新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のフィアンセ


(シンジが、アタシを愛しているなんて、信じられない。あのファ−ストよりもアタシを

選ぶなんて。天国よりも、地獄を選ぶなんて。でも、もし本当なら、シンジは、少なくと

もアタシを必要としているのね。アタシは一人じゃないんだ。一人じゃ…。)


第6話 地獄を選びし者


(あれ、なんだか変な感じがする。)

アスカは、何故か体中に違和感を覚えていた。

(あれ、なんだろう。)

だが、アスカは朝弱いため、まだ、頭が朦朧としている。

(あれ、背中があったかくて良い気持ち。何でだろう。)

次第にアスカの頭がはっきりしてくる。

(あれれ、何かが胸に当たっている。何だろう。)

アスカは目だけを動かし、自分の胸を見た。すると、手が2本見えた。

(あれ、この手は誰の手。)

良く見ると、どうも男の手のようだ。

(え、ええっ。何でこんなとこに男の手があるのよ。背中があったかいし。あれ、誰かに

抱きしめられているみたい。ま、まさか…。)

アスカは冷や汗をかいた。

(まさか、アタシ、シンジと寝ているの?しかも、後ろから抱きしめられているの?)

急にアスカの頭がはっきりしてくる。

(シンジの奴、アタシに夜這いをかけたんだ。信じられない!後でコロス!)

アスカは頭に血が昇った。

(ちくしょう、アタシがぐっすり寝ているのをいいことに、いい気になりやがって。絶対

コロス!シンジの奴、どうしてやろう。まだ起きていないみたいだけど。)

アスカは怒りに燃えながらも、これからどうするか考えた。

(このままじゃすまさない。優しくしたら、つけあがりやがって。やっぱり、男なんて、

バカでスケベなんだ。ちくしょう。コイツに地獄を見せてやる。地獄…。あれ…、そうい

えば、冬月副司令が何か言ってたっけ。)

アスカは昨日の出来事を急に思い出した。

***

 昨日、チルドレン達が解散した後、シンジはマヤの所へ行ったため、アスカは一人休憩

室でシンジを待っていた。そこに、冬月が来たのである。

「あ、副司令。どうしたんですか。」

アスカが尋ねると、冬月は優しい笑みを浮かべて言った。

「実は、アスカ君にお願いがあってね。シンジ君のことなんだが。」

「碇シンジですか。」

アスカは何のことかと頭を捻った。

「シンジ君の精神状態は、今は極めて不安定な状態なんだよ。だから、アスカ君に側に付

いていて欲しいんだ。」

「精神状態が不安定?彼がですか。」

アスカはまたもや頭を捻った。

「そうか、アスカ君は知らなかったね。」 冬月は、そう言ってシンジに最近起きた出来事を語りだした。

 アスカが使徒の精神攻撃を受けた時、シンジが出撃を願い出たが却下されたこと。綾波

レイのクロ−ンがリツコに破壊されるのを見て強いショックを受けたこと。アスカが行方

不明になって心配したこと。フィフスチルドレン=最後の使徒と仲良くなったこと。その

使徒を握りつぶして倒したが強いショックを受けたこと。シンジを助けてミサトが死んだ

らしいこと。ズタズタにされた弐号機を見て気が狂いそうになったこと。サ−ドインパク

トが起きた時カヲルやレイに別れを告げて戻ってきたこと。アスカに嫌われているかもし

れないと思い込んでいること、などであった。

「私の知らない間に、彼にはそんな事があったんですか。」

アスカはあまりにもショッキングな出来事がシンジに起こったことに、驚きを感じた。

「ああ、大人でもあれだけのことがあれば、普通ではいられないだろう。ましてや、あの

シンジ君だ。精神的にかなり参っていて、不安定なはずだ。」

「でも、私の前では、そんな素振りは見えませんでしたが。」

「逆に言えば、アスカ君の前では精神が安定しているということだよ。」

「にわかには信じにくいのですが。」

「シンジ君はアスカ君のことを愛している。それが理由だ。」 「は?彼は、私のことが好きではありません。私は彼に厳しく接して来ました。ですから

そのような感情が生じることは有り得ません。」

アスカはそう言いながら、今までシンジに対して行ってきた仕打ちを思い出していた。機

嫌の良い時はこき使い、機嫌の悪い時は八つ当たりをし、当たり散らし、酷いことばかり

してきたと自覚していた。

「シンジ君は、サ−ドインパクトが起きた時、天国とも言える場所に辿り着いた。誰もシ

ンジ君を傷付けず、他人を傷付けることのない、シンジ君にとっては、正に天国と言って

も良い所だった。しかも、レイ君やカヲル君がいた。しかし、シンジ君は自分にとって、

地獄とも言えるここに戻ってきた。他人に傷つけられ、他人を傷つける可能性があるここ

に。他人の恐怖があるここに。何故だかわかるかね。」

「いえ…全くわかりません。もし、そのような世界があって、ファ−ストがいたなら、彼

にはこちらに戻って来る理由は無いと思います。」

アスカには本当に分からなかった。

「本当に分からないのかね。」

「はい…。」

「では、言おう。その天国には、アスカ君がいなかった。それが全てだよ。」

「う、嘘…。それじゃあ、彼は…。ま、まさか、そんなこと…。有り得ません。私は、彼

に酷いことばかり言ってきました。ですから、そんなことは…。」

「無いと言うのかね。では、サ−ドインパクト後、シンジ君が目覚めた時に、アスカ君が

側に居た。これをどう説明するのだね。」

「えっ!」

アスカにとって、それは初耳だった。アスカには、サ−ドインパクト後の記憶は、病院か

ら始まっているからだ。

「信じられないかもしれない。だが、事実だ。」

「で、でも…。」

「シンジ君は、天国からいわば地獄に戻ってきた。戻った時に、アスカ君が側にいた。そ

して、シンジ君は今もアスカ君の側にいようとしている。分かるね。」

アスカは、自分が目覚めた時のシンジの顔を思い出した。シンジは涙を流して笑っていた。

「そのことは否定出来ませんが、しかし、彼は私を家族のように思っているだけで、私を

愛しているとまでは言えないと思いますが…。」

冬月は、アスカの言葉に苦笑した。二人揃って何て鈍いのだろうと頭を抱えた。

「アスカ君には、信じられないようだね。では、分かり易く言おう。」

「はい。」

「シンジ君は、アスカ君のいない天国よりも、

アスカ君のいる地獄を選んだんだ。」

「ま、まさか…。」

それを聞いて、アスカは体中に強い電流が走ったような衝撃を受けたような気がした。

「これが何を意味するのか、分からない君でもあるまい。分かるね。シンジ君は、

アスカ君のことを心から愛しているんだ。

アスカは、いつの間にか、自分の頬に涙が伝わっていることに気付いた。

(シンジが、アタシを愛しているなんて、信じられない。あのファ−ストよりもアタシを

選ぶなんて。天国よりも、地獄を選ぶなんて。でも、もし本当なら、シンジは、少なくと

もアタシを必要としているのね。アタシは一人じゃないんだ。一人じゃ…。)

「でも、でも、そんなことは有り得ないんです。私は、彼に嫌われるようなことばかり言

ってきました。本当に酷い言葉を浴びせてきました。ですから、私が好かれることは有り

得ないんです。」

冬月はそんなアスカに、頭痛を覚えながらもこう言った。

「アスカ君、今度機会があったら、エヴァに乗ってマグマの中に手を入れてごらん。」

「はあ?」

アスカは、冬月の意図が分からなかった。

「D型装備無しでマグマの中に入ると、生身で100度の熱湯に入るのと同じ位の激痛が

体に走るらしい。以前、赤木君にそう聞いたことがある。」

「それが、どうかしたんですか。」

「分からないかね。嫌いな人間のために、シンジ君がそんなことまでするかね。」

「あっ。」

ようやくアスカも冬月の言いたいことに気がついた。

「シンジ君も鈍いようだが、アスカ君も相当なものだよ。言われなければ、気付かないの

かい。」

アスカは赤面した。

「シンジ君は、碇と同じように、言葉で表現するのが下手くそだ。だから、行動を見てや

って欲しい。裏を返せば、シンジ君は言葉で無く、行動で相手を判断する。きっと、アス

カ君の行動の中に惹かれる所があったんだろう。アスカ君さえ気付かない所に。」

「でも、私には本当に信じられません。」

「ここだけの話だが、私はシンジ君に、アスカ君を好きなら、はっきり伝えなさいと言っ

たんだよ。そうしたら、シンジ君は何て言ったと思う。」

アスカは少し考えてから答えた。

「『誤解ですよ』とでも言ったんではないでしょうか。」

「いや、シンジ君は、『僕はアスカに好きなんて言う資格なんか無いんです。』そう言っ

て泣いたんだよ。」

「えっ、な、何で…。」

(え、う、うそ…。)

「シンジ君は、アスカ君に酷いことばかりしてきたと思っているんだよ。だから、嫌われ

ていると思い込んでいるんだ。アスカ君と同じだよ。」

「そんな、馬鹿な。彼は、私に酷いことなんてしていません。」

「でも、シンジ君はそう思っているよ。実際、私にはそう言っていた。」

「そんな…。」

「シンジ君の思っていることは、誤解かね。」

「ええ、そうです。大きな誤解です。」

「では、アスカ君の思っていることも、誤解かもしれない。違うかね。」

「否定は…、出来ません。」

「アスカ君、この際だから、教えて欲しい。シンジ君のことが好きかね。それとも嫌いか

ね。」

アスカは少し考えたが、ゆっくりと答えた。

「嫌いじゃありません。ですが、好きと言い切れるかどうかは分かりません。すごく気に

なる存在ではありますが。でも、私は彼に本当に嫌われていないんでしょうか。私は、言

いにくいのですが、彼の優しさに甘えて、わがままばかり言って、彼を困らしてばかりい

ました。自分のプライドを守るため、彼に八つ当たりをしたのも、一度や二度ではありま

せん。それなのに、彼は許してくれるのでしょうか。」

「それは私が保証しよう。アスカ君もそうだが、嫌いな人間と一緒に住みたいと思うかね。

嫌いな人間のために料理なんか作るかね。良く考えれば分かることだよ。アスカ君が分か

らないということは、それだけ気持ちに余裕が無いということかもしれないが。」

「そうですか。良かった。」

アスカはそう言うと胸をなで下ろした。

冬月はそれを了解と解釈し、言葉を続けた。

「分かってくれたかね。シンジ君にとって、アスカ君は特別なんだよ。だからといって、

アスカ君にシンジ君を愛するようにとは強制出来ない。ただ、シンジ君の精神が安定する

まで側に付いていて欲しいんだ。そして、出来ることなら、少しでいいから優しくしてあ

げて欲しい。頼む。」

そう言うと、冬月は頭を下げた。

「副司令、そんな、やめてください。私と彼は、血が繋がっていなくても家族です。彼が

否定しない限り、側にいます。それに二人で約束したんです。ミサトさんの帰りを待とう

って。ですから、頭を上げて下さい。」

そう言うと、アスカはにっこりと笑った。

冬月はその言葉を聞いて、顔に安堵の色が浮かんだ。

「アスカ君、勝手なお願いで申し訳ないが、本当に頼む。彼は、本当につらい経験をした。

彼が経験したことは、君の言う『生き地獄』よりも、さらに過酷なものだったんだ。それ

を分かってやって欲しい。」

「分かりました。でも、私は自分の意思で彼の側にいるつもりです。安心して下さい。」

「そうか。安心したよ。」

冬月はにこりと笑った。

***

(そう言えば、あんな事があって、シンジに少し優しくしようと思ったのよね。でも、す

っかり忘れてたわ。このまま、問答無用でコロスのはちょっとまずいわね。そうだ、シン

ジが起きたら、何をしたのか、問い詰めよう。シンジは単純だから、問い詰めればゲロす

るはずね。少し冷静になれば、事実関係の把握が重要なんてこと、分かりきっているのに、

アタシもまだまだ駄目ね。)

アスカがそんなことを考えている中、タイミング良く、シンジの目が覚めた。

***

「ふぁあああ。」

シンジは大きなあくびをする。

「ああ、良く寝たな…。」

「アンタ、何でアタシの隣で寝ているのかしら。理由を聞きたいわね。」

おそろしく冷たい声がした。

「え、アスカ、おはよう。」

シンジからは、アスカの顔が見えないので、とりあえず無難な返事をした。

「シンジ、何でアタシと一緒に寝てんのよ。聞かせてもらおうじゃない。」

「覚えていないの。」

「覚えてない。」

(えっ、コイツ、慌てていない。おかしい。何故。)

「昨日の晩、僕が寝ていたら、アスカが急に悲鳴をあげたんだ。」

「ほ−っ、それで。」

(ゲッ、ホント?)

「僕が近寄ったら、アスカが泣いてて、一緒に寝てくれって頼んだんだ。」

「あっそ。それで。」

(え〜っ、嘘でしょう。)

「『お願いだから、後ろから抱きしめて。』なんてアスカが言うから、言う通りにしたん

だよ。」

「それで。」

(絶対、嘘だ。)

「これで全部だけど。」

「ふうん、アタシがそんな作り話を信じると思っているの。正直に言えば、軽い罰で許し

てあげるかもしれないわよ。」

(こいつ、でまかせの嘘を言うなんて。)

「ほ、本当だよ。アスカは本当に覚えてないの。」

「記憶に無い。」

(こいつ、まだ言う。)

「そ、そんなあ…。」

「他に言う事はないのね。じゃあ、判決を言い渡すわよ。アンタ、死刑!」

(本当の事を言えば、許してあげたのに。まあ、1回こっきりだけど。)

「ええっ!そんなあ。」

「正直に言わなかったからよ。」

(アタシは嘘つきは嫌いなのよ!)

「そうか、信じてくれないんだね。いいよ、それなら。でも、アスカがそこまで言うなら、

僕にも考えがあるよ。」

「はん、なあに。言ってみなさいよ。」

アスカはシンジが何かいやらしい事を言うと思った。だが、シンジの口から出た言葉は、

アスカの予想を完全に裏切った。

「もう、いくら頼まれても、アスカとは寝ない。絶対だよ。それでいいね!」

(えっ、コイツ、何言ってんの。アタシがそんなこと頼むわけないじゃない。でも…)

「シンジ、アタシがそんなことで困るとでも思っているの。」

「思っているさ。今晩もアスカは悪夢を見て、僕に助けを呼ぶよ。でも、もう助けに行か

ないからね。全部アスカが悪いんだからね。」

アスカは、シンジにそこまで言われて考えた。

(う〜ん、シンジが嘘を言っているようには思えないわね。かといって、理由もなく許す

のもしゃくだし。そうだ!)

「アタシ、本当に覚えていないのよ。でも、少しだけアンタを信じてあげる。病院で看病

してくれたしね。だから、アタシが昨日のことを思い出すまでは、執行猶予にするわ。」

「え−っ、無罪じゃないの。」

「どうしても無罪がいいなら、それでもいいけど、そうすると、さっきからアタシの胸に

触っているこの手は、言い訳の余地無く有罪よ。それでもいいのね。」

「あっ!」

シンジは慌てて自分の手を引っ込めようとしたが、もう遅かった。アスカにガッチリ手を

掴まれてしまった。したがって、シンジの両手は、アスカの胸に乗っかったままである。

シンジは自分の愚かさを悔やんだが、もう遅い。

「どうすんの!」

アスカが容赦なく言う。

「執行猶予でいいよ。」

シンジはアスカに力無く言った。

「じゃあ、アタシの言うことを何でも聞くのよ。聞かなかったら執行猶予は取り消し!」

「ええっ、そんなあ。」

「いいの、もう決まり!」

「とほほ。」

「アタシに逆らうなんて、100万年早いのよ、シンジのくせに。」

「はあ…。アスカにはかなわないや。」

「あれ、今何時。え、6時半。じゃあ、後30分したら起きるのよ。いいわね。」

「え、でも、このままでいいの。」

「後30分よ。い・い・わ・ね!」

「うん、わかったよ。」

シンジの両手は、まだアスカの胸の上にあったが、シンジにとって悪いことでは無かった

ので、逆らうのはやめた。

***

 その後、アスカはひどく後悔していた。

(はあ、何でアタシったら気がつかなかったんだろう。シンジの手はアタシの胸の上に乗

ったままじゃないの。シンジの固い所もアタシにくっついたままだし。あ〜ん、気持ち悪

いよぉ。でも、一回言ったら引っ込みつかないし。あ〜ん、アタシったら、ドジばかりし

てる。でも、シンジに後ろから抱かれるのは、何か気持ちが落ち着くのよねえ。まあいい

わ、7時までの我慢ね。)

 結局、二人は7時まで、そのままの格好であった。なお、起きた時にシンジが裸なのに

気付いたアスカが、シンジの膨張した股間を蹴りあげたのは言うまでもない。

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2001.10.10  written by red-x

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