新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ
第54話 決戦!第3新東京市その4
「アスカちゃん,良い知らせだよっ!」
アスカの元に,シゲルから通信が入った。
「えっ,何があったんですか?」
「戦自から,ついさっき連絡が入ったんだ。正体不明の潜水艦を撃沈したそうだ。」
「場所はどこですか?」
「日本海側と,駿河湾と,両方だよ。」
「ふう,良かった。でも,まだ敵潜水艦がいる可能性が高いです。戦自に念入りに哨戒す
るように頼んでください。」
「ああ,葛城さんに言われて,もう頼んでるよ。」
「えっ,ミサトが。ミサトも,本調子になってきたのかしら。」
「ああ,嬉しいかぎりだよ。」
「じゃあ,また何かあったら,連絡してくださいね。」
「ああ,分かったよ。」
こうして,シゲルからの通信は切れた。
「ふう,良かった。ミサトも記憶を失う前の調子を取り戻しつつあるようね。」
アスカは呟いた。アスカは,ミサトの記憶が完全に戻っていないため,ミサトは飾り程度
にしか使えないと思っていたのだが,シゲルの話を聞くかぎりでは,十分使えそうである。
嬉しい誤算と言えた。
これは,アスカにとって,喜ばしいことだった。ミサトにエヴァンゲリオン部隊の指揮を
任せられるようになれば,アスカは指揮官の座から退くことが可能だからだ。
ハウレーンが復活したことでもあるし,ミサトかハウレーンのいずれかに指揮官になって
もらえばいい。アスカが指揮官になるのは,今回の戦い限りとなるだろう。そうなれば,
仮にゼーレとの戦いに今回でケリがつかなくても,シンジとの婚約を解消する必要性は無
くなるのだ。
アスカは,このことを聞いたシンジが浮かべるであろう,とびっきりの笑顔を想像して,
忍び笑いをするのだった。
***
「さあて,そろそろ時間ね。」
アスカは,エヴァンゲリオンのパイロット全員に対して,通信回線を開いた。
「みんな,ちょっと良いかしら。」
正面のディスプレイに,パイロット全員の顔が映った。
「これから,簡単に敵戦力のレクチャーを行うから,よっく聞いてね。じゃあ,相田,お
願いね。」
アスカに指名されたケンスケは,長々と話し始めた。無論,アスカと事前に調整済の話で
ある。
「みんな,良いかな。現在分かっている敵戦力について話すから,良く聞いて欲しい。北
東からロシア軍のものと思われる空母2にその他25隻の艦隊が向かっている。空母は,
2隻ともアメリカ軍の古い空母である,キティーホーク級という空母だ。艦載機は,推定
80〜100機だ。
東からはアメリカ軍のものと思われる空母1にその他15隻の艦隊が向かっている。空母
は,ニミッツ級という原子力空母だ。艦載機は,推定110機前後だ。
南西からはドイツなど,ヨーロッパ諸国の軍のものと思われる空母2にその他20隻の艦
隊が向かっている。空母は,2隻ともロシア軍と同じものだ。これも,艦載機は推定80
〜100機だ。
この敵戦力のうち,最も気をつけるのは戦闘機だ。ロシア軍の戦闘機はスホーイ33とい
う,とても機動性が高いのが主力だと思う。それ以外の性能は低いが,搭載する武器によ
っては脅威になり得るんだ。
アメリカ軍の主力戦闘機は,F-22ラプターという世界最高水準の高性能機だと思う。ステ
ルスといって,レーダーなんかでは中々見付けられないという特徴がある。それに,機動
性もピカ一だ。こいつには,十分注意してくれ。おそらく,簡単には撃ち落とせないと思
う。ちなみに,こいつは1機200億円以上するといわれているんだ。
EU軍の主力は,F-35という,F-22の廉価版の戦闘機だろう。だが,廉価版と言っても,
ステルス性能も高いし,機動性も高い。こいつにも十分注意が必要だ。それに,こいつは
ロシア軍にも配備されている。こいつは,1機50億円すると言われているが,値段の割
に性能は良いんだ。
他にも地上攻撃機や,戦闘ヘリなんかがあると思うけど,気を付けるのは戦闘機だけで良
い。さっき言った3機とも機動性が高いから,撃ち落とすのは至難の技なんだ。
特に,近寄られたら,ポジトロンライフルでは当たらないだろう。だから,なるべく遠い
所で撃墜したい所なんだけど,3機とも,数分でこっちに来る事が出来るんだ。
特に,F-22ラプターは他の戦闘機と違って,音速を超えて飛んでも,燃料消費量はあまり
増えないから,音速以上で来る可能性が高い。そうなると,凄く厄介なんだ。
だから,近寄って来たらATフィールドを張って,ポジトロンライフルを壊されないよう
に気をつけて欲しい。」
そこまで言うと,ケンスケは皆の反応を伺った。だが,特に質問も出なかったので,続け
て話すことにした。
「敵の最終目標は,おそらくMAGIの接収だ。実は,先日の作戦において,ゼーレの資
産の半分以上を分捕ったんだ。そのデータはMAGIにあるから,奴らは必死になってM
AGIを接収しようとするだろう。
そのためには,地上部隊が必要だ。だから,ここの周辺には,推定で2千人から10万人
の地上部隊がこちらの隙を伺っている筈だ。そんな馬鹿なと思うかもしれないが,空母5
隻の乗組員だけで推定3万人いるんだ。艦隊全部では10万人以上,20万人近い乗組員
がいるはずだ。だから,同じ位の規模の地上部隊があってもおかしくはないんだ。
これに対して,我々の地上部隊は,たかだか2千人位しかいない。普通に戦ったら,勝負
にならないんだ。それを互角の勝負に持ち込むには,エヴァと各種の兵器を最大限に活用
するしかないんだ。
だけど,敵はそれ位お見通しだから,最初にエヴァの動きを止めようとするだろう。エヴ
ァの動きを止める方法は,実は何通りかが考えられる。今は言えないけどな。
で,敵がそのような方法でエヴァの動きを止めようとする場合,特殊な弾頭を積んだミサ
イルをエヴァにぶつけようとすると思う。戦闘機から,潜水艦から,高高度爆撃機から,
地上部隊から,或いは想像も出来ない方法で,攻めてくるだろう。
だけど,裏をかえせば,そういうことをさせなければいいんだ。
そのためには,遠距離の敵は,砲手担当が落として欲しい。近距離まで敵が来たら,シン
ジ,トウジ,渚の3人で防いで欲しい。マリアさん,ミリアさん,ハウレーンさんは,傭
兵部隊と上手く連携して,地上部隊の侵攻を防いで欲しい。
明日みんなで戦勝パーティーを開いて,たらふく美味しいものを食べられるように,全力
を尽くして欲しい。俺の話は,以上だ。」
ケンスケが言い終わっても,誰も何も言わなかった。特にマリア達,軍事知識のある者ほ
ど険しい顔をしていた。シンジでさえ,険しい顔をしていたのだ。
さきほどのケンスケとの会話の中で,ゲンドウに対するわだかまりが殆ど消え,今回の戦
いに対する迷いを断ち切ったシンジは,いつの間にか戦士の顔つきになっていた。
***
「大変です,惣流さん。空母の艦載機が,発進準備を始めました。」
突然,アールコートが悲鳴を上げるように言った。
「ふん,大丈夫よ。」
アスカは素早く端末を操作した。
「よ〜し,照準はOKね。行っけーっ!」
アスカはにやりと笑った。実は,大島の周辺には,無人ミサイル群を配備していたのだ。
おそらくこの島の周辺に艦隊が集結するだろうという,アスカの予想によるものだった。
MAGIと連動した,有線誘導式の地対地ミサイル。それを金に糸目をつけずに短期間で
集め,500基ほど配備したのだ。1基当たり1億円としても,これだけでも,数百億円
もかかったのである。
これは,アスカがゼーレから膨大な資金をかすめ取ったからこそ出来た芸当である。武器
はタダでは買えないのだからしょうがないのだが。
「頼むから,アメリカ軍の空母は落ちてね。」
アスカの呟きを聞いて,アメリカ人のアールコートはちょっと頬を膨らましていた。
***
「やりましたっ!敵空母が撃沈しましたっ!」
シゲルは,ついつい大声で叫んでいた。発令所正面のメインスクリーンに,アメリカ軍の
空母が炎上している様子が映っている。今回の最重要目標のうちの一つだから,喜びも大
きい。
ミサイルが次々と敵空母に,敵艦艇にへと飛んでいき,激突して大爆発を起こしている。
無論,迎撃されるミサイルも数多いが,3割から5割位のミサイルが命中しているらしい。
「あっ,また空母が炎上しましたっ!これで2隻目ですっ!」
数発のミサイルの直撃を受けて,ロシア軍のものと思われる空母が炎上していく。空母の
弱点の一つに,高速で接近するミサイルに弱いということが挙げられる。このため,空母
の周りを各種艦艇が取り囲んで,敵の攻撃を防ぐつもりだったらしい。
だが,MAGIと連動したミサイル攻撃は,最初に周りの艦艇のうち,数隻を狙って炎上
させ,その合間を縫ってミサイルを叩き込んでいた。このため,炎上する艦艇が邪魔で,
他の艦艇がうまく壁になることが出来なかったのだ。そこを狙って,1隻当たり20発の
ミサイルが空母に襲いかかったのである。
敵の艦艇も懸命に防戦したが,不意を衝かれたのは大きく,数発のミサイル攻撃を受けて,
次々と撃沈していったのである。
こうして,ミサイル攻撃が終わる頃には,空母が4隻撃沈,艦艇も30隻が撃沈,16隻
が大破,残る14隻も無傷なものは無いという有り様であった。
「加持,やったわね。アンタの出番は無いかもよ。」
「ああ,こうも鮮やかに決まるとはな。アスカが敵じゃなくて良かったよ。」
「まあね。でも意外よねえ。映画じゃないけど,アスカこそが作戦部長に相応しいなんて,
本気で思ったわ。」
「そんな事は無いさ。少なくとも,使徒戦では葛城の作戦があったからこそ,俺達は生き
延びたのさ。アスカは,軍事についての知識は豊富かもしれないが,未知の敵に対しては
逆にそれが足かせになる。実際にそうだったじゃないか。」
そう,使徒戦の時のアスカは,軍事に詳しいが為に判断を誤ることが多かった。そして,
結構無様な失敗を繰り返していた。何も知らないシンジの方が,失敗が少なかった。
「そうねえ。でも,今はアスカの本領発揮って言う訳ね。」
「ああ。こっちに来る時も,アスカは空母の艦載機について,良くパイロット達に質問し
ていたよ。奴らも,可愛い女の子が聞くもんだから,うっかり機密事項までしゃべってい
たりもしたな。」
「そう,そんな事があったの。」
「ああ。その時のアスカは,軍隊との共同作戦も視野に入っていたしな。そうなると,人
の命がかかってくるから,アスカも必死だったよ。でも,アスカはそんな事は,人前では
微塵も感じさせないんだ。凄い娘だよ。それを見て,俺はこの子は違うなと思ったね。少
なくとも,恋愛の対象にはならなかったな。」
「何よ〜っ。それって,嫌味?」
「おいおい。お前とは,そうなる前に出会っていただろう。だから,条件が違うのさ。」
加持は,頬を膨らますミサトを説得するのに骨を折る破目になった。
***
「シンジ君,聞いてっ!良いニュースよっ!」
シンジのところに,急にミサトからの通信が入った。
「ど,どうしたんですか。」
「敵の空母が,4隻も沈んだのよ。」
「ほ,本当ですか。」
「ええ,それもアメリカの空母を沈められたのよ。残る1隻も小破していて,直ぐには戦
闘機を発進出来ないようよ。」
「そうですか,良かったあ。」
それを聞いて,ケンスケが割り込んでくる。
「本当ですか,ミサトさん。」
「ええ,本当よ。」
「これで,随分楽になります。正直言って,300機以上の戦闘機相手じゃ,とてもじゃ
無いですが勝ち目はないですから。これで,戦闘機は100機以下,うまくすると,50
機以下ということも有り得ます。」
「そういう事。じゃあ,頑張ってちょうだいね〜ん。」
ミサトは笑いながら通信を切った。
「シンジ,これは勝てる,きっと勝てるぞ。惣流は本当に凄いや。ここまで凄いとは思わ
なかったよ。お前には分かるか?」
「何だよ,いきなり。」
「惣流は,敵の金を分捕ってネルフのものにしただろう。それって,武器を購入するのに
必要だったし,敵も金を取り戻したいから,荒っぽい手段が取れない。そういう状況にし
たのが凄いんだよ。」
「そ,そうだね。」
同意したものの,軍事には疎いシンジに分かるわけもない。
「本当に凄いよな,惣流って。尊敬しちゃうよ。」
だが,ケンスケは知らなかったが,アスカは敵の艦艇の一部のコンピュータを操って,同
士討ちまでさせていたのである。このため,敵艦隊の混乱は大きく,直ぐには作戦行動を
取れない状態に陥っていたのである。
(第55話へ)
(目次へ)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ネルフの迎撃体制について
○発令所
・ゲンドウ,冬月,リツコ,マヤ,シゲル
・ミサト:全体の指揮(名目)・マコト:兵器の運用
・加持 :傭兵部隊の指揮
○アスカルーム
・アスカ:エヴァンゲリオン部隊の指揮,全体の指揮(実質)
・アールコート:アスカのお手伝い
○地上部隊
・市中心 レッドアタッカーズ1個中隊,ジャッジマンの部隊1個中隊
・東南東 エヴァ第1小隊:シンジ(現場指揮官,小隊長),ミンメイ(砲手),マリア
ワイルドウルフ2個中隊とカルロス中尉ら
・西南西 エヴァ第2小隊:カヲル(小隊長),サーシャ(砲手),ミリア
レッドアタッカーズ1個中隊とリッツ大尉,エドモン中尉ら
・真北 エヴァ第3小隊:トウジ(小隊長),ケンスケ(砲手),ハウレーン
ヴァンテアン1個中隊,レインボースター1個中隊,グエン中尉ら
2002.9.8 written by red-x