新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


第22話 婚約披露パーティー 前編


(あれっ,何だか気分が落ち着くわ。どうしてなの。) アスカは,ぼんやりとした頭で考えていた。 「トクン,トクン,トクン…。」 アスカの耳に,規則正しい音が聞こえてくる。 (この音を聞くと,何だか落ち着くわね。) アスカは,今日もシンジに腕枕をしてもらっていたのだ。 (さあて,今日もフィアンセらしく,おはようのキスでもしてあげようかしら。) アスカは,シンジにそっとキスをした。婚約した翌日から,アスカは毎日キスをしてシン ジを起こしているのだ。 「ふぁあああっ。ああ,良く寝たな…。」 シンジは,起きたと同時に,アスカに声を掛けてきた。 「アスカ,おはよう。」 「ええ,シンジ,おはよう。」 アスカも明るく返事をする。すると,シンジはアスカを腕に抱えたまま,くるりと半回転 し,アスカの上に覆い被さった。 「アスカ,大好きだよ。」 今度は,シンジの方からキスをしてきた。最初は口,そして頬,額…と,次々に場所を変 えてキスをしてきた。 (シンジったら,また調子に乗っちゃって。でも,今日はみんながいないし,フィアンセ になったんだから,ある程度は許してあげないといけないのかなあ。いつもシンジには, 我慢をさせてきたしね。) アスカは,少しだけシンジのなすがままにすることにした。 *** しばらくして,アスカとシンジは,一緒にシャワーを浴びていた。 「んもう,最後の一線は,超えちゃ駄目って言ったのに。」 アスカは,ぷりぷりしていた。 「ごめん,アスカ。アスカがあまりにも可愛いから…。」 シンジは謝る一方だ。シンジは,寝ぼけていたせいか,理性の歯止めが利かずに,最後の 一線を超えようとしていた。それを,我に返ったアスカが,寸前で押し止めたのだ。もし アスカが我に返らなければ,今頃二人は…。 シンジは,事の重大性に気付き,蒼白な顔をして謝った。さすがに,こんな日に,アスカ の機嫌を損ねるとまずいと知っていたからだ。 アスカは,必死に謝るシンジを見て,ちょっと言いすぎたかと気になった。 (こんな美少女を目の前にして,何もするなって言うのが無理なのかしら。それに婚約ま でしているものね。一緒に寝ないって言われるのも嫌だし,シンジも反省しているみたい だから,ここは優しくしておこうかな。) 「アタシも,無理なお願いだっていうのは分かっているけど,この歳でママになるのは嫌 なのよ。シンジ,アタシのことが好きなら,お願いだから分かって頂戴。ねっ。」 アスカは,両手を合わせて頬に当て,首を傾げてニコッと笑った。最近考案した『可愛く お願い』のポーズだった。 シンジは,アスカの優しい声と可愛い仕草に安心したのか,明るく返事をした。 「うん,これからは気を付けるよ。アスカのことが大好きだから。」 そう言うと,シンジはアスカを抱きしめた。 ***  今日は,加持の帰還とミサトとの婚約,アスカとシンジの婚約を祝うパーティーがある。 これらは,ネルフ職員にとって,サードインパクト後に起こった,数少ない明るいニュー スだった。そして,職員の士気高揚に大いに貢献すると考えた冬月の提案で,ネルフ関係 者のみを集めて,婚約披露パーティーを開催することになったのだ。 パーティーは夜からであるため,時間の心配は無かった。夕方に,この家に皆が集まり, 揃ってネルフへ行くことになっていたのだ。 だから,ヒカリやユキ達が朝はいないため,アスカ達は慌てることなく,起きることが出 来たのだが,シンジのせいで,二人は余計な時間をかける破目になっていた。シャワーか ら出ると,素早く二人は着替えた。そろそろユキが来る時間だからだ。 「おはようございま〜す。」 ユキは,いつも通りの元気な声で,アスカの部屋に入ってきた。いつもと同じく,間一髪 である。 「おはよう,森川さん。」 「おはよう,ユキ。」 アスカとシンジは,二人同時に返事をする。 「まあ,今日も,仲のよろしいようで。」 ユキはウインクする。 「ん,もう。今,シンジが起こしに来てくれたのよ。」 アスカは,毎回のように言い訳する。 「あっ,惣流さん,下着が脱ぎっぱなしですよ。床に落ちてますよ。」 ユキの言葉に,アスカは今日も平然としていたが,シンジは今日も引っかかって,大慌て となった。 「えっ,どこにあるの。どこどこ,教えて。」 そう言って,シンジはおろおろした。 (あちゃあ。何でいっつも引っかかるのよ。思いっきり誤解されちゃうじゃない。) アスカは,頭を抱えそうになった。下着が脱ぎっぱなしだったら,アスカは素っ裸になっ ているはずなのだが,シンジはそんなことにも気が付かないようだ。そんなシンジを見て, ユキはにっこりして言った。 「冗談ですよ。」 それを聞いたシンジは,またもや頭の中が真っ白になった。 「大丈夫ですよ。みんなには黙っていますから。」 ユキは再び微笑んだ。 「はいはい,漫才はそこまで。シンジもユキをからかわないこと。」 アスカは,昨日から用意していたセリフを言うと,シンジに対してウインクした。シンジ もさすがに落ち着いて,思い出したらしい。 「駄目だよ,アスカ。森川さんって,本気にしていたんだから。」 それを聞いたユキは,肩をすくめた。 「あら。碇君も真に迫っていたのに,演技だったのね。がっかりだわ。」 こうして,アスカはユキをまんまと騙して,朝食へと突入した。 「おっはよ〜。」 「おはようございます。」 アスカとシンジは同時に朝のあいさつをする。これに対して,ミサトは気のないあいさつ を返してきた。まだ眠いようだ。これに対し,リツコはしっかりとした返事を返してきた。 「は〜い,みなさん,今朝は,ピザトーストですよ。」 ユキの声にテーブルの上を見ると,数種類のピザトーストが並べてあった。チーズの上に は,コーンやサラミといったトッピングが何種類か乗っかっていた。コーンスープとコー ヒーも人数分あった。 こうして,家族4人+ユキで朝食を摂ることになったが,今朝も昨日と同じように,アス カが一人がしゃべりまくることになった。だが,シンジも,ユキも,リツコもニコニコし ていた。そう,みんなアスカのことが好きなのだから。 一人ミサトだけが寝ぼけて,ボケッとしていた。  朝食が終わり,コーヒータイムになると,話題は,今日のパーティーをどうするのかと いう事になった。シンジはネルフでの訓練を休み,アスカと一緒に行く。加持はネルフで 仕事をする必要があり,ネルフで合流だ。リツコはミサトの着付けの手伝い,ユキはアス カの手伝いである。残るトウジ,ケンスケ,ヒカリは,アスカ達の準備が終わった頃にや って来る手筈である。 アスカは,ケンスケが来るのは,ビデオ撮影のためだとシンジ達に説明した。ケンスケは, 今ではネルフに所属しているが,まだシンジ達には秘密なのだ。 それを誤魔化すために,今回は,ユキをケンスケの助手として,パーティーに呼んである。 いつも留守番ばかりで申し訳ないとの配慮と,何とかケンスケとくっつけてやろうという 魂胆とがあるのだが。 *** 「アスカ,本当に綺麗だよ。」 ドレスを着たアスカを見て,シンジは目を細めて言った。ただでさえ,美少女であるアス カであったが,正式なドレスを着て,きちんと化粧をしたアスカは,並の女優など問題に ならない位に美しかった。ネルフの中で,アスカの取り合いが起こるのも無理はない。 「へへへへへっ。ありがとっ,シンジ。」 (へへへへへっ。シンジったら,思ったことをそのまま言えるようになったのね。以前よ りも進歩したわね。ちょっと,恥ずかしいけど。) アスカも,満更ではないのか,機嫌が良い。側にいるユキが二人の熱気にあてられて,顔 を赤くしていても,気付かないほどだ。 対するミサトも,青を基調としたドレスで,これまた普段のミサトからは想像も出来ない ほど綺麗だった。 「ミサトさんも,とっても綺麗です。」 「あ〜ら,シンちゃん,ありがとう。アスカとどっちが綺麗?」 「僕にとって,アスカ以上に思える女性なんていません。もちろん,アスカです。」 「あら,良かったわね,アスカ〜。」 ミサトがアスカをからかうが,アスカも負けていない。 「加持さんも,おなじように言ってくれるかしら。ミサト,賭けてみるう?」 「うっ。」 ミサトは,声が詰まってしまった。加持だと,一体何を言うのか,想像もつかないからだ。 だから,迂闊に賭けなど出来ないのだ。 「賭けるまでも無いってことね。アタシの勝ちね。」 アスカは勝ち誇る。 「ふ〜んだ。アスカも性格悪くなったわね。」 「あ〜ら,いつ昔の記憶が戻ったのかしら。記憶喪失っていうのは,加持さんを引っかけ るための嘘だったのかしら。」 「ア・ス・カ。あんた,ちょっと言い過ぎよ。お姉さんは悲しいわ。」 そう言ってミサトが手で顔を隠しながらイヤイヤすると,シンジはクスクス笑った。 「何よ,シンジ。アタシの味方じゃないの?」 アスカがシンジを睨んだが,シンジは笑って首を振った。 「ううん,ミサトさんが,元に戻ったんで,嬉しいんだよ。」 シンジがそう言ってニッコリすると,ミサトは急に笑顔になった。 「あ〜ん,やっぱりシンちゃんはいい子ね。お姉さんは嬉しいわ。」 そう言ってミサトがシンジに抱きつこうとしたので,シンジは慌ててよけた。 そうこうしているうちに,ケンスケ達がやって来た。ケンスケは,目を輝かせてアスカと ミサトの写真を撮りまくった。今日撮る写真は,ミサトの分については,アスカから販売 許可が出ていたのだ。もちろん,アスカの下僕になった見返りである。 「いやあ,やっぱり,二人とも綺麗だよ。被写体として,申し分無いね。」 ケンスケはニコニコしながら,写真を撮る。ケンスケは,中学校が再開された後,ミサト の人気が上がることを見越しており,写真がどれだけ売れるものかと想像していたのだ。 また,アスカを誉めて,後々の自分の待遇を良くすることも考えてのことである。 「いやあねえ。お姉さんをからかって。」 ミサトが嬉しそうな顔で言う。嫌だと思っていないのが,誰にでも分かるほどだ。 そんなのんびりとした雰囲気の中,リツコだけが冷静だった。 「あら,そろそろ時間ね。」 その言葉に,皆が時計を見る。確かにそろそろ出かけないと,遅刻する可能性がある。皆, 慌てて出かけることになった。 *** 「うわ〜っ。広いですね。」 ユキは一人感心していた。ネルフに来るのも初めてだし,こんなに広いホールも初めてだ った。しかも,会場のテーブルの上には,和洋中の料理が所狭しと並んでいる。基本的に 立食だが,ホール脇には椅子がたくさん並んでいる。 「森川さん,感心していないで,写真,写真。」 ケンスケがユキを急かす。ケンスケにとっては,ネルフの着飾った美女達を,一人残らず 写真に納めたいのであろう。だが,ユキはそれを友達思いで責任感が強いからと勝手に思 い込んでいた。ちなみに,ケンスケは主にビデオ撮影を,ユキが写真撮影を担当していた。 「ごめんなさい,相田君。今行きますね。」 そう言いながらも,ユキはサンドイッチを少々持って行った。空腹だともたないと思った のだろう。ユキは両手のふさがっていたケンスケの口に,半ば強引にサンドイッチを詰め 込んだ。 「フガフガ。」 急なことに,ケンスケは慌てて何かを言おうとするが,声に出せない。 「腹が減っては戦は出来ぬって言いますよ。食べながらでも,撮影は出来ますから。」 そう言ってユキが微笑む。ユキの白い指が唇に触れたため,ケンスケは,ちょっと赤くな ったが,直ぐに気を取り直して,撮影を開始した。 「あっ,相田君!お願い,こっちに来て!」 ケンスケとユキは,アスカに呼ばれたため,いつもと口調と声色が違うことに,違和感を 感じながらも,慌ててアスカの元へと向かって行った。 ***  婚約披露パーティーは,ホテルで開くことも考えられたが,警備の都合もあって,ネル フ内で行うことに落ち着いた。その代わり,ホテルの料理人を2日も拘束する破目になり, 少々値段に響いた。2日も拘束する破目になったのは,身辺調査や身体検査などをかなり 念入りに行ったせいである。誰かが他国の工作員の侵入を妨害しているらしいとはいえ, ここで何か起きたときの影響を考えると,慎重すぎるということはないだろう。 だが,悪いことばかりではなかった。ネルフ内で開くことから,交代で全員参加が可能に なったのだ。これは思わぬメリットであった。しかも,有事の際は,即座に全員が対応可 能なのである。そのうえ,パーティーの時間の制限が無かった。このため,当初は2時間 と予定されていたパーティーが,結局5時間以上に及ぶことになるのだが。 (第23話へ)

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  アスカとシンジの部屋は下の通りになりました。 ミサト家の間取り図 2002.1.27  written by red-x



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