ情報によると、そうはならないようです。カール
将軍を監獄から連れ出した者が分かったのです。」
「なに、一体どこのどいつだ。」
「葛城リョウジ。カツラギミサトの夫です。」
「バカな、あり得ん。奴らは敵同士ではないか。」
「そうは思います。でも、これは事実です。理由は分かりませんが、ネルフの諜報部長が
カール将軍を監獄から連れ出したのです。」
「葛城リョウジか。奴は以前、ゼーレのスパイをしていたとも聞く。まさか、ゼーレに寝
返ったのではなかろうな。」
「いえ、その可能性は皆無かと。カツラギミサトと結婚し、来年には子供が産まれるとの
こと。妻子を裏切ってまで、ゼーレに寝返ることはあり得ません。」
「しかし、碇ゲンドウがどんな理由で許可したのか。皆目見当がつかん。」
「確かにそうですが…。ランブロ様、しばしお待ちを。」
アリはランブロから目をそらして、携帯端末に見入った。
「ランブロ様。部下から新しい情報が入りました。葛城リョウジと共に監獄を訪れた者の
正体が判明しました。カオル・クインシーとウィチタ・スケートという少女達です。ウィ
チタは、エヴァンゲリオンのパイロット研修生です。カオルは普通の高校生のようです。
ですが、この二人には共通点があります。」
「何だ。」
「現在、第3新東京市に住んでいるということと、ある人物と同じ小学校、中学校の出身
だということです。」
「一体、誰だ?」
「惣流アスカです。」
「ということは、惣流アスカの差し金か。」
「ええ、その可能性があります。しかも、他にも色々な事実が判明しました。」
「なんだ?」
「カール将軍は、以前惣流アスカのガードをしていました。」
「何っ。カール将軍とは、あのカールと同一人物だったのか。」
「はい、そうです。幾度となく惣流アスカ暗殺の邪魔をし、ドイツにおける我々の拠点を
ことごとく潰した、あのカールだったのです。」
「そうなると、話は変わってくるな。惣流アスカは、幼い頃に自分を守ってくれたカール
を信頼しているだろう。恩も感じているはず。」
「そうです。それで、カツラギミサトにカールの助命を頼んだ。惣流アスカの姉を自認す
るカツラギミサトは、惣流アスカの頼みを聞き入れて、夫のリョウジにカールを連れてく
るように頼み、合わせて関係部署に根回しをした。」
「だが、碇ゲンドウがそんな理由で首を縦に振るわけがない。他に何か理由があるな。」
「おそらく、イカリシンジでしょう。実際にパイロットが殺されて、本部も襲撃されて、
自分達が危険だと考え始めた。そして、自分の周りにいる惣流アスカにも危険が及ぶと考
え、何とかして守ろうとした。それで、惣流アスカの命を何度も救っている実績のある、
カールの名前が浮上した。カールならば、惣流アスカも異論は無い。イカリシンジは、惣
流アスカのために必死で碇ゲンドウに頼み込んだ。」
「ううむ、なんとも安直な理由だな。いくらなんでも、碇ゲンドウが納得するか。」
「碇ゲンドウは、別の理由で認めたのでしょう。カールを通じて、ゼーレの隠し財産や有
益な情報を得ようとしているはず。理由はともあれ、カールを呼び寄せることでネルフの
主要人物の利害が一致したのでしょう。」
「しかし、我々の情報が漏れるのはまずいな。我々と今回の件のつながりに気付く者はい
ないとは思うが、カールなら気付く可能性がある。」
「そうなると、これ以上テロが発生するのはまずいですな。我々の総力を挙げて、サダム
フェダーインの行動を妨害しましょう。奴らに関する全ての情報をネルフに渡し、ネルフ
に奴らを叩かせるのです。そして、今後はテロの危険はないと思わせるのです。そうすれ
ば、カールがテロ防止の任務に就く可能性は低くなるでしょう。」
「だが、これで我々の行動も縛られるな。厄介なことになった。」
ランブロは、大きくため息をついた。
だが、もしこの会話を聞いていたならば、ある天才美少女が『筋書き通り』と、ニヤリと
笑ったであろうことを、二人と気付く由がなかった。
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あとがき
ランブロもアリも、アスカの能力を知りません。それ故の勘違いなのです。
2004.7.5 written by red-x